人事マネジメント「解体新書」第58回
社員の「ボランティア活動」と企業の支援(後編)
~ボランティア活動への参加を、「人材育成の場」「気づきの場」とする取り組み事例~
『前編』では、企業におけるボランティア活動の新たな動きを見てきた。『後編』では、社会貢献を第一の目的にしていると同時に、新たに、東日本大震災による被災地での社員のボランティア活動への参加を「人材育成の場」(事例1)、あるいは「気づきの場」(事例2)として取り組んでいるケースを紹介していく。
「復興支援ボランティアプロジェクト」への取り組み
A社(総合商社)は新入社員研修の中で、新入社員全員を被災地の復興支援のためにボランティアとして参加させた。参加者は終了後、体験した内容をもとにした、復興を後押しするためのレポートを提出。良い提案があれば、会社全体の活動として採用するという。
◆普段の仕事とは違う得がたい経験をする
A社では、20年ほど前から社会貢献活動に取り組んでおり、役員・社員によるボランティア活動を積極的に支援していた。
最初は6月~7月にかけて、全社員に呼びかける形でボランティア活動を行った。グループ企業との合同で「復興支援ボランティアプロジェクト」を企画、5週間に渡って実施した。その際、A社には年に5日休みの取れるボランティア休暇制度(有給)があるため、同制度を使って参加する社員が多かったようだ。夏休みに入り、いったんプロジェクトは休止。そして、9月からはA社単独で行うことにした。いろいろと内容を検討した結果、まずは1年目の社員が参加し、人事部と一緒に「新入社員ボランティア研修」を実施することを決めた。ちなみに、新入社員研修にこのような形でボランティア活動を取り入れたのは、初めての試みである。
ビジネスの場面では物事は効率的に進められていく。しかし、被災地の現場は必ずしもそうとは限らない。実際、力仕事でやるしかないケースは非常に多い。ところが、もやもやしながらも何とかやっていくうちに、少しずつ目に見えて結果が出てくる。光明が差してくる。新入社員からも、「大きな達成感があり、普段の仕事とは違う得がたい経験をすることができたので、非常に良かった」という感想が多くあった。
普段はピラミッド組織の下、上下関係のある中で仕事をしているが、ボランティアに参加すると、いきなりフラットな関係となる。実際、役員も参加してチームの一員として活動するので、「今までの会社生活とは違う角度からコミュニケーションが発生するので、とても良かった」という声も多かった。
「ボランティア研修」の内容と参加した効果
◆研修前後で、新入社員の意識が大きく変化
では、新入社員が参加したボランティア研修の内容を詳しく見ていこう。100人あまりの新入社員を対象に、9月~10月に全4日間の日程で五つのグループに分けて研修を実施した。1回当たりの参加者は約20人。研修担当者は、研修目的を次のように語る。
プログラム内容は、次の3点に集約される。一つ目は、ボランティア活動による復興支援。二つ目は、各グループでのディスカッション。三つ目が、帰ってきてからのレポートの提出。レポートのテーマは、今回の支援活動を通じて考えたこと、得たこと。さらにこの先、自社がどのような復興支援ができるのか。こうした内容を盛り込んでもらうことにした。レポートは提出すれば終わりではなく、担当部署にも見てもらい、会社全体の活動に採用できるかどうか、検討することになっている。
実際に提出されたレポートを見ると、幅広くいろいろなアイデアや企画が数多く出された。農業、漁業、観光、都市開発、エコタウン、エネルギー、防波堤、漁業の餌、船のリース、発電、食品情報、安全に関すること、工場の復旧・サポート支援、カーシェアリング、さらには、これらビジネス同士を結び付けるプロジェクト、人と人のつながりをサポートする仕組みなど、さまざまなコンテンツが記されていた。
最初は受け身の姿勢だったのが、被災地に来て現場の状況を知り、考えていく中で自らが主体的になって行動していった。ディスカッションでも、人事部は特に手助けをせずに、新入社員たちに任せた。何より議論が活発に行われており、そんな必要もなかったほどだという。復興に関する全般的なこと、そして自社として何ができるかといったことなど、議論の場は相当に盛り上がった。
全社的にボランティア意識が高まる
◆ボランティアに行っていない人に大きな刺激を与える
A社の「復興支援ボランティアプロジェクト」は、組織の上下で役職の異なった人が集まって行うパターンと、ここで紹介したような新入社員という横の職責が同じ人たちが活動するパターンがある。大きな組織の中で、タテの関係とヨコの関係が重なり合った形で活動を進めていくことにより、全社的なシャッフル効果が生まれてきた。
A社では、新入社員が参加したボランティア研修とともに、このようなタテとヨコの活動を並行して行うことによって、組織的なボランティア活動参加への一体感を醸成することに成功している。全社的にボランティア活動を行う際、参考となるアプローチと言えるだろう。
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