就労者の疲労、頭痛、肩こり、腰痛と座位時間~座位時間が5時間を超えると頭痛、肩こりが増加。立ち仕事で腰痛が増加。
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子氏
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任 乾 愛氏
要旨
就労者の肩こり、腰痛などの筋骨格系の症状は、メンタル面の不調と並んで、プレゼンティーズムに影響を与える要因の1つとして課題となっている。
そこで、長時間同じ姿勢をとり続けている人では、座位時間も長い傾向があると考え、ニッセイ基礎研究所が被用者を対象に行ったアンケート調査を使って、仕事を行う際の体勢や継続時間、体型等が慢性的な肩こりや腰痛、頭痛等に影響することを確認した。
1――はじめに
就労者の肩こり、腰痛などの筋骨格系の症状は、メンタル面の不調と並んで、プレゼンティーズムに影響を与える要因の1つとして課題となっている 1。ニッセイ基礎研究所が、被用者を対象に行った調査においても、慢性的な肩こりや慢性的な腰痛は、仕事に影響を及ぼす自覚症状の上位にあげられた 2。デスクワーク等、長時間同じ姿勢をとり続けることは、肩こりや首こり、腰痛といった症状を引き起こす要因となるとされている 3。特に、肩こりについては、仕事中、座位中心で歩かない人や、相対的に筋肉量が少ないと思われる女性で症状が出やすい等、働き方や体型等との関連についても分析されている 4。また、最近では、新型コロナウイルスの感染拡大に伴うテレワークの増加で、肩こり、腰痛等の症状が増えたといった報告も多い5,6,7。
本稿では、長時間同じ姿勢をとり続けている人では、座位時間も長い傾向があると考え、被用者を対象に行ったアンケート調査を使って、肩こりや腰痛、頭痛等の慢性的な疲労や痛みを感じている人の働き方の特徴を、特に座位時間や体型に注目して分析した。
1 Nagata T, Mori K, et al; Total Health-Related Costs Due to Absenteeism, Presenteeism, and Medical and Pharmaceutical Expenses in Japanese Employers, J Occup Environ Med. 2018 May; 60(5): p273-p280.
2 乾愛「働く女性の自覚症状(健康問題)-4 人に 1 人が「慢性的な肩こり」を自覚、「精神的なストレス」が仕事へ最も影響、月経関連症状は 1 割未満-」ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート(2023年8月29日)、乾愛「働く男性の自覚症状(健康問題)-就労男性は「ストレスを感じる」が、自覚症状、 仕事へ最も影響する症状ともに高い割合に-」ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート(2023年8月31日)
3 スポーツ庁 DEPORTARE「お医者さんに聞いてみた~With コロナ時代に見直すスポーツの効能#03テレワークで肩こり・腰痛が増加」(https://sports.go.jp/tag/life/post-49.html)
4 加藤剛平他「勤労者の肩こり症状に関連する因子の検討」日本職業・災害医学会会誌 第67巻第2号、87-94(2019年)
5 Tezuka, M, Nagata T, et al: Association Between Abrupt Change to Teleworking and Physical Symptoms During the Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Emergency Declaration in Japan. J Occup Environ Med. 64(1): p 1-5, January 2022
6 第一三共ヘルスケア「テレワークによる体の不調「テレワーク不調」に関する調査」(2020年9月24日)
7 オムロンヘルスケア株式会社「【テレワークとなった働き世代1,000人へ緊急アンケート】 新型コロナウイルスによる、働き方・暮らしの変化により 「肩こり」「精神的ストレス」などの身体的不調を実感」(2020年4月28日)
2――使用したデータと分析方法
1|分析に使用した調査
分析には、2023年3月にニッセイ基礎研究所が行った「被用者の働き方と健康に関する調査」の結果を使った。この調査は、全国の18~64歳の被用者(公務員もしくは会社に雇用されている人)の男女を対象とするインターネット調査で、全国6地区、性別、年齢階層別(10歳ごと)の分布を、2020年の国勢調査の分布に合わせて回収した。回収数は5,747(男性3,458、女性2,289)だった。本稿では、このうち、必要な質問に回答した4,788人(男性2,828人、女性1,960人)を対象とした。
2|分析方法と使用した変数
調査では、男性には23個、女性には24個の症状をあげて、その中から直近3か月間に経験した具合の悪い所(自覚症状)のうち、仕事に影響を与えたものを、影響があった順に最大2つ答えてもらっている。本分析では、座位時間と関連がある可能性がある慢性的な症状の中で、回答数が多い「慢性的な疲労」「慢性的な頭痛」「慢性的な肩こり」「慢性的な腰痛」を回答した人の仕事内容や働き方や職場環境、生活の特徴を、特に座位時間に注目して分析する。
「慢性的な疲労」「慢性的な頭痛」「慢性的な肩こり」「慢性的な腰痛」と、座位時間をそれぞれ図表1に示す。仕事に影響を与えていると回答した割合は、「慢性的な肩こり」が7.9%(標準偏差0.27)で4つの症状の中で最も高く、ついで「慢性的な疲労(7.2%、標準偏差0.26))」「慢性的な腰痛(5.5%、同0.23)」「慢性的な頭痛(3.0%、同0.17)」が続いた。
続いて、座位時間の分布を図表2に示す。全体では、「5~8時間未満」が29.7%で最も高く、次いで「3~5時間未満(21.2%))」、「10時間以上(17.0%))」「8~10時間未満(16.3%))」「3時間未満(15.7%))」の順だった。
以下では、それぞれの自覚症状について仕事に影響を与えているかどうかを被説明変数とし、座位時間のほか、性、年齢、仕事の内容、就労時間(調査前月の残業時間数、自分の病気やケガによる休暇日数、自分の病気やケガ以外の理由による休暇日数)、運動習慣の有無(運動習慣がある場合を1とする)、睡眠で休養がとれているか(休養がとれている場合を1とする)、体型(肥満、またはやせ 8 にあてはまる場合を1とする)、職場環境として職場の物理的環境に対する評価、従業員の健康増進に対する勤務先の取り組み状況の評価を説明変数とするロジスティック回帰分析を行った。本人年収と所定労働時間(1日あたりの所定労働時間、週あたりの所定労働日数)、勤務先の規模は調整変数として投入した。回帰分析に使用した変数の概要を図表3に示す。
8 自己申告による。肥満とやせの両方を回答することはできない。
3――分析結果
4つの症状それぞれについて、仕事に影響があると回答した人を被説明変数とするロジスティック回帰分析の結果を図表4に示す。
1|ロジスティック回帰の結果
1)慢性の疲労
症状別に関連がある変数をみると、「慢性の疲労」が仕事に影響を与えていると回答している人については、男女差、年齢による差、座位時間による差はなく、仕事の内容が「医療福祉、教育関係の専門職 9」「接客サービス業」、前月の残業時間が多い、自身のケガや病気による休暇日数が多い、睡眠で十分に休養がとれていない、肥満、またはやせている、職場の作業環境(騒音、照明、温度、換気など)がよくない、勤務先は、「従業員の健康増進」についての取り組みが熱心な方ではないといった特徴があった。
9 例えば、「医療福祉、教育関係の専門職」の慢性の疲労に対するオッズ(発生しない確率(1-p)に対する発生する確率(p))と、「事務職」の慢性疲労に対するオッズを比較すると、「医療福祉、教育関係の専門職」のオッズが1.72倍となり、「医療福祉、教育関係の専門職」の方が「事務職」と比べて、慢性の疲労を感じていると解釈できる。ロジスティック回帰やオッズ比の詳細は、金明中「統計分析を理解しよう-ロジスティック回帰分析の概要」ニッセイ基礎研究所 研究員の眼(2019年7月19日)等をご参照下さい。
2)慢性の頭痛
「慢性の頭痛」が仕事に影響を与えていると回答している人では、女性、座位時間が5時間以上、仕事内容が「医療福祉、教育関係の専門職」、ケガや病気による休暇日数が多い、やせているといった特徴があった。
3)慢性の肩こり
「慢性の肩こり」が仕事に影響を与えていると回答している人では、女性、座位時間が5時間以上、前月の残業時間が長い、やせているといった特徴があった。
4)慢性の腰痛
「慢性の腰痛」が仕事に影響を与えていると回答している人では、男女の差はないが高年齢、座位時間が3時間以上と比べて3時間未満で立ち仕事が多い 10、仕事の内容が「医療福祉、教育関係の専門職」「生産、技能職」、前月の残業時間が多い、肥満である、勤務先は、「従業員の健康増進」についての取り組みが熱心な方ではないといった特徴があった。
10 立ち仕事は、腰部から臀部にかけてある中殿筋(ちゅうでんきん)という筋肉に負荷がかかりやすく、血流が悪化し凝り固まると、だるさや痛みなどを生じる。立ち姿勢も前かがみや骨盤に歪みが生じた状態、猫背や反り腰などで長時間立位を継続すると腰痛が生じやすいとされる。
2|各症状と関連がある変数の特徴と考察
1)性、年齢の特徴
~高齢・女性の就労が増えれば症状をもつ就労者が増える可能性
男女差があるのは頭痛と肩こりで、女性が男性と比べて高かった。年齢差があるのは腰痛で、年齢が高いほど高かった。症状の出やすさは、性、年齢の影響もあることが考えられ、今後、高齢・女性の就労が増えれば症状をもつ就労者が増える可能性が考えられる。
2)仕事の内容の特徴
~仕事を行う体勢等の影響に加えて、コロナ禍における疲れも出ている可能性。
「医療福祉、教育関係の専門職」で、慢性の疲労、頭痛、腰痛が高くなっていた。厚生労働省のサイトによると 11、医療福祉職が分類される「保健衛生」業は、全業種平均と比べて腰痛の発生件数は多く、腰に負担のかかりやすい動作が多いとされる。今回分析に使った調査を行ったのは2023年3月で、まだ新型コロナウイルス感染症への対応が残っていた時期であり、勤務のしやすさが業種、職種によって異なっていた可能性があることから、それぞれの症状が仕事の内容によるものなのか、コロナ禍への対応によるものなのか解釈には注意が必要ではあるが、「医療福祉、教育関係の専門職」の場合、そもそも腰痛が多い職業であったうえ、新型コロナウイルス感染症による対応患者数の増加によりさらに長時間頻回な作業動作が繰り返されたと考えられ、腰痛や疲労の自覚が多かった可能性が考えられる。教育関係者においても、新型コロナウイルス感染症流行後には、オンライン講義やタブレットを用いた授業等、コロナ禍前と異なる対応が求められるなどの影響が考えられる。
また、「接客サービス職」では、慢性の疲労が高くなっていた。接客サービスにおいても、コロナ禍では人と対面する機会を避けたり、対面する際にも慎重に行う必要があった期間が長かったことから、コロナ禍が影響している可能性もある。
「生産、技能職」では腰痛が高く、立ち仕事が多いことや、腰に負荷がかかる体勢での仕事が多い可能性が考えられた。
11 厚生労働省「職場における労働衛生対策(腰痛予防対策)」(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_31158.html)
3)労働時間や休養状況の特徴
~残業時間の長さが症状に影響している可能性。業務効率低下にとどまらず病気やケガによる休暇につながっている可能性も。
疲労、肩こり、腰痛は前月の残業時間の多さと関連があり、就労時間の長さや業務量の多さが身体の負担になっている可能性があった。疲労と頭痛は、ケガや病気による休暇日数の多さとの関連があり、これらの症状をもつ人は、(出勤しているものの)業務効率の低下にとどまらず、自身のケガや病気で休暇を取得する日数も多い傾向があった。
睡眠で休養が十分にとれていない人で、疲労を感じていた(あるいは、過度な疲労によって睡眠が十分にとれていない可能性もある)。慢性の疲労を感じている人について、前月の残業時間やケガや病気による休暇日数が多いことをから、適切な休養を必要としている可能性が考えられた。
4)座位時間、体型の特徴
~ 座位時間が長い、やせている、女性で頭痛、肩こり。立ち仕事、肥満の人で腰痛。
座位時間に関連がある症状は、頭痛、肩こり、腰痛で、頭痛と肩こりは座っている時間が5時間を越える人で症状を感じていた。特に頭痛は、10時間以上座っている人では3時間未満と比べて大幅に高くなっていた。また、これらの症状は女性ややせている人で多い傾向があり、相対的に筋力量が少ない人が座りっぱなしだと症状が出るといった既存の分析と整合的だった。一方、「腰痛」は座位時間が3時間未満の人と比べて3時間以上で少なかった。立ち仕事の人や肥満の人で腰への負担が高い可能性が考えられた。
頭痛・肩こりや腰痛は、長時間にわたって適切でない姿勢で作業をすることが要因となっている可能性が考えられた。
5)職場の作業環境、職場の従業員の健康増進に対する考え方の特徴
~職場の作業環境、職場の健康増進への取組み等への不満も
職場の作業環境(騒音、照明、温度、換気など)はよくないと感じている人は、慢性の疲労を感じている人に多かった。また、慢性の疲労を感じている人や腰痛の人で、勤務先が「従業員の健康増進」についての取り組みが熱心ではないと感じていた。職場の作業環境を見直すことで、従業員の身体への負担が軽減される可能性がある。また、慢性的な身体への負担が続くことで、職場における健康増進への取組みなどの不満を感じる可能性が考えられた。
4――おわりに
本稿では、ニッセイ基礎研究所が、被用者を対象に行った調査を使って、仕事に影響を与えている慢性的な症状(慢性の疲労、慢性の頭痛、慢性の肩こり、慢性の腰痛)と、性、年齢、働き方との関係を、特に座位時間や体型に注目して分析を行った。
今回の結果から、座位時間が長いことで頭痛や肩こり、立ち仕事が多いことで腰痛といった仕事を行う際の体勢や継続時間が慢性的な症状に影響することが確認できた。また、座位時間の長さのほか、筋肉量が少ないと思われる女性、やせている人で頭痛や肩こりの症状があること等の傾向は既存の文献と整合的だった。冒頭で紹介したとおり、慢性的な症状が、プレゼンティーズムに影響していることが知られているが、今回の結果では、疲労や頭痛は、病気やケガによる休暇日数も多く、アブセンティーズムへの影響もあった。
今回の分析では、運動習慣(1回30分以上の軽く汗をかく運動を週2日以上、1年以上実施)の有無は、いずれの症状とも関連がなかった。一般に、座位時間が長い人やコロナ禍で座位時間が長くなった人に向けて、適度な運動を推奨することがあるが 12、肩こりや腰痛等の防止には、運動習慣をもつだけでなく、仕事中の作業姿勢に留意するほか、同じ姿勢を取り続けないよう作業中にこまめに身体を動かすことが必要となることが考えられた。
近年、高齢者と女性の労働者が相対的に増加傾向にあることから、女性に多い頭痛や肩こり、高齢に多い腰痛等の症状をもつ就労者は今後増加する可能性がある。筋骨格系の痛みへの対策は今後も重要となると考えられる。
なお、今回の調査は、2023年3月に実施したことから、コロナ禍における対応が身体の負担に関連している可能性もある。新たにテレワークを導入する等、作業環境に変化があった職場では、従業員の体調の変化に留意する必要があるほか、職場とは異なる作業環境で仕事をする機会が増えた従業員に対して、適切な作業環境を確保することや、業務中に適切に身体を動かすことを勧めるなどの対応も必要となるだろう。
12 例えば文部科学省「With コロナ時代に運動不足による健康二次被害を予防するために テレワークで座位時間が増えた方向け(https://www.mext.go.jp/sports/content/20201105-spt_sseisaku01-000006777_1.pdf)」等。
ニッセイ基礎研究所は、年金・介護等の社会保障、ヘルスケア、ジェロントロジー、国内外の経済・金融問題等を、中立公正な立場で基礎的かつ問題解決型の調査・研究を実施しているシンクタンクです。現在をとりまく問題を解明し、未来のあるべき姿を探求しています。
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