年度末における転職模様
都合のいい時にたまたま案件がない……。 タイミングという「縁」の重要性
在職者は、いつでも好きな時に転職できる訳ではない。特に責任あるポジションを任されている場合などは、「転職するので辞めます」と途中で仕事を投げ出すわけにいかないことも多い。そんな転職希望者にとって、「年度末」は仕事の区切りがつけやすく、ある意味で転職の絶好機と言える。しかし、年度末に自分にあう求人が見つかるかどうかというと、別問題。年度末は転職に重要な「縁」を、改めて考えさせられる時期でもある。
「あの時」はいい案件があったのに
「昨年はいろいろとお世話になりました。結果的に、ご迷惑をおかけしてしまったような気もしますが……」
数ヵ月ぶりに話をすることができたSさん。転職を希望し、前年の秋には一度いいところまで話が進んだのだが、「今やっているプロジェクトが一段落するまでは退職できない」と、途中で辞退したのだった。
Sさんは非常に計画的な人だった。「転職は初めてなので」と、転職を予定している年度末より半年も前に、私たちの人材紹介会社に相談に来てくれたのだ。
転職相談の席に着いたSさんからの最初の言葉は、「私のようなキャリアでも転職できるかどうか、まずそれを知りたいと思っています」というものだった。そこで、Sさんの経験に見合う求人票をいくつか見てもらったのだが、条件にぴったりの人がいれば紹介を進めたくなるのがキャリアアドバイザーというものである。
「求人票だけを見ていても、具体的イメージがわかないのではありませんか。今回が初めての転職ということですから、度胸試しの意味も含めて、面接で直接企業とお話しになってはいかがでしょうか」
私はこんな風にもちかけた。Sさんは半年先の転職を希望しているが、実際に良い案件があれば予定を繰り上げて転職に踏み切る人も多い。また、人材紹介業界の裏話のようになるが、転職希望者の言葉を信じて待っていたら、他の紹介会社に出し抜かれるケースも少なくない。
「一度途中で辞退したら、再び応募できなくなる可能性はありませんか」
Sさんの心配はもっともだ。
「大丈夫です。現職のご都合で年度末まで退社時期が遅れる可能性があることを、事前に伝えた上でご紹介します。企業側とは、私どもがしっかりと交渉しますので……」
面接で、Sさんは高評価を得ることができた。しかし、企業側は早期に入社できる人材を希望していて、Sさんも年度末退職、新年度入社というスケジュールに対応できないことがわかり、結局その話はなかったことになってしまった。