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となりの人事部
日本の人事部「HRアワード2014」受賞者インタビュー
第57回 伊藤忠商事株式会社

「多残業体質」から脱却し、
効率的な働き方を実現する「朝型勤務」(前編)

―― 業務効率化を通じて、生産性の向上とお客様対応を徹底する[ 2/2ページ ]
人事・総務部 企画統轄室長 垣見俊之さん
2015/1/19

「残業」が減らない理由、削減に向けての取り組み

―― 残業が減らない理由は何なのでしょうか。

当社の状況を鑑みると、主に三つの理由に整理できました。一つ目は、そもそも業務効率が悪いこと。日中の業務効率が悪いことに加え、夜のダラダラ残業があった事は否めません。二つ目は、残業代が生活費化していること。「残業を削減する」と言うと、総論は賛成だけれども、各論では困るという実態がありました。三つ目は、付き合い残業の横行。上司や他の社員が残っているのに、自分一人だけが帰ることに気が引ける、という日本人的なメンタリティーです。この三つに手を付けない限りは、残業は減らないと考えました。朝型勤務をすると割増賃金が払われるという事で二つ目の理由への対応を図りましたし、朝は付き合い残業はできませんので、そもそもその懸念は払拭できると考えたわけです。

―― 「朝型勤務」が導入されるに際して、トップの決断があったと聞きました。

岡藤社長からは、「夜の残業はダラダラしている。朝、すっきりした頭で仕事をした方が効率的だ」と、自分自身の体験を踏まえ、以前から指摘をされていました。若い頃、毎晩夜遅くまで残業している組織があったそうです。課長自らが夜10時、11時まで残っているような状態でした。一方、隣の組織の課長は夜6時になると、率先して帰っていたといいます。当然、課のメンバーも早く帰ることになり、残業はほとんどない状態でした。では、早く帰って何をしていたかと言うと、繊維の部隊だったので百貨店に行ったり、皆がどんなファッションに興味を抱いているのかの調査を兼ねて飲みに行ったりと、現場に足を運んでいたそうです。業績は、後者の方が良かったそうです。そういった考えから「割増賃金を払ってでもいいので、朝型勤務にせい!」という指示がありました。これが2013年5月のことです。

その後、3ヵ月近くをかけて残業が減らない理由や朝型にシフトするための仕組みを整理し、「朝型勤務制度」の概要を固めました。そして、2013年7月末の経営会議で内容が承認され、8月初旬には公表し、10月から翌年の3月末までの6ヵ月間、トライアルで実施することになりました。また、同時に人事・総務部において、8月~9月の2ヵ月間、具体的な取り組み内容を一気に進めていきました。

―― その2ヵ月間には、どのようなことがあったのでしょうか。

垣見俊之さん Photo

最初に、労働組合への提案です。労組が正式に合意するには、相当な期間を要することは容易に想定できましたので、今回はトライアルでまず半年間行い、その結果を踏まえて、正式導入するかどうかを決めるという提案を行いました。

続いて、社員説明会です。国内の支社・支店を全て回って、今回の取組みの趣旨や概要、社員にお願いしたいことを説明しました。説明会は15回以上行いました。社員には必ず出席するよう、事前に告知しました。また、今回の「朝型勤務制度」の成否の鍵は組織長と認識していたので、並行して組織長向けの説明会も実施しました。カンパニーごとに組織長に集まってもらい、合計で20回以上開催したと思います。8月上旬から9月半ばまで、1ヵ月あまりかけて行いましたが、制度導入にあたっては社員に丁寧に説明し、十分理解してもらうことが不可欠だったからです。

また、当社では2009年から、ビル入退館時の「フラッパーゲート」によって、入館して15分以内に仕事を開始し、退館する前の15分以内に仕事を終了する、という勤怠管理システムを導入し管理を行っています。同時に、ワークフロー上では毎日のPCのログオン・ログオフの時間が、必ず明示されます。つまり、社員がその日、何時に仕事を開始し、何時に仕事を終えたのかを、上司が入退館の時間とPCのログオン・ログオフの時間を見て承認するという、勤怠管理システムにて時間管理を行っているということです。

このようなきちんとしたシステムがあったので、今回の制度導入により、前日20時以降に残っていた社員のリストを上司(課長・部長)が翌朝分かる仕組みを構築しました。事前に申請しないと、20時以降の残業は認められませんので、20時以降残って残業した社員がいた場合は、なぜ残っていたのかをしっかりとチェックし、事前申請がなされていない場合には、人事・総務部に残業理由と併せ翌朝報告するという仕組みをトライアル導入前に作りました。

―― トライアルとして取り組まれた半年間の「朝型勤務制度」とは、どのようものですか。

全社一律のフレックスタイム制を廃止し、現在の勤務時間は、9時始業の17時15分終業です。昼食の1時間を除いた7時間15分の間に、徹底して業務効率を上げようという活動を行っています。残業ゼロがベストですが、実際にはそういうわけにはいきません。「朝型勤務制度」は、夜は遅くとも20時には仕事を終え、どうしても仕事が終わらない場合は、翌日の朝9時前に出勤し仕事をする、というのが基本概念です。

深夜(22時~5時)は消灯し、残業は「完全禁止」。20時~22時の時間外勤務は「原則禁止」としています。商社の場合、時差のある海外との取引が多く、テレビ会議や電話会議などがあるため、事前申請に基づいて残業を認めています。あるいは、突発的な対応や、やむを得ない事情で残って仕事をしなければならない場合も、事前申請によって認めています。それ以外は、原則禁止です。

仕事が残っている場合は、翌日の朝早く来るわけですが、社員に急に「朝型勤務」にシフトするようにいっても、長年体に染みついた夜型を変えるのは難しいと考えました。そこで、インセンティブを付けることになったわけです。先に説明した「総論賛成、各論反対」に対する対応策でもあります。具体的には、朝9時前に仕事をした場合は深夜勤務と同じ割増賃金を支給することにしました。管理職にも支給します(時間管理対象者:150%、時間外対象者25%)。また、8時前に仕事を開始した社員に対しては、軽食を無料で配布します。このような内容で、6ヵ月間トライアルを行いました。

図1:「朝型勤務」へのシフト(実施概要)
図表:「朝型勤務」へのシフト(実施概要)

―― トライアルの結果、どのような変化がありましたか。

半年間「朝型勤務」に取り組んできた結果、夜の20時以降に会社に残って仕事をしていた社員が30%から7%へ大きく減少しました。突発的な対応をしなくてはならない社員もいたため、ゼロとはなりませんでしたが、その代わり、22時以降の勤務者は10%が、ほぼゼロとなりました。一方、朝8時前に出勤する社員は、20%から34%と増えました。現在では40%くらいになっています。

残業時間は、約1割減少しました。時間にして約4時間(総合職)。コスト(時間外勤務手当)で見ると、早朝割増賃金分を含めても約7%減少しています。軽食は平均で550名が取っていますが、この分を差し引いた全体のコストは、約4%の減少となりました。そもそもの目的は働き方の改革であり、割増賃金を払ってでも朝型へのシフトを実現しようと考えていましたので、当初はコストが増えても仕方がないと考えていました。結果的には、働き方を変えることによってコストも減った、というわけです。さらに言えば、電気使用量も6%減少しました。いろいろな意味で、定量的にはその効果が如実に表れています。

図2:レビュー結果と正式導入
図表:レビュー結果と正式導入

(後編に続く)


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