環境型、対価型のほかに「制裁型」「妄想型」が!
最近増えている新型セクハラの類型と、企業がとるべき対処&未然防止策
4. 自社内で解決を図ること難しい場合
ただ、これまで述べてきたケースは、対処法はある程度規模の大きな組織を想定したものです。
2007年の均等法改正では、企業に対してセクハラ防止のため雇用管理上必要な措置を講じることが義務付けられましたが、中小・零細企業には社内の相談窓 口などは設けられていないのが現実です。そのような場合は、都道府県の労働局の「総合労働相談コーナー」に相談してみるとよいでしょう。また、厚生労働省 の雇用均等室が委託運営している「仕事応援ダイヤル」では、社会保険労務士が相談に乗ってくれます。法務省の「女性の人権ホットライン」では、セクハラを はじめドメスティック・バイオレンス(DV)やストーカーなど幅広い分野での相談に対して、女性の人権問題に詳しい法務局職員もしくは人権擁護委員が対応 しています。このような公的機関を活用することも解決の糸口につながる可能性を広げます。
■行政が運営する相談窓口
仕事応援ダイヤル(厚生労働省雇用均等室)
→ TEL:0120-07-4864(固定電話のみ。フリーダイヤル)0570-07-4864(携帯電話用。有料)
女性の人権ホットライン(法務省)
→ TEL:0570-070-810(PHS、IP電話は不通)
5. 情報提供、啓蒙による未然防止が最善の対策
これらはいずれも「ことが発生した場合」の対処であり、本来は「未然に防ぐ」という姿勢こそが求められます。そのためには、企業は常日頃から社員に対して「セクハラ研修」などの学習機会を設けるべきでしょう。
「セクハラ研修」は一般社員を対象としたものと、管理職を対象としたもの、両方の実施が効果的です。前者は広くセクハラの防止と理解、後者は万一セ クハラが起きたときの管理者の対応について学ぶことになりますが、いずれも企業がセクハラの防止に積極的に取り組んでいることを社員に浸透させる意味でも 抑止効果が期待されます。研修では、総論ばかりではなく、具体的な事例を豊富に交えて「何がセクハラなのか」を明確に伝える研修内容、講師を選定すべきで す。
筆者が専務理事を務めている一般財団法人女性労働協会では、セクハラ防止・対応などの研修やコンサルティングも実施していますが、このような外部機 関に研究や調査を委託するのも1つの方法です。外部機関は社内の意識調査や、セクハラの実態調査、ヒアリングなどを実施しやすい立場であり、また好事例な どの情報を得られたりします。
セクハラは火事と似ていて「火を消す」ことよりも「火を出さない」ことに注力すべきなのです。そのためには日常的に「どんなことがセクハラに当たる のか」「セクハラをしたら自分のキャリアに傷がつく」という情報を流し続けることが大切です。特に無意識に「セクハラ行為」を行っている人達は、自覚がな いので罪の意識もありません。しかし、被害者は確実に傷ついているのですから、その事実は重く受け止めてもらわなくてはならないのです。そのための「共感 力を高める」「立場が入れ替わったら?」といった気づきを与える研修も必要になってくると思います。
近年、セクハラはどんどん複雑化・多様化しており、今回取り上げた「制裁型」「妄想型」のほかに、男性から男性へのセクハラ、女性から女性へのセク ハラ、性同一性障害者に対するセクハラ、女性から男性へのセクハラなどの存在も伝えられています。従来の「男性から女性に対するセクハラ」だけにとらわれ ていると、現実を見過ごしてしまいそうな状況に私たちは直面しているわけですが、それだからこそ、他者に対する共感力や理解力、想像力を意識的に持つ姿勢 が改めて求められるのではないかと思います。
ふくざわ・けいこ ● 早稲田大学政治経済学部卒業。朝日新聞記者を経て2003年より東京家政大学人間文化研究所助教授。2007年より日本女子大学客員教授、2011年より一般財団法人女性労働協会専務理事、2012年より昭和女子大学特命教授。専門領域は女性の就業支援を中心にキャリア開発論、労働法、メディアリテラシー。
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