誤解、偏見、思い込み!?
達人が教える“本当のダイバーシティ組織”とは(前編)
株式会社イー・ウーマン代表取締役社長
佐々木 かをりさん
ダイバーシティ=女性活用ではない、本質は「視点の多様性」
結局のところダイバーシティとは、性別をはじめ年齢や国籍、民族といった個人の属性の違いによるものと考えていいのでしょうか。
いいえ。そうした“目に見える違い”は必ずしもダイバーシティの本質ではありません。私が定義する“本当のダイバーシティ”とは、性別でも年齢でもなく、再三お話ししている「視点の多様性」のこと。違ったものの見方、とらえ方ができる人たちが集まっている組織こそが、健全かつ安全であり、強いということなんです。たしかに日本では、ダイバーシティというと、女性活用の文脈で語られることが多く、いまの女性活躍推進の流れもそこからきていることは間違いありません。しかし仮に、社員10名が全員男性である組織に、女性を3人加えたとしても、みんな、「私は赤」「私も赤」「私も赤」と意見に違いがないのであれば、多様性はないでしょう。逆に、10人の社員が全員同年代の男性でも、つねに10通りの意見を出してくるのなら、それは多様性にすぐれた組織と言っていい。見た目が多様なメンバーをそろえること以上に、メンバー本来のユニークなものの見方やとらえ方を引き出し、目に見えない視点の多様性を育てることが大切なんです。
女性であれば誰でもいい、何でもいい、というわけではないと。
男性でも女性でも、誰でもいいということはないでしょう。ただ、30年前、男女雇用機会均等法が施行されたのにもかかわらず、女性の数が増えなかった。女性をメンバーに加えるだけで、組織の問題がすべて解決するわけではありません。ただ、だからといって、女性活用に消極的な人たちに「やっぱり男だけでもいいんですね」と誤解されるのも困ります。今の日本の企業の中に、多様な視点をもつ人材を効率よく集めるために、あるいは男性中心の価値観で凝り固まった組織を刺激するために、まずは性別という目に見える、わかりやすい違いに着目し、多少強引にでも多様化を進めていくというのは、やり方として決して間違いではありません。現在の日本の社会では、女性が一番大きな、わかりやすいマイノリティーですからね。人は、何かしら目に見える明らかな違いがないと、思考が刺激されにくい。ブレイクスルーに至らず、行動や習慣も変わらないわけです。
目指すべきダイバーシティの究極は、あくまでも「視点のダイバーシティ」であり、そこにたどりつくための一つの突破口として、日本企業はまず、女性活用に集中して力を注ぐべきだということですね。
その通りです。いよいよこの4月から、従業員301人以上の企業に女性登用の数値目標化を義務付ける女性活躍推進法がスタートしますね。管理職全体に占める女性の比率を何割にすると決めることが、本質的なダイバーシティの推進に、必ずしも直結するわけではありません。それでも現在はとにかく、ここに一点集中して突破しないかぎり、先へつながる道はないし、視点のダイバーシティなんて夢のまた夢でしょう。だからこそ今回の新法は、25年までの10年間の時限立法としてつくられました。要するに、そうせざるをえないほど、女性の社会進出において、日本はまだ圧倒的に遅れているのです。世界機関のどこのデータをとっても日本の男女格差は歴然。とても先進国とはいえません。世界経済フォーラムの男女格差指数ランキングでは、145ヵ国中の101位。国家も、企業もダイバーシティを取り入れなければ、もはや成長は望めません。男女平等とか女性の権利うんぬんではなく、経済成長のために、多様性推進のファーストステップとして、女性から始めようと動き出したばかり――それが日本の現状ではないでしょうか。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。