千葉商科大学・島田晴雄学長からの緊急提言!
これからの日本経済と再構築すべき人事戦略(前編)
~メガトレンドから見た、日本企業の現状と課題~
千葉商科大学 学長
島田晴雄さん
深刻な若年層の雇用実態
日本、そして日本企業はこのままでは、持続可能性がないということですね。では、どう対応すればいいのでしょうか。
国内市場は加速度的に小さくなっていきます。人口が減るわけですから、例えば食品産業などは直接的な打撃を受けます。そのため海外に出て、活路を見出していきます。そうしないと生きていけません。このようなことは、他の産業でも起きていきます。
また、これからの日本は、非常に税金の高い国になっていきます。重税に耐えかねて、海外に進出する企業が増えることでしょう。有力な大企業は、海外の連結子会社などでヘッジをかけているからまだいいのですが、国内にある多くの中小企業は大変です。存続の危機に陥るケースが出てくるはずです。
先般、話題となった、いわゆる「増田レポート」(増田寛也氏が座長を務める日本創生会議による発表)では、地方の人口が減少することによって「2040年までに896の自治体が消滅する」と予測しています。これは今まで言ったことと全く同じ構造で、日本の地域社会の持続可能性が問われているのです。
そう考えると、これからの時代を担う若い人の存在がとても重要です。とにかく若い人には、環境が大きく変化する中にあっても、希望を持って頑張ってほしいと思うわけです。では、それをどう支えていくか。会社において人事は、若い人に一番近く、彼ら彼女らを支えることができる存在です。ところがこの40~50年の間に、人事制度は全く変わっていません。
例えば、伝統的な日本型雇用。高度成長時代、経済が持続的に成長すると見込まれる中で、企業は労働力の採用と内部訓練に注力しました。しかし、1990年代後半以降は、低成長とデフレの時代が続きました。こうした状況下では、全員雇用を維持することも、毎年の賃金引き上げを維持することも難しく、労働者の能力と成果に応じた雇用の選別と、能力と成果に応じた報酬の仕組みが求められます。しかし、日本の労働市場と企業内の労使関係の下では、そうした働き方の改革は、既得権者の強い抵抗にあってなかなか実現せず、日本はいつの間にか労働生産性でも世界諸国に大きく遅れを取るようになりました。まずは、これを見直さなくてはなりません。
島田学長は、20年以上前からそのことを強く指摘していらっしゃいました。
結局、このままの人事制度だと若い人が壊滅的な状況になってしまうからです。日本には300万ほどの失業者がいますが、このうち、半分以上が30代以下の若い人たちです。彼らは、「就職氷河期」に就職活動を行った人たち。日本の解雇法制は頑迷にできていて、企業は解雇することが難しいわけです。新入社員を採用したくても、中高年を解雇できないので、景気が悪くなると新卒採用を中止したり、手控えるようになり、バブル経済崩壊後このような状態がしばらくの間続きました。
そして、1990年代の前半に大学を卒業した人は現在、40代の中ごろになっていますが、正社員の仕事に就けていない人が一定数います。その多くはフリーターです。フリーターは内閣府の調査では400万人を超えています。そして、ニートやワーキングプアの人たちがいます。また、派遣や請負など、非正社員の人が日本には1900万人くらいいますが、そのうちの半数を30代以下の若者が占めていると言われています。
こうした状況を見ると、日本の雇用システムは非常に良くないと思います。というのも、仕事の中身や成果で報酬はなく、雇用される地位・立場で報酬が決まるからです。例えば、正社員と派遣社員が同じ仕事をしていても、賃金には相当な差が出ています。正社員を守るためとは言いますが、「同一労働同一賃金」の観点から言っても、これは明らかな「身分差別」だと思います。
問題は、さまざまな形で正社員に就いていない若者が、きちんとした教育訓練を受けていないこと。処遇も悪い、夢や希望、将来への展望がない、という大変厳しい状況に置かれています。こうした人たちは、1000万人以上いると推計されます。この20年間、まさに若者が置き去りにされてきたというわけです。
労働力がどんどん減っていて、2050年には5000万人を切ることは確実と言われています。
その時代、中核的な労働力となるのは40~50代の人たちですが、それはまさに今の若者です。しかし、若者が過ごしてきた状況をみると、とても中核になるとは思えません。この点でも、日本には持続可能性がありません。これは明らかに雇用の責任です。
なぜ、こういうことになったのでしょうか。
国際労働機関(ILO)が基本的人権の一つとして「同一労働同一賃金」という大原則を打ち出していますが、日本はこれを完全に無視しています。同一労働でも、雇用される地位・立場が違うと賃金が大きく異なっているわけで、これは国際的にも大きな問題です。また、これは企業だけにとどまらず、大学などの職場でも立場・雇用形態による賃金差別が見られます。日本の雇用のあり方が残した重大な弊害が、現在でも至るところに蓄積しています。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。