誤解、偏見、思い込み!?
達人が教える“本当のダイバーシティ組織”とは(前編)
株式会社イー・ウーマン代表取締役社長
佐々木 かをりさん
売れすぎて販売休止!? 大ヒット商品も働く女性の視点から
経営に「視点のダイバーシティ」が入っていないと、多様化する消費者や株主が何を求めているかを正確に見極めることができないので、IR活動にも大きなリスクを伴います。例えば不祥事や事故を起こした企業の謝罪会見などを見ていて、「どうしてそういう言い方しかできないの」「お詫びの場でそれを言ったら逆にカチンとくる人もいるのに……」などと、不快に思われたことがあるんじゃないでしょうか。あれもやはり、特定の価値観を持った人たちが特定の視点から見て、「すばらしい」「完璧だ」と思っただけの、偏ったお詫びのしかたなんですね。事前に、多様な視点からのチェックを入れておけば、もっと多くの人の心に届くように、最低でも不快にすることがないように配慮が利いて、健全で安全なコミュニケーションができるはずです。
冒頭、経営に多様性があるほうが健全・安全なだけでなく、成長の可能性も大きい、というお話がありました。これについてはいかがですか。
多様性は、イノベーションの創出にも欠かせません。たとえば、これまでにない画期的な商品やサービスを開発する「プロダクト・イノベーション」。これを起こそうと思ったら、多様化する市場や消費者を、既存の視点で見ていてはダメなんですね。単一の同じ角度からいくら眺めても、新しいものは見えてきませんから。先述のティーカップの例えで言うと、死角になって、あるのに見えていない取っ手や模様の存在にどうやって気づくか。そのために、従来とは違う多様な視点や発想を確保することが、プロダクト・イノベーションのカギだといっていいでしょう。私たちイー・ウーマンも、クライアント企業に対し、“働く女性の視点”という新しい角度の発想を提供してさまざまな新商品開発をサポートしています。たとえば、2014年に味の素さんが発売した「トスサラ」Ⓡをつくりましたが、“粉末タイプのドレッシング”という画期的な商品で、大ヒットしました。
売れに売れて生産が追い付かず、一時、販売休止にもなりましたね。
働く女性は当然、毎日忙しい。忙しいけれど、いいえ、忙しいからこそ、それを言い訳にしたくない。自分と家族の健康管理に欠かせない野菜をもっとおいしく、楽しく、しかも手軽に摂りたいという思いが強いんですね。そんな働く女性ならではの視点をインプットして、開発されたのが「トスサラ」Ⓡでした。企業内の既存の視点からは見えないけれど、私たちからは見えているものを提案して、一緒につくっていったわけです。
またダイバーシティは、そうしたプロダクト・イノベーションだけでなく、業務の流れや進め方を一新する「プロセス・イノベーション」も促します。特定のネットワークに所属する男性たちが、単一の価値観とあうんの呼吸で、自分たちのやりやすいように牛耳ってきたのが伝統的な日本の職場でした。そこへ女性たちが進出し、活躍するようになれば、当然、仕事の進め方や各自の働き方、コミュニケーションの取り方なども、従来通りというわけにはいきません。LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)をはじめ、マイノリティーへの配慮を重視するなら、なおさらでしょう。外国人が加われば、宗教上の理由から、勤務時間中に数回仕事を中断してお祈りをしなければいけない、といったケースも出てくるわけですから。あらゆる人材を活かすためには、さまざまな角度から業務プロセスを見直し、仕事そのものを改革していかなければなりません。ダイバーシティの導入が、古い組織体質に風穴を開ける可能性は、決して小さくないと思います。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。