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人材採用“ウラ”“オモテ” 
企業・求職者・人材紹介会社の「転職」三角関係

門戸を広げれば人が集まる、というわけでもない
一度決意した転職も最後まで貫ける、というわけでもない

「門戸を広げたことで人材が集まらない」企業のケース

「未経験者歓迎」を強調して希望者が減少?

人材紹介会社を利用して採用を行う企業は、基本的には即戦力となりうる経験者を募集していると思って間違いない。まったくの異業種や異職種へのキャリアチェンジを希望される方のお役に立ちにくいのはそのためだ。しかし、まれに「未経験者でも可能」、または「未経験者歓迎」という募集をいただく場合もある。経験者しか募集しないところで未経験者歓迎と打ち出せば、希望者が大量に集まるか…というと、そうでもなかったりするので採用というものは難しい。

「“経験者のみ”より集まるはずなのに…」

「希望者の方は増えてきていますでしょうか? 今回は未経験者も歓迎にしていますから、ご紹介も増えるんじゃないかと期待しているんですけどね」

採用担当のTマネージャーから、「未経験者歓迎」の募集情報をいただいたのは一週間ほど前のことだ。それまでは、なんらかの形で同じ職種を経験している人材だけを対象にしていたが、事業の拡大により大幅な人員増が必要となったのだという。

「はい、未経験者歓迎ということで求人情報は広い範囲にご紹介しています。ただ、思ったほど希望者が増えているとはいえない状況なんですよ…」

私は現状をご報告させていただいた。

「そうなんですか…。ちょっと意外ですけど、何か理由があるんでしょうか」
「実はですね…」

実は、Tマネージャーの会社は営業が難しいということで知られている業界なのだった。転職希望者の間の情報で、あの業界(特に営業)は厳しい…という評判が定着しているのである。しかも、今回の募集はその営業職だった。

「今までは業界経験者の方、あるいは営業経験者を対象にされていましたよね。ですから、すでに仕事内容を分かっておられる方々だったんです。厳しいと同時にこの営業のおもしろみも分かっておられた方々だったから、一定の割合で希望される方もいらっしゃったんですよ」
「そうですよね」
「ところが、未経験者の人たちにとっては、もともと厳しい業界というイメージがありますから、かえって警戒される場合があるんです。未経験者歓迎といえば言葉はきれいなんですが、ネガティブにとらえれば誰でもいいんじゃないか…と思われることもあるんですよ」
「うーん、そうか…。大量募集で使い捨て…のようなイメージになってしまうわけですか」

この時は、まさにそういう反応が多かったのだった。

「転職希望者は用心深いですから…」

「普通に考えれば、応募者の方に有利と思えるようなことでも、意外に警戒感を持たれることがあるんですよ。たとえば…」

たとえば、今回のような「未経験者歓迎」という情報である。経験者が寄り付かないから、未経験者を募集しているのだろうか、と疑われる場合がある。

それ以外では、「年齢不問、学歴不問」という条件。あまりにも幅広く募集していると、やはり未経験募集のように、誰でもいいのか…といった疑いを持たれやすい。また、大卒など高学歴の人材からは、「学歴不問」の仕事に対して、別に大卒でなくてもできる仕事ではないか、と仕事内容を軽く思われてしまう場合もある。大卒者の割合が増え、大卒資格それ自体にはあまり意味がなくなっている現代でも、そういった思考パターンはまだまだ根強いのだ。

Photo

「給与に関してもあまりに条件が良いと、その理由は何だろう…と思いますよね。それとまったく同じことではないでしょうか」
「確かに20代に人に年収700万円、800万円というと、よほど優秀な人以外は何かウラがあると思ってしまうかもしれませんね」
「転職で失敗したくない、という思いは皆さんに共通ですからね。表面的な良い情報につられて、入社後にこんなはずではなかった、と思っても遅いですから…」

Tマネージャーは困った顔で腕を組んでいる。

「では、今回のウチように大量に採用する、というのも本当は良くないんですね」
「ええそうです。大量に採用というと、枠が増えるわけですから、一見応募者に魅力的に見えるんですけどね。大量に採用する理由はなんだろう、よほど離職者が多いのだろうか、と先回りして考える方もおられます」
「なるほど…。そういった先回りして考えられるネガティブな理由を消す情報提供をしないといけないんですね」

やはり転職は、企業と求職者の真剣勝負。先の先まで考えていく必要があるのだった。

「一度決めた転職を、勤務先からの引きとめで覆した」人材のケース

一度は決意した転職を中止しての残留

退職を決意して転職活動を始めたものの、勤務先から強い引きとめにあってしまうことがある。最近は、人材の流動化がかなり一般的になってきたので、本人が強く希望すればあっさり退職が認められる場合がほとんどのようだが、将来有望な人材が退職することが会社にとって損失であることに変わりはない。また、上司からすれば、部下が何人か続いて退職するようなことがあれば、自分の管理能力が疑われるのでは…という気にもなってくるのだろう。

「連日深夜までの残業。体を壊してしまい…」

「実は2カ月前から休職中なんです。あまりにも残業が多かったですし、休日もほとんど出勤だったものですから、過労で倒れてしまいまして…。まわりの人も、かなりの人が体を壊して退職しています。私もこのまま働いていたらヤバイと思いまして…」

こう語ってくれたSさんは、急成長で有名なとある企業に勤務されていた。現在は休職中、とのことだが、本人は転職してもっと落ち着いた環境で働きたい…と気持ちを固めている。

「残業が多いというと月100時間以上とか…」
「いや、もっとですね。平日は日付がかわるまで絶対といっていいほど帰れません。週末の休日出勤を入れれば、軽くその倍はいきそうな勢いでした」

Sさんは、大学を卒業してまだ2年目。若いだけに多少の残業などは苦にもならない年齢だろう。しかし、毎日終電、しかも休日なし…では体を壊すのも無理はない。通常なら、第二新卒クラスの方には、もっと今のところで頑張ってみる選択肢はないのですか…と、再考をうながすことが多いのだが、さすがにこのケースでは転職をお勧めした。
しかも、Sさんの勤務先は、長時間労働で有名な企業だった。もう何年も前から、ハードワークで耐えられないという方の話を多数お聞きしてきている。その会社の社風、勤務環境がすぐに変わるとは思えなかった。

幸い、Sさんはその若さとまじめな人柄が評価されたようで、早々にある企業から内定が出た。語学が得意だったのも、海外との取引が多いその企業のニーズにあっていた。

「Sさん、内定をいただけましたよ!」

連絡を入れると電話の向こうのSさんの反応が鈍い。いつもは明るい受け答えをしてくれていたのだが、この日はなんとなく気が重そうな口調だ。何かあったな…と直感した。

「実は…せっかくなんですがご辞退させて欲しいのです」

「残業の少ない部門に異動させてもらえることに…」

「昨日ですが、勤務先と退職のための打ち合わせに行ったんですよ。そうしたら、ぜひ残って欲しいといわれてしまって…残留することを決めてしまいました」

最初は驚いたが、現職企業からの引きとめはよくある話だ。

「残留するといっても、Sさん、職場に復帰したらまた毎日残業でしょう。休日もない状態で、それで体を壊したんじゃないんですか」

Sさんは残留することを決めた理由をポツポツと話してくれた。

「ええ、最初は私もそう思って、何がなんでも退職すると言ったんです。そうしたら、残業の少ない部署に異動させる、そこは休日出勤もないから…と強く言ってくれたんですよ。もともと退職を考えたのは勤務時間が長すぎるということだけで、仕事内容などはとても気に入っていたので、断る理由がなくなってしまって…」

長時間労働で有名なその企業に、残業が少ないなどという、そんな楽な部署があるとはとても思えなかった。どうも、単にSさんを退職させないためだけに言っているとしか思えない。そもそも、最初からそんな部署があるなら、体を壊した時点で異動させるなりするはずだろう。

「Sさんの気持ちは分かりますけど、そこは何年も前からハードワークで有名な企業です。私も多くのOBの方からお話を聞いています。Sさんのためだけに、会社が簡単に変わるとは思えないですよ。今度体を壊したら大変なことになるかもしれない」

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「分かっています、でももう決めてしまったんです…」
Sさんの気持ちは妙に固い。
「Sさんが、その会社で何十年もお世話になったんだったら、愛着や裏切りたくないといった気持ちもあることでしょう。でも、Sさんはまだ2年目ですよね。しかも、ハードワークで体まで壊している。義理を重んずるよりも、一度転職を決心したのなら、貫いた方がいいですよ」

結局、Sさんは残留するという意思を変えることはなかった。Sさんとその上司との話し合いの場にいたわけではないから、詳しいことは分からない。しかし、職場に復帰したSさんが再び体を壊して転職活動を再開していないことを願うだけである。



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