社会人のフリーエージェント会社に「借り」をつくる可能性も 一度辞めると言ってからの残留は吉なのか?

将来どんな影響があるのかわからない

「大変申し訳ないのですが、希望条件が整えば残留も選択肢に入れたいと思っています。せっかくの上司の好意ですし、年収と仕事内容の希望が通れば、残った方がいわゆる転職のリスクも少ないですので」

確かに転職には、いざ入社してみたら社風や企業文化が想像していたのと違っていた、自分にあわなかった、といったリスクがある。しかし、今回Aさんが退職を材料にして会社と交渉したという事実、これもずっと残り続けるのだ。会社として、Aさんの力が現在必要だから残ってほしいというのは間違いない。ただ、中長期的に考えると、会社はAさんに押し切られた、譲らされたということを決して忘れない。長い目で見ると、Aさんにとってこれが不利な条件となってくる。

例えば将来、何か大きなプロジェクトを立ち上げることになり、Aさんがそのリーダーをやってみたいと思って手をあげたとする。担当役員が「この仕事をA君に任せようかと思うのだがどう思う?」と周囲に訊いた時、今回のいきさつを覚えていた人がこう答えるかもしれない。「優秀だけど、ちょっと自分勝手なところがあるんじゃないですか」。果たして役員はどんな判断を下すだろうか。

「一度退職を切り出して交渉したという事実は、中長期的に効いてくるものなんです。それよりも、Aさんを欲しいといってくれた会社、最初から希望する仕事内容と年収を用意してくれた会社に移って、何の憂いもなくバリバリ働く方が前向きだとは思いませんか?」

Aさんは、私が強く残留に反対したことに戸惑っているようだった。

転職のきっかけは人材開発 Photo

プロ野球のフリーエージェントなどでも、FA宣言をしたが結果的に元のチームに残る選手は少なくない。そういうシーンを見慣れていると、社会人もFA選手と同様に、会社と交渉して残ってもいいのだと感じる人もいるのだろう。

しかし、プロ野球選手はもともと完全実力主義の世界で働く個人事業主で、会社員とは立場が大きく異なる。しかも、上司の引き留めは単に「好意」からではなく、部下に退職されるとマネージャーとしての自分の評価が下がってしまうから、とりあえず必死で引き留めている場合もあるのだ。

とはいえ、最終的にはAさん自身がジャッジを下すことになる。どういう結論が出るのかは、まだわからない。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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