社会人のフリーエージェント会社に「借り」をつくる可能性も 一度辞めると言ってからの残留は吉なのか?
今年もプロ野球の「フリーエージェント(FA)」がスポーツ紙の見出しを飾る季節がやってきた。日本のプロ野球でこの制度が導入されたのは1993年。自分の好きなチームに移籍できるのがFAの最大のメリットだが、FA宣言した選手の中には、交渉の末、より良い条件を引き出して元のサヤに納まるケースも少なくない。似たようなことは転職においてもあるようだ。ひょっとしたら歴史を積み重ねてきたFA制度が、20代、30代の人材の考え方に何らかの影響を及ぼしているのかもしれない。
上司に退職理由を正直に答えてしまった
「Aさんからの連絡は、まだないのでしょうか。そろそろ企業側に入社日確定の連絡を入れたいのですが」
求人企業担当のスタッフにそう催促されて、私も少し不安な気持ちになった。確かに、退社日が決まったと、Aさんからもう連絡が来てもいい頃だ。
ある企業に内定しているAさんは入社承諾済みだが、現在在職中。引き継ぎ期間が必要となるため、入社日は保留しておいてほしい、と言われていた。しかし、入社承諾からもう一週間以上経っている。普通に退職交渉をしていれば、もう結果が出ていてもいい頃だ。それなのに連絡がないということは、現在の勤め先で慰留されている可能性がある。私はさっそくAさんに連絡を入れた。
「その後、退職交渉は順調にお進みでしょうか? 引き継ぎ期間は決まりましたでしょうか。もし何かトラブルなどがあればご相談ください」
Aさんからの返事は、予想していた中で最悪に近いものだった。
「実は今、残留する場合の条件を調整してもらっているんです。退職願を提出したところ、強く引き留められてしまいまして」
Aさんが退職を願い出たところ、上司から問題点を解決できるかもしれないので、退職理由を聞かせてほしいと言われたという。そこでAさんは、正直に年収と仕事内容だと答えた。
一般的な転職のセオリーでは、「退職時には理由を正直に答えない方がいい」とされている。正直に退職理由を伝えてしまうと、対案を出されてしまう可能性があるからだ。これでは退職交渉が長引いてしまうし、場合によってはひっくり返されることもある。一身上の都合、あるいは家庭の事情などで押し切るのがベストなのだ。
Aさんにはもちろん、そのあたりの退職交渉のポイントは伝えてあったのだが、世話になった上司の親身な問いかけに、つい本音を答えてしまったのだという。また、Aさんは過去にも転職経験があって、前回はスムーズに退職できたので、今回も問題はないと軽く考えていたようだ。
「それで、どうなりそうなんですか?」
私は恐る恐る、Aさんに聞いてみた。