千葉商科大学・島田晴雄学長からの緊急提言!
これからの日本経済と再構築すべき人事戦略(後編)
~人材の有効活用とグローバル対応~[前編を読む]
千葉商科大学 学長
島田晴雄さん
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これからのグローバル展開では「モノ」でなく「ソリューション」で勝負
グローバル化への対応については、どうお考えですか。
グローバル化について言えば、これまで日本は工業製品で戦って勝ってきました。集団の力の結晶です。ただ、日本は先進国の中でも生活費の高い国であり、生産性が高くても、あまり安いモノは作れません。また、品質を重視するので、あまり値段は安くならないという構図です。一方、世界を見ると、人口が爆発的に増えています。飛躍的に増えている地域は、アフリカやインド、南アメリカで、工業製品に対する潜在需要は非常に高くなっています。しかし、これらの地域は所得水準が非常に低い。そして宗教の点で見ると、これからのマーケットはイスラム教が主流です。いずれにしても、日本から見るとこれらの世界は異文化で、かつ、大きなボリュームゾーン。このような国々で、日本はどう売り込んでいけばいいのでしょうか。
日本の工業製品は高所得仕様です。世界では高所得者層のマーケットは小さいわけです。これからは工業製品を売り込むのではなく、「ソリューション」で勝負していくことが重要だと考えます。
ソリューションとは、目に見えない付加価値の高いモノ。例えば、アイデアで世の中が大きく変わる、というようなモノです。和紙でふすまを作った場合、それほど高い値段は付きません。しかし、和紙で美術品として優れたタペストリーを作ると、途端に高い値段が付きます。これがソリューションです。また、車を「作る」ことは「製造」ですが、「設計」は「ソリューション」。つまり、これからはクリエイティビティーや知恵が重要になる、ということです。付加価値によって、単にモノを作ることよりも、もたらす利益が莫大になります。グローバルのマーケット構造を考えた場合、日本はこれから「ソリューション」で生きていくしかないように思います。
人や組織の進歩・発展に結び付くモノ、それがソリューションなのですね。
人事もまた、「ソリューション」が求められます。たとえば、「我が社のビジョン・ミッションを実現するために新しい賃金体系を構築する」。これがソリューションです。
目に見えないクリエイティビティーや知恵で勝負していくとすれば、ポイントは何ですか。
それぞれの国や地域の人たちとの信頼や信用をいかに構築するか、にあります。信頼と信用なくして、グローバルな展開は不可能です。ただ、日本人はこれが弱いのです。
どうしたら相手の信頼と信用を得る、つまりハートをつかむことができるのでしょうか。例えば、中東地域に赴任する日本のビジネスパーソンは、2~3年で戻ってくるケースが多いようです。言葉をうまく操れないので、深いコミュニケーションを取るのは難しく、相手の信頼と信用を勝ち取ることがなかなかできません。それに対して、欧米のビジネスパーソンは、言葉が上手なだけではなく、現地の社会や文化に溶け込んで生活しています。赴任期間もかなり長期に渡っています。彼らにすれば、これは国際人として当たり前のことなのです。
真の国際人になるためには何が必要なのでしょうか。
まず、相手の歴史や宗教、文化、価値観を知ること。これができていないと、相手から信頼・信用されません。NHK連続テレビ小説「マッサン」のヒロイン、エリーが周囲の皆から愛されているのも、異国の地で一生懸命に日本と日本人を知ろうと努力しているからです。日本人が海外に出ていく際には、同じことが求められます。と同時に、日本のことを相手に分かってもらうためにも、日本の歴史や文化を我々自身がよく理解していることです。これができなくては、相手と対等に話ができませんし、お互いの理解も深まりません。
その中で、日本の教育で決定的に欠けていることがあります。それは明治以降の「現代史」をまったく教えていない、あるいは正しく教えていないこと。特に、1920年以降の現代史です。この時期、日本は何度も戦争を行っています。この時の日本の行動がアジアをはじめ欧米諸国に強いインパクトを与えているのです。日本人はこのことを自覚していません。それが、外国人とのコミュニケーションが成り立たない原因だと私は思っています。日本を卑下するために学ぶのではありません。私たちが客観的に現代史を学んでいないことが、海外の人たちとのコミュニケーションを妨げる大きな原因となっているからです。だからこそ、現代史の部分について、相手の言葉で客観的な事実を伝えることができれば、反応も随分と違ってくることでしょう。
ビジネスの場面でも、特に「ソリューション」を売るような場合は、まず相手に信頼・信用されなくては話が始まりません。相手の歴史や宗教、文化、価値観などを「教養」として理解していることが大前提ですが、まずは我々自身が日本の歴史、文化などついて正しく知ることが大切です。そうすることで、日本に誇りを持つことができます。こうした土壌をつくり、相手と話し合うことによって、相互理解が生まれ、親密な関係を構築することができます。
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さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。