顧客を感動させるサービスは従業員の「内発的動機」から生まれる
マニュアルのないスターバックスは、
なぜエンゲージメントを高められるのか(前編)
スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社 人事本部 人事部 部長
久保田 美紀さん
日本人の価値観は「モノ」よりも「体験」へ
「つながり」は、スターバックスが独自のサービスを提供する上で欠かせない要素なのですね。他社との差別化にもつながるこうした要素は、創業当初から変わらないものなのでしょうか。
基本の考え方は変わらないのですが、その表現方法は時代に合わせて少しずつ変化しています。現在、スターバックスではブランドの差別化要因を五つに定義しています。
一つは「Coffee Passion」。コーヒーへの思い、情熱です。これにはコーヒーそのものへの思いはもちろん、生産者への思いも含まれます。コーヒー生産国のほとんどは、いわゆる開発途上国といわれる国々です。過酷な条件の中で品質の高いコーヒーを栽培している生産者の思いをどうお客さまに伝えていくか。それを常に考えています。
二つ目は「Thoughtful Food」。フードへの思いです。スターバックスが大切にしているのは思いやりのある、心を込めたフード。例えば店舗で提供しているスコーンなども、形が均一ではなく、ちょっとゴツゴツしていて、手作り感があります。
三つ目は「Personalization」。カスタマーへの思いです。一人ひとりのお客さまに応える形で、パーソナルなサービスを提供すること。店舗にはビジネスパーソンやベビーカーを押すお母さん、就職活動中の学生さんなど、さまざまな方がいらっしゃいます。目の前にいる一人ひとりのお客さまに合ったサービスを、個別に提供していくことが大切です。
四つ目が「Connecting Humanity」。コミュニティーへの思い。各店舗では、自分たちがどのように地域のコミュニティーとの関係性を築き、人々が集う場として役に立てるのかを考えています。
そして最後に、「Engaged Partners」。こうした考えに共感してくれるパートナーの存在です。スターバックスの価値観を表現していくのはあくまでも人。表現することに強い情熱を持った人々のつながりが大切だと考えています。
これらはグローバルのスターバックスで再考されたもので、日本では2011年に導入されました。あわせて、根本的なブランドプロミスも見直され、「つながりの瞬間(Moments of Connection)」となりました。コーヒーを通じて心からつながりを感じる時間を生み出すことで、お客さまや私たちだけでなく、世界の明るい未来につながるという考え方です。
導入の年、2011年は、震災によって日本人の価値観が大きく変わった年でもありました。震災や津波によって多くのものが失われ、「何を手に入れるか」という物質的な価値よりも、「どのように生きるか」という本質的な価値がより重視されるようになったように思います。本当の価値はモノではなく、体験にあるのではないか。スターバックス本社でも、改めて私たちの提供する価値とは何か、それを世の中にどのように発信すべきか考えられていて、ブランドプロミスとそれを取り巻く五つの差別化要因が発表されたのは、ちょうどそんなタイミングでした。