年度末における転職模様
都合のいい時にたまたま案件がない……。 タイミングという「縁」の重要性
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仕事への責任感も大切だが……
数ヵ月ぶりに会ったSさんからは、次のような相談を持ちかけられた。
「実は、年度末で退職するように手続きするかどうか迷っています。しかし、新年度になると新しいプロジェクトが始まってしまい、また転職のタイミングが難しくなります。退職して転職活動に専念するのも一つの方法だとは思っているのですが……」
これには私も一緒になって悩んでしまった。Sさんのケースは非常に難しい。
「通常は、転職先が決まる前の退職はおすすめしません。特に新年度に入ると、人事が新卒社員の受け入れで忙しくなる会社が多く、中途採用が後まわしになってしまうことがあります。そういった状況で退職して無職のままいると、『先が見えない』という焦りが出てくるんですね。すると、当初の転職の目的よりも、『とにかく再就職する』ということが優先されて、転職後に我に返った段階で『こんなはずではなかった』と思い始める方も多いんです」
Sさんはうなずきながら、真剣な表情で話を聴いている。
「ただ、現状でおわかりのように、限られた期間に必ず希望の求人があるわけではないのが中途採用の実情です。Sさんのキャリアなら一定の期間お待ちになれば、必ず求人はあると思います。ただ、それが1ヵ月後になるのか半年後なるのかは何とも言えません」
一通りの話を聴いたSさんはやがてこう言った。
「今の会社に勤めていたら、永遠に転職できないかもしれないですね」
「同僚の中にプロジェクトの途中で退職される方はいらっしゃらないですか。理由が転職ではなく、健康や家庭の事情などでも構わないのですが」
「全くいないこともないですね」
「会社にとって社員が退職するリスクは、ある程度織り込んでいないといけないものでしょう。プロジェクトの途中で退職する選択肢も、あっていいかもしれません。もちろん、円滑な引き継ぎ体制をつくっておくように配慮した上でですが」
「なるほど。そういう考え方もあるんですね」
Sさんは腕を組んで考えていた。仕事に対するSさんの責任感は素晴らしい。それだけに、Sさん自身の考え方を少し変えるだけで、とても良い「縁」に恵まれる可能性もある。
私は改めてSさんの転職活動が成功するよう、サポートしていきたいと思い始めていた。
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