転職相談で「ガス抜き」する求職者
異動の季節が過ぎる頃―― 転職希望者が増える?
4月は入社の季節。街中で真新しいスーツを身にまとった若者たちを目にする機会が増える。自分が新人だった頃を思い出して初心にかえる人も多いことだろう。同時に期の変わり目でもある春は、組織変更や人事異動がもっとも多い時期でもある。新しい部署に慣れるまでには何かとストレスもたまりやすい。自分の希望とは違う部署に異動になった場合には、「このまま続けられるのだろうか」と悩むこともあるだろう。「いっそのこと転職してしまおうか」と、初めて人材紹介会社を訪ねる人も珍しくない。
転職市場での価値が気になるのです
「自分の将来のキャリアを考えると、転職も選択肢の一つかもしれないと思ったのが、今回登録したきっかけです」
人材紹介会社では、転職相談の最初に「転職理由」を聞くことが多い。その人がどんなスタンスで相談(面談)に臨んでいるのかを確認するためだ。急いでいる人にはまず企業情報を見てもらうことを優先するし、そうでもない人には転職で何を実現したいのかを一緒に考えることが重要になる。Nさんは後者だった。
「私の会社は同業に比べるとどうも動きが遅いんです。企画を提案してもいろいろな部署の人が出てきて、調整がつかずに白紙になってしまう。これではいつまでたっても業界三位のままだと、よく同僚とも話をするんです」
Nさんが今働いている企業は、大手で歴史もあるので、その話はなんとなくイメージできる。そんな古い体質の大手企業に長く勤務していると、自分の「転職市場での価値」が上がらないのではないか――そんな心配が転職活動に踏み切った動機なのだという。
「では、新しい企業でスピード感のある仕事を希望されているということでしょうか?」
紹介先のイメージをつかむために、そんな質問を投げかけてみる。
「それも選択肢に入るかもしれませんね」
Nさんから「選択肢」という言葉が何度も出てくる。つまり今は「選択肢」をたくさん持っていたいのだろう。当然そこには「転職しない」という選択肢も含まれる。急いで転職したいわけではなく、いろいろな可能性を探りたいということだ。
このような人材の登録は決して珍しくない。というのも、紹介会社が「今すぐ転職するつもりはなくても、キャリア全般の相談に乗ります」とアピールしている場合が多いからだ。では、なぜすぐに転職する気のない人の相談に乗るのか。
一つには「紹介会社に登録したら、無理やり会社を紹介されて転職させられるのではないか」という利用者の警戒心を解くためだ。「転職する気がなくても構いませんよ」と言うことで問い合わせをしやすくしているのである。もう一つは「転職を急いでいない人の方が決まった時に大きい」というのもある。転職を急いでいない人は、今の会社でもある程度の仕事を任され、それに見合った年収を得ている場合が多い。多少時間がかかっても転職を成功させれば、採用した企業の満足度は高くなり、紹介料も十分に得られることになる。
そんなわけで、私もNさんの面談に粘り強く付き合っていた。