キャリアコンサルタントの仕事に興味を示す求職者
グループ内に人材紹介会社が設立された企業
意外と実態は知られていませんが…
キャリアコンサルタントになってみたい
求職者が人材紹介会社を利用する最大のメリットは、キャリアコンサルタントの客観的な意見を聞きながら具体的な転職情報を入手できる点である。求職者が無事転職に成功した際には、「ありがとう」と言われることも多い、キャリアコンサルタントという仕事。求職者の中には、「自分もやってみたい」と思うようになる人もいる。
相談に乗るのはけっこう得意なんです
求職者のEさんから希望職種について話を聞いていたとき、Eさんはおもむろに切り出した。
「実はもう一つ希望があるんですよ。まったく未経験の職種なんですが、最近とても興味を持っていまして…申し上げていいですか?」
もちろんどうぞ…と促すと、Eさんはちょっと照れたような表情でこう言った。
「こういうキャリアコンサルタントみたいな仕事もいいなぁ、と思っているんです。人事の経験はまったくないんですが、人の相談に乗るのはけっこう好きなんですよ。大学時代には心理学の勉強もしていましたし、将来的には産業カウンセラーの資格取得にも興味があります…」
転職の相談を受けていると、時折こういう希望を聞くことがある。「人の役に立つ仕事」であり「やりがいのある仕事」だと感じて希望する人がいるのは、こちらとしては嬉しい限りだが、問題は実際の仕事内容をあまり知らず、イメージだけが先行しているケースが多いことである。
「では、少しご説明したほうがいいですね…」
Eさんも、「ぜひ詳しく教えてください」と言ったので、私は自分の経験に基づく話をした。
人材紹介会社のキャリアコンサルタントは、キャリアアドバイザーとかキャリアカウンセラーなどとも言われるが、会社によって異なり、定まった名称はない。主な仕事は、求職者と面談を行い、求人情報を提供すること。そして内定、入社までをサポートすることだ。
ただし、人材紹介会社によっては、企業から求人情報を集める仕事を兼任している場合もある。大手の人材紹介会社の場合は求職者担当と企業担当が分業になっていることが多いが、中堅・中小では兼業のことが多いようだ。
「でも、人事の経験の有無はまったく問わないんですよ。むしろ、営業出身者が多いのではないでしょうか。というのも、仕事内容はかなり営業に近いからなんです」
「えっ、そうなんですか?」
Eさんは驚いているが、キャリアコンサルタントを希望する人の大半はこの部分で驚くので、決してEさんが特殊なわけではない。
実際の仕事は営業に近いのです
「キャリアコンサルタントはみんな人事の出身じゃないんですか?」
そう思っている人は多いが実は違う。
「企業から求人情報を集める仕事は、ほとんど営業と同じなんですよ。もちろん新規開拓も自分でやります。また、求職者とも、単に相談さえしていればいいわけではなく、自社の取引先企業に入社していただかなくては、自分の業績にはつながりません。もちろん、最終的に入社する会社を決めるのは求職者ですが、何人の転職を成功させたか…という“数字で評価される仕事”だというところも営業職に近いかもしれないですね」
「なるほど…」
Eさんも、やはりその実態は知らなかったようだ。相談することが仕事の目的ではないから、心理学を学んでいることや産業カウンセラーの資格を持っていることで特別有利になることはないのである。
もちろん、それらの経験や資格は仕事をする上で役に立つことがあるかもしれない。人事の経験者でキャリアコンサルタントとして活躍している人もいるが、それは少数派だ。
「キャリアコンサルタントの方は何人くらいの求職者のご相談を受けられているのですか?」
これはEさんからの質問だ。人材紹介会社によって、またコンサルタント個人によっても違うが、一般の人が考えているよりははるかに多い。
「Eさんは何人くらいだと思われますか?」
「さあ、20人から30人くらいでしょうか、それとももっと多いですか?」
「大体その10倍くらいですよ」
もちろん、これは直近だけでなく、過去に登録して継続的に転職活動をしている人も含んでいる。といっても、かなり多い数字であるのは間違いない。従って、テキパキと効率よく業務を進めることが要求される仕事でもある。
「そうなんですか。思ったより大変そうですね…」
Eさんは予想外の実態にやや戸惑っているようである。しかし、Eさんが本当にやりたいと思っているならチャンスはあるだろう。優秀なコンサルタントを募集している人材紹介会社は多いからだ。
「いつでも相談に来てください。私でよろしければ、詳しくご説明しますよ」
私は最後にそう答えた。
採用の現場はけっこう困惑…
グループ内に人材紹介会社ができました
1990年代の後半から急速に進んだ規制緩和。人材ビジネス業界も例外ではなく、人材紹介業の認可を取る手続きも大幅に簡略化された。新たに参入してくる企業は非常に多い。事業の多角化を図ったり、グループ組織の再編などを行なうと人材派遣会社と人材紹介事業がセットで企画されることが多いようだ。しかし、立ち上げたからといってすぐにうまくいかないのは、他の事業と同じだろう。
トップが企画した人材紹介ビジネス
「ご相談というのは他でもないのですが…」
A社の採用マネジャーに呼ばれて行ってみると、このほどグループ内に人材紹介会社ができたのだという。まあ、それ自体は珍しいことではない。
「まだ完全に固まったわけではないのですが、その人材紹介会社が営業を開始したら、現在私どもで御社にお願いしている求人も、全部そのグループ会社を通すことになるかもしれないんです…」
困ったことになったな…と正直私は思った。こういうケースは初めてではない。1990年代後半の規制緩和以来、人材紹介ビジネスは企業にとっては参入しやすい新規事業の一つになった。もちろん、参入しやすくても、成功しやすいビジネスとはいえない。むしろ、目に見えないノウハウの部分が大きいだけにとても難しいビジネスでもあるのだ。
「具体的にどうなりそうなんでしょうか」
なるべく軽いトーンで聞いてみる。
「今お願いしている人材紹介会社各社には、そのグループ会社との間で契約を結び直していただくことになると思います…」
要するに、人材採用が決まった時の紹介手数料の一部を、その新しいグループ会社が“抜く”ということになりそうだ。そうなると、私たちのような従来から紹介を行なっていた人材紹介会社の手数料の取り分は減ってしまう。今回はそれでもいいですか…という打診だった。
もちろん、手数料が目減りするのを歓迎する人材紹介会社はないだろう。しかし、実はこういうケースで一番影響を受けるのは、これまで人材紹介を使って採用を行なってきた人事部門なのである。
「もし、多くの人材紹介会社が条件を飲めない…ということになったら、人事部さんも困りますよね」
あまり嫌味な言い方にならないように気をつけながら私は言ってみた。
「そうなんですよ。グループのトップが企画して降りてきた話だから誰も反論できないんですけれども、これで採用計画が遅れるようなことがあれば、現場が一番影響を受けますからね。人材紹介会社からすれば、わざわざ紹介手数料が安い会社に紹介してくれないでしょうから…」
採用マネジャーは困惑した表情で答えてくれた。
人材紹介各社の反応は?
「ですから、今どれくらいの人材紹介会社さんがこの話を受けてくれるかをリサーチ中なんです」
マネジャーによると、そうはいっても緊急性・重要性の高い募集もある。グループ会社に利益を与えるためとはいえ、そのために肝心の採用ができないと本末転倒になる、という意見もけっこうあったらしい。だから、多くの人材紹介会社がもう取り引きできないということになれば、この話は見直されるかもしれない…。
「難しいですね…」
私は答えた。仮に紹介手数料が安くなっても、それだけで「もう取り引きしない」と宣言する人材紹介会社は意外に少ないのではないだろうか。本音としては、「もうつきあえない」と思っていても、表面的には契約を更新し、「良い人がいれば紹介します」と言うはずだ。安い手数料に見合わないと思えば、紹介しなければいいだけだからだ。どうしてもA社で働きたいという候補者がいないとも限らない。そういう時のためにルートだけは残しておきたいと考えるのが普通だろう。
「紹介会社の本音は簡単には分からないんじゃないでしょうか」
「たしかにそうですね…」
マネジャーは考え込んでいる。
「ところで、どうしてまた人材紹介会社を立ち上げることになったのでしょう?」
「実は同じタイミングで人材派遣会社を立ち上げたんですよ。その時、似たようなものだから人材紹介も一緒にやろうという話が出たらしいです…」
よくあるパターンだ。しかし、派遣と紹介は似て非なるビジネス。ノウハウで重複するところはあまりないといってもいい。
「分かりました。新しい契約に応じてくれる会社は多くても、紹介自体は今後大きく減る可能性もあるということですね。また社内で検討します…」
一番良いのは、グループ内の紹介会社もそれ以外の紹介会社も同じ土俵で競わせることではないだろうか。それによって、グループ内の紹介会社も強化されていくと思うのだが…。
A社の採用マネジャーの苦悩はしばらく続きそうだ。