株式会社リクルートホールディングス:
「起業家精神を持ち、成長し続ける人材」をいかに育てていくか?
株式会社リクルートホールディングス 人事統括室 室長
今村 健一さん
リクルートグループは「人材輩出企業」あるいは「新規事業創造企業」として、広く認知されています。これも創業以来、さまざまなサービスにおいてイノベーションを生み出すために、従業員一人ひとりの「当事者意識」「起業家精神」を引き出し、「個の可能性に期待する場」を提供し続けてきたリクルートならではと言えるでしょう。今回は3回シリーズで、リクルートグループの人事施策を紹介します。第1回にご登場いただくのは、リクルートホールディングス。グループ全体に関わる「人事マネジメントポリシー」と「求める6つのスキル・4つのスタンス」、さらにはグローバル化やIT化への対応など、リクルートならではの「ヒト作り」について、人事統括室室長の今村健一さんにお話を伺いました。
- 今村健一さん
- 株式会社リクルートホールディングス 人事統括室 室長
いまむら・けんいち ● 1999年4月株式会社リクルート(現・株式会社リクルートホールディングス)入社。旅行情報事業部で「じゃらん」等の営業に従事。その後、経営企画室、首都圏FMカンパニー等を経て、2010年にHRエリアカンパニー企画統括室カンパニーオフィサーに就任。その後、2012年に経営企画室室長、2013年からは人事統括室室長も兼務し、2014年4月より現職。
リクルートグループにおける人事の基本的な考え方 ~「当事者意識」と「起業家精神」
まず、リクルートグループ全体の人事施策に対する考え方について、お聞かせください。
リクルートグループの人材に対するベースとなる考え方は、「当事者意識」「起業家精神」を引き出すところにあります。(図1)にも示したように、採用をはじめ、育成、評価、配置など、さまざまな人事に関する場面において、本人の当事者意識と起業家精神を引き出すことを人事の考え方のコアに置いています。
「圧倒的な当事者意識」という言葉が、リクルート内ではよく使われます。日々、仕事を進める中で、「お前はどうしたい?」と問うのです(WILL)。これは、入社初日の新卒社員や中途採用社員でも同じ。「まず、あなたは、どう考え、何をするべきだと思っているのか、それを教えてください」と問いかけます。まさに当事者意識を意識した、リクルートならではの会話です。
これが、トヨタさんで言うところの「なぜを5回聞く」と同じように、DNAとして染みついています。社員もそのように問われることが当たり前だと思っていますし、上長もそれを問うことは、育成の責任者として当然やるべきことだと理解しています。当事者意識に一番スポットを当てたサイクルであることが、リクルートの人事の考え方の一番のポイントです。
それから、従業員全員に求めるスタンス・スキルです。「6つのスタンス・4つのスタンス」、社内的には「6・4」と呼んでいますが、その中で一番大事なのが4つのスタンスの中の「圧倒的な当事者意識」です(図2)
当事者意識に関して、リクルートらしいエピソードをお聞かせください。
典型的なのが、採用のシーンです。多くの企業では、学生に対して志望動機など同じような質問を投げかけますが、その質問の深さ、掘り方がとてもしつこいのがリクルートの特徴です。とにかく、その人に当事者意識があるのかどうかが分かるまで、徹底して聞きます。
例えば、履歴書に「ボート部のキャプテンだった」と書いてあれば、「どういう活動をしていたのですか?」といった質問をするのが一般的でしょう。しかし、リクルートでは「なぜキャプテンになったの?」「それは他薦なの自薦なの?」「自薦だとしたら、手を挙げたきっかけはどこにあったの?」「組織の状態として、前のキャプテンをどう思っていたの?」「前の状態を、どう改革しようとしたの?」「具体的にはどの辺までどういう行動をして、どのように変えたの?」など、関連した質問を1時間以上続けます。主体的に物事をとらえ動ける人物かどうかを、採用面接の入口で確認しているのです。これは採用の場面において、何よりも力を入れていることです。分社してからは新卒採用、中途採用とも各事業会社で行っていますが、この点に関してはどこも同じDNAが受け継がれています。
そして、入社してもすぐに、新卒・中途を問わず「あなたはどうしたいの?」「この仕事をどうしたいと思っているの?」とたずねます。一般的には、「それは上司が考えること」と思われるかも知れませんが、リクルートでは意思のある人を尊重して、とにかくやらせてみる機会を提供します。そういう当事者意識を持った人を、できるだけ応援しているのです。
そのようなことが、日々の会話やコミュニケーションで当たり前に行われているわけですね。
制度としても、本人の意志を支援するものがいくつかあります。例えば、自分のやりたい仕事が自分の部署にない場合、自ら手を挙げて「別の事業に異動をする」または「新しい事業を創っていく」ことを支援する制度があります。異動については「Career Web」という制度があります。年に1回、異動したい先の事業に直接面接を申し出ることができるというものです。直属の上司への事前の報告は不要で、成立した場合にも拒否権はありません。そして、新規事業の提案制度である「Recruit Ventures(New RING)」です。これは毎月応募のチャンスがあり、最大1年で12回応募することが出来ます。これまでは新規事業の提案制度は1年に1回だったのですが、昔と違って、ネットビジネスの市場の動きは高速ですし、立ち上げもすぐにできることを考慮し、今年の4月からリニューアルしました。
これらの制度は、分社をした現在でもグループ横断で引き続き行っている施策です。また、各事業会社内でも同様の制度を設けているところもあります。当事者意識があり、起業家精神を持っていて、何かをやりたいと考えている。そういう人たちには「MUST」としての機会をどんどん与えていくのです。
そして、学ばせる「CAN」。リクルートでは、「表彰する」ことを大変重要視しています。各事業会社や各部署でも個別の表彰制度を設けていますし、その中でも特に素晴らしい活躍をした営業やプロダクト開発で素晴イノベーションを起こした人たちを、1年に1回全社で表彰したりするなど、大きな成果を上げた人たちは大々的に表彰します。例えば、「TOP GUN AWARD」(営業の全国表彰)は、有楽町にある東京国際フォーラムの一番大きな会場を借りて実施します。約2000人が観衆として、表彰者の話を聞きますが、実は表彰することの裏に狙いがあります。話を聞いている側にも、そのスピーチを通じて学んでもらっているのです。「この人はこういう当事者意識を持って事業や営業の手法を変えた。その結果、この場に立っている」というようなバックボーンやプロセスを知ってもらうのです。つまり、聞いている聴衆が主役でもある、ということです。
「お前はどうしたい?」は「WILL」(意思を問う)。短期的なものから2~3年後、自分は何をやりたいかというキャリアの話もそうです。そこに向けていまやるべき仕事、与えるポストはこれだという「MUST」(機会を与える)。そして、各人のスキルをどう伸ばすのかという「CAN」(学ばせる)。このWILL・CAN・MUSTを回し続けているのが、リクルートの人材育成の特徴です。
そして、これを半期に1回、仕事を管理する「WCMシート」に反映させています。本人が実現したいこと(Will)、強み課題(Can)、ミッション(Must)の項目からなる目標管理シートです。Willには、いまの仕事におけるWillと、2~3年後のキャリアイメージのWillを記入します。それに対してCanでは、いま自分ができること・できないこと(強み・課題)を記入します。Mustでは、それを克服するためにどの仕事に注力していくか、能力開発につながるミッションを設定します。これらを上司と相談しながら、しつこく回していきます。