“幸福学”を知れば誰でも幸せになれる! 従業員が幸せになれば会社が伸びる!
人・組織・経営を変える“幸せの四つの因子”(後編)[前編を読む]
慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 研究科委員長・教授
前野 隆司さん
やりたいことを率直に語り合うだけで高まる幸せの四つの因子
幸福な従業員を増やすために、人事担当者や経営者、管理職は何をすべきでしょうか。
従業員の、個人としての人生や生活全体にアクセスすることが難しいとはいえ、それでも、会社側から働きかけられることは決して少なくありません。要するに、各従業員が、前回紹介した「幸せの四つの因子」を高められるようにすればいいわけです。第1因子は「自己実現と成長」でしたね。どんな仕事でもやらされるのではなく、やりがいをもってワクワクしながら取り組めば、この因子が高まり、より幸福になれます。しかしサラリーマン社会では往々にして、やりがいやワクワク感は組織の古い論理に封じ込められがち。そこで、ある企業では一つの方法として、“報・連・相”(報告・連絡・相談)禁止というルールを設けました。報・連・相を禁止することによって、組織の上から下へ権限委譲を促進し、全員がとにかく何らかの責任を持つようにする。そうすれば、かなりやりがいを感じられますよね。
やりがい探しという点でもう一つ。そもそも自分はどういうことにワクワクし、やりがいを感じるのか、対話を通じてその“根源”を探しだすという手法を紹介しましょう。私の研究室の学生が開発した“アソビジョン・クエスト”(遊びに基づくビジョンの探求)という手法です。こんなやりとりをします。
「小さい頃に好きな遊びは何でしたか?」
「鬼ごっこです」
「学生時代は何に夢中でしたか?」
「剣道部に所属して部活動を一生懸命やっていました」
「では、会社での今の仕事の面白さは何ですか?」
「リーダーシップを発揮して、いろいろなメンバーを適材適所で生かせるところです」
「では、それらの共通点を探してみましょう」
「そうか、自分は意外と“人を仕切る”のが得意だったんだ!」
と、なるわけです。いいかえると、これは、自分の好きなことややりたいことと現在の仕事とのつながりを、抽象度の高いレベルで発見する作業。ワークショップでこういう対話を行うと、「今までやらされていると思っていたけれど、けっこうやりたい仕事をやっていたんだ」と気づく人が実際、多いのです。
探してもなかなか見つからないやりがいは、案外、今自分がいる場所に眠っているのかもしれませんね。
すべての人は、長い人生でたくさんの選択肢に直面し、自分で選択を重ねてきた結果、今の自分があるわけです。ですから、忘れているだけで、意外とみんな、自分のやりたいことをやっている可能性は高いと思いますよ。そのままの形ではないにせよ、抽象度の高いレベルで自分を振り返ってみると、コツコツ積み上げることが得意だとか、他人のために何かをするのが好きだとか。それに気づくだけでも、ちょっとワクワクしますよね。また、職場の同僚とお互いの強みを言い合ったり、キャリアプランを語り合ったりするのもいいでしょう。「それ、いいね」とお互いに評価し合うだけで自信が持てるし、つながりも深まる。必然的に幸福度が上がるわけです。さらには、部や課で「幸福度を向上する改善提案」を楽しく出し合ったり決めたりすると有効です。
とはいえ、多くの職場では、そういう場や機会をなかなか持てないのが現実です。
本当にもったいないと思います。私は、従業員の幸福度を高める企業研修やコンサルも行っていますが、そういうワークショップを開いて、みんなでやりたいことを話し合うだけで、第1因子はもちろん、第2因子の「つながりと感謝」の度合いも相当上がります。自己受容ができれば、他者受容もできる。その結果、お互いに信頼し、尊敬し合う環境が構築できれば、より楽観的にもなれるし、他人の目や失敗のリスクを気にし過ぎることなく、何事にも前向きに挑戦できるようにもなるでしょう。つまり、第3の「楽観と前向き」因子も、第4の「独立とマイペース」因子も必然的に高まっていくわけです。前回述べたように、「幸せの四つの因子」は四つで一つ。それぞれがそれぞれに深く関わり、高め合う幸せのカギですから。
もちろん個々人の「気の持ちよう」といえばそれまでですが、その「気の持ちよう」の部分に、いままで日本企業の人事はほとんど手をつけてこなかった。システマティックな取り組みを怠ってきたのではないでしょうか。換言すれば、「気の持ちよう」を科学するのが幸福学です。幸せの四つの因子を満たせば従業員が幸せになり、幸せになればパフォーマンスも上がるというメカニズムが学問的に明らかになってきたわけですから、人事の方々にはぜひ、従業員の幸福度を高める仕組みづくりや環境整備に力を入れてほしいと思います。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。