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「解雇」をめぐる使用者と労働者の主張が対立!裁判外紛争解決手続(ADR)でどう和解させるか

個別労働紛争の現状・紛争解決システムの多様化

昨今の企業経営をめぐる環境の変化の中で、就業形態の多様化が進行するとともに、人事労務管理の個別化も進むという状況下において、個々の労働者と使用者との間の個別労働紛争が増加傾向にあることは周知の通りです。

このような個別労働紛争の解決手段については、我が国には、裁判所、行政機関等といった様々な主体による調停、あっせん等の多様な形態の裁判外紛争解決手 続が用意されています。これらの調停、あっせん等の裁判外紛争解決手続は、厳格な手続きにのっとって行われる裁判手続に比べると、簡易、迅速に手続きが進 行することもさることながら、第三者の専門的な知識経験により、労使当事者の紛争の実情に応じた柔軟な解決が可能であるという特徴があると言われています (もっとも、これらの調停、あっせん等は、あくまでも労使当事者の合意が必要であり、労使当事者が合意をしない限り紛争の解決が図れないことは当然であ る。それゆえ、最終的に裁判手続が必要であることには変わりはない)。

そして、これら裁判外紛争解決手続の状況ですが、例えば、厚生労働省の発表によれば、都道府県労働局における紛争調整委員会へのあっせんの申請についてみ ると、平成16年度の1年間に申請を受理した事案の都道府県労働局における処理状況は、手続きを終了したものは5,878件、このうち、合意が成立したも のは2,638件(44.9%)、申請者の都合により申請が取り下げられたものは480件(8.2%)、紛争当時者の一方が手続きに参加しない等の理由に より、あっせんを打ち切ったものは2,700件(45.9%)です。また、紛争の処理に要した期間は、1カ月以内が66.4%、1カ月を超え2カ月以内が 26.5%となっており、迅速に処理されていることがわかります。紛争の事例としては、解雇、労働条件の引下げ、いじめ・嫌がらせ等が多いようです。

しかし、合意が成立したものが半数もなく、残りは裁判手続で処理されたのかどうかは不明ですが、裁判手続で処理されることとなった事案も相当数あるものと思われます。

そこで、個別労働紛争において裁判手続はどの程度活用されているのかですが、この点、資料が若干古いですが、「平成15年度労働関係民事・行政事件の概 況」によれば、全国地方裁判所における労働関係民事通常訴訟事件の平成15年の既済件数の内訳を終局事由別にみると、和解で終了した事件が1,099件と 全体の45.9%を占めており、次いで判決で終了した事件が997件と41.7%を占めています。さらに労働関係仮処分命令事件については、平成15年の 既済件数の内訳を終局事由別にみると、和解で終了した事件が330件と全体の43.6%を占め、決定で終了した事件が302件と全体の39.9%を占めて います。

一般の民事事件の第一審での和解による解決率は3割強(最高裁判所事務総局民事局「平成15年民事事件の概況」法曹時報第56巻第11号参照)であること からすると、個別労働紛争が訴訟等の手続きによっても、訴訟上の和解により解決される割合は一般の民事事件よりも大きいことがわかります。

個別労働紛争解決のために必要なこと

以上のように、個別労働紛争における紛争解決において、労使当事者による合意による紛争解決は非常に重要な意義を有しているものと思われます。

しかし、労使当事者が合意により紛争解決に至るためには、当然のことながら、相手方の「理解」と「納得」を得ることが必要です。相手方の理解と納得を得ることができなければ、そもそもお互いに譲歩して和解をすることなどあり得ません。

そして、この相手方の理解と納得を得るためには、最終的な紛争の解決手段である判決の結論を想定しておくことが重要であるものと思われます。なぜなら、判 決の結論を想定することにより、自らにとって不利な結論を回避するために和解の途を選択することが容易に予想できるからです。

この点、請求金額が低額な事件において、請求する者が求める金額の半額でどうかと、主張立証関係の不備を指摘したり、判決の予測等を考慮することなく、い きなり和解を勧められたりすることもよくありますが、このような和解の進め方で、真実、相手方の理解と納得が得られるのかはなはだ疑問です(もちろん、経 済合理性を考慮した上で和解が成立する場合があることは否定しないが)。

労使双方の主張を法的に整理

以上のように、増加している個別労働紛争について、あっせん等の手続きにより和解で解決することが適切な場合も多いでしょう。その場合でも、各事案におい て労使が主張立証するべき事項を意識した上でその処理にあたることが重要であることはいうまでもありません。これらの作業を行うことにより、労使がお互い の主張立証の弱点を認識することにより、互いに譲歩し和解が可能となるでしょう。また、これらの事項を意識しておくことにより紛争を事前に予防することも 可能となるものと考えられます。

そこで、ここでは、各都道府県に設置されている紛争調整委員会のあっせんの場での解決を念頭におき、架空の解雇、懲戒処分、退職勧奨等を題材として、労使双方の具体的な言い分を示す形式により、

(1)労使双方がどのような主張をし、それを法的に整理するとどのように構成することができるのか

(2)労使双方の主張を相手方に納得させるためにはどのような資料を収集しておくべきなのか

(3)労使双方が和解により解決することを望む場合にはどのような内容の和解となるのか 等を主眼において説明を加えていくこととします。

事例――解雇事案

以下の事例を読んで、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(個別労働関係紛争解決促進法)に基づき、都道府県労働局に設置されている紛争調整委員会 によるあっせんの手続きを利用するとして、労使それぞれの立場に立って、(1)労働者の言い分を読んで、どのような申立てをすることが考えられるか、 (2)使用者の言い分を読んで、どのような反論をすることが考えられるか、(3)労使双方の言い分を根拠付ける資料としてはどのようなものがあるのか、 (4)和解をする場合にはどのような内容となるのかを考えてみましょう。

1.労使双方の言い分

1.労働者の言い分

1.私(以下「X」ともいう)は、平成16年2月1日に甲進学塾株式会社(以下「甲進学塾」、「会社」あるいは「当社」という)に教務部長として入社して、平成16年7月31日に解雇されるまで、甲進学塾で勤務していました。私が甲進学塾に就職したのは、甲進学塾の社長の甲野太郎(以下「甲野」という)が私の高校の先輩であったという縁です。もっとも、就職といっても私は大学を卒業して教員になりたかったのですが、不運にも採用試験に何度か落ちてしまい、教員として採用されるまでのつなぎのつもりでした。

2.なお、私は、大学3年在学中の平成13年4月から甲進学塾で週に1コマですが非常勤講師としてアルバイトをしていたことがありました。しかし、大学4年のときに教員採用試験に失敗したときに、人を教えるということが一時的に嫌になり、平成14年11月でアルバイトをやめて、法律事務所で法律事務の仕事をやっていました。

3.私が、法律事務所で仕事をしていた平成16年1月初めころ、甲野から電話があり、「今、生徒数が増え講師も増員している。管理業務の人手が足りないので、もう一度うちの会社を手伝ってくれないか。」と誘われました。私は法律事務所での仕事も面白かったのですが、もう一度、教職に就きたいと考え、教員試験の勉強を開始しようとしていたのですが、法律事務所の仕事は残業も多く、土日出勤も珍しくはなく、試験勉強の時間もなかなかとれない状況でした。そこで、私は比較的勤務時間も規則的であると聞いていたので、甲進学塾でお世話になろうと考えました。

4.その後、平成16年1月中旬ころ、私は、甲野と面談し、その席で、私が担当する業務内容として、生徒数増加に伴う指導・管理体制の充実等、具体的には、年間カリキュラムの作成・管理、各学年・各教科の進行状況の全体的な把握、出席簿の管理、授業日誌の管理、成績管理、講師の勤務評定のための準備等の教務全般にわたる内容が示されました。そして、教務部長として採用されること、賃金は月額50万円であることなど労働条件が提示され、私は甲進学塾と雇用契約を締結しました。

甲進学塾は、大手の進学塾とは異なり、1人の講師が少人数の生徒に対してきめ細かく指導することを特色としている学習塾です。それゆえ、必然的に講師の人数が多くなります。私が甲進学塾に採用された時点では、講師は30名も在籍していました。

反面、講師を管理する管理業務を行う者は、私のほか、常勤の者として甲野、福岡、および富山の4名しかおりませんでした。そして、毎週月曜日にこの4名で会議を開いて会社の運営を討議し、そこで皆で意見を交換し、最終的に甲野が決定するのです。

そして、私が教務部長として生徒の出席状況や講師の授業内容のチェックなどを担当し、福岡が入試問題等検討部長として各国立中学、私立中学の入試問題を分析して授業用の資料を作成する責任者となり、富山が総務部長としてその他の庶務の業務を行っていました。

5.このような状況ですが、私は、平成16年7月31日、甲野から事務室に呼び出され、同日をもって解雇する旨いきなり言われました(以下「本件解雇の意思表示」という)。

私は、甲野に対し、「どういう理由でいきなり解雇するのですか」と質問をしたところ、甲野はその理由として、私には労働者としての能力・適性が欠如していること、私が規律違反行為を行ったこと等の説明を受けましたが、いずれも解雇の合理的な理由にはなりえないと思います。むしろ、甲野が私から業務について意見されたことが面白くなく、腹立ち紛れに、部下の私が気に食わないという一時的、個人的感情に走り、気まぐれから、私の生活を困窮に陥れる本件解雇の意思表示をしたものに過ぎないと思います。

さらに、甲野は、私に「解雇予告手当を50万円支払うからこの受取書にサインをしてほしい」と言って、現金50万円を提示しましたが、私は、解雇されるようなことは一切行っておりませんでしたので、50万円の受領は拒否しようと思いましたが、お金に困っていたこともあり、これを受け取りました。

6.以上の通り、甲学習塾の本件解雇の意思表示は、何ら理由がなくなされたものですから、無効だと思います。ですから、解雇の無効とともに、未払いの賃金の支払いを求めたいと思います。

7.次に甲進学塾が私の勤務状況等についていろいろと主張しているようですので、それらについて以下説明します。

(1)試用期間の有無について

甲進学塾は、まず、私との雇用契約の内容について、平成16年2月1日から6カ月間の試用期間を設けていたと主張するとともに、試用期間満了時点において正社員としての適性がないと主張しています。しかし、私が甲野と面接をした際にはそのような話はありませんでしたし、甲進学塾からもらった雇用契約書にもそのような記載はありません。それゆえ、試用期間の主張には理由がないと思います。

(2)解雇理由について

(あ) 次に解雇理由ですが、まず、甲進学塾は、私がパソコンソフトを使いこなせていないことについて論難しています。確かに、私が希望して当該パソコンソフトを導入してもらったのですが、私も初めて利用するパソコンソフトであり、その操作、使用方法に習熟して初めて効果的に利用できることは当然で、新規にパソコンソフトを導入したからといって、直ちに使いこなせるものではありません。私も会社では練習する時間がなく、使いこなせていないパソコンソフトを使っていたのではかえって業務に支障が生ずると思いましたので、自宅で練習していたのです。

(い)また、甲進学塾は、私が、ある講師(ある中学校を定年退職なさった方でワープロ等の作業が苦手な方です)から頼まれた手書きのテスト問題を私が1日かけて打ってあげたことが教務部長としての業務を果たしていないので、それが解雇理由であると主張しているようですが、確かに、他に事務員がいるのですが、それを私が行うことがどうしていけないのでしょうか。

(う)さらに、甲野進学塾は、私が、上司である甲野の悪口をいうなど職員として不適格であるとも主張しています。しかし、そのような事実はありません。私は、講師達が賃金で不満を持っていることを聞きましたので、「社長ももう少し考えてくれてもいいのにね」という趣旨のことは言いましたが、社長を馬鹿にするような発言は一切していません。

(え)また、会社内で就業規則の改正の件が議題となった際、確かに私は社長に対して「会社の憲法なのだから、まず、改正案の原案は社長がお作りになるべきだ」とお話しました。しかし、社長が自分で原案を作ると言わないので、少し強い口調で社長御自身が作成するべきだと進言したに過ぎません。また、その会議の際、近くに講師達がいましたが、私は間違ったことを言ったつもりはありません。

 (お)さらに、甲進学塾は、私が業務上の指示に従わず、職場での協調性を欠いていると事実に反する主張をしています。私は業務上の指示に反したことはありません。

(か)さらに、甲野は、私に対し、数えきれないほどの注意をし、私が自己の非違行為に対して反省文を書きながらまったく反省がなく、かえって反抗的で改善の見込みがないとも主張しています。しかし、確かに私は1回反省文を書いたことはありましたが、その後、反省文を私が書いていないことは、私が反省して反抗的な態度が改善したことの証拠だと思います。また、甲進学塾から解雇を検討せざるを得ない等の注意を受けたこともありません。

8.以上の通り、甲進学塾が挙げている解雇理由はいずれも理由がないことは理解してもらえると思います。

9.仮に、解雇理由があったとしても、解雇でもって対処することは重きに失すると思います。

2.使用者の言い分

1.当社は、平成16年7月31日、Xを解雇しました。Xを今回採用するにあたっての経緯はXの述べる通りですので、特段、説明はいたしません。

以下では本件雇用契約に試用期間が設定されていたことおよびXを解雇した理由をご説明いたします。

2. (試用期間が設定されていたことについて)
確かに、当社とXが交わした雇用契約書には試用期間の記載がありません。しかし、当社の就業規則には、入社後6カ月間は試用期間とする旨が規定されていますし、当社がXと採用条件等を説明する際、6カ月の試用期間を設けることについて合意しました。また、過去に採用した職員全員についても同様に口頭ですが試用期間を設けることで合意をしてきており、現に、2名ほどの職員については能力不足を理由に本採用を拒否したこともありました。

3. (本件の解雇理由について)
(1)当社は、児童減少傾向にある今日においても少人数指導という方法を採用していることもあり、生徒数が毎年増加しています。それに伴って、アルバイトの講師の人数も増え、就業規則や契約書等を整備する必要があり、これらの管理体制等を整えてくれる人材としてXを採用しました。ところが、社長の甲野がXに対し、これらの契約書等の作成を指示してからXが就業規則の改定案や講師契約書の原案が提出されるまでに1カ月半もかかったのです。そして、提出された原案は、1カ月半もかかるような内容ではなかったのです。

(2)また、当社は、Xを雇い入れるにあたり、Xが「最新のパソコンソフトが必要である」と言ったため、パソコンソフトを購入してインストールしたのですが、それにもかかわらず、Xはそのパソコンソフトを利用しようとしないのです。当社は不思議に思い、Xに「どうしてパソコンソフトを使用しないのか」と確認すると、Xはそのパソコンソフトを操作した経験がなく、扱い方がよくわからないとのことでした。当社は、Xに対し、「あなたがほしいといったパソコンソフトを使用できないとはどういうことか。あなたの希望でパソコンソフトを導入したのにまったく無駄になったではないか」と叱責しました。 このように、Xの勤務態度、成果は当社の期待とはほど遠いものでした。

(3)また、ある講師が平成16年4月15日に行う予定のテストにつき、手書きの問題をワープロで打つことをXに頼んだことがありました。Xは、4月13日にパート事務員にワープロを打たせた上、翌14日に、管理業務をまったくせずに、1日かけてX自身でテスト問題の仕上げをしてしまったということがありました。この点に関し、甲野が「管理業務をしないでテスト問題の作成で時間を潰すとは何事か」とXに対して注意したところ、Xは、「生徒のためになることだからいいではないか」と見当はずれの反論をしてきました。

当社は、Xを会社の管理体制の整備のために雇い入れたのですから、Xがテスト問題を改良するためとはいえ、自らの管理業務を行わないで、テスト問題の校正作業を行うために1日を費やすということはXが自らの職責について自覚を持っていないと考えざるを得ませんでした。さらに、Xは当社が行った注意に対し理由もない反論をしているのですから反省していないものと考えざるを得ませんでした。もちろん、当社は、Xにテスト問題のワープロ入力を依頼した講師にも注意をしました。

(4)さらにXは、甲野のいないところで、講師に対して、講師達が労働条件等の待遇に不満を漏らしたときに、「反省文を出しなさい、始末書を出しなさい」と発言をするとともに、「社長は少し頭が悪いからあなた達が出した反省文や始末書の意味もわからない」等甲野を馬鹿にする発言を行ったりしていました。これらのXの発言は、教務部長という要職にある地位の者にあるまじき発言だと思います。

(5)さらに、平成16年7月15日の事務局会議の際、講師の就業規則を作成する件が議題となり、甲野がXに対し、「私は勤務規定を作る時間が取れないのでXが原案を作成してほしい」との指示をしたところ、Xは、社長に対する口調とは思えないほどの怒号を帯びた口調で「就業規則は会社の憲法であり、社長自らが作成するものである。このような重要な規則を社長が作成しないなんて考えられない」と言って、就業規則の原案を作成しようとしませんでした。このXの社長に対する発言を受け、富山は、その場でXに対し、「上司に対し、そんな口を聞いてはいけない。Xは会社の管理体制を整備するために採用されたのだから、あなたが率先して就業規則を作成するのが本筋ではないか」と意見を述べました。これらの意見を踏まえ、甲野は、「会議の席では自由に意見を述べるのは大いに結構である。私はそのような意見を踏まえ、社長として最終判断を下す。しかし、当社は学習塾であり、アルバイトの講師や生徒さんもいるのだから、大声で怒鳴るのはやめよう。Xは今後、言葉遣いに注意しなさい」と注意しました。そして、翌16日、甲野は、Xに対し、「昨日の会議のような態度を今後あなたが行うようであれば、到底、教務部長としては不適格である。反省文を書いてきなさい」と注意をし、反省文を書いて提出するよう求めました。そして翌日、Xは当社に反省文を提出してきました。その内容は甲野宛で、「これまでの言動を深く反省し、これからの言動は、甲野社長およびまわりの皆様の誤解を招かないように、慎重に配慮し、会社の発展に協力することを誓います。」というものでした。ただ、Xは、反省文を提出する際にも甲野に対し「なぜ、反省文を書かなければならないのか」と大声で甲野に話しかけ、反省しているそぶりはまったくありませんでした。

(6)さらに、当社はXに対して再三その問題行動について注意指導をしてきました。上記の反省文のほか、同年7月17日に、Xに対して、(1)反発せずに素直に甲野の指導や注意を受けてほしいこと、(2)反省文提出後もXは反抗的な態度であり、このままでは雇用を続けられず、解雇もやむを得なくなってしまうことを警告し、さらに同年7月21日にも、甲野とXで話す機会があり、その際、甲野は、Xに対し、「本当に今のままでは困る、もう少し協力的に仕事をしてくれないか、この状態が続けば本当に解雇になるかもしれない」旨警告しました。Xは、「解雇の警告を受けたことはない」と言っているそうですが、反省していないことの証拠だと思います。

以上、お話しました通り、当社は、急速に経営規模が拡大している一方で、組織的な充実が立ち遅れ、その管理体制の充実等が急務とされていたところ、Xがその能力を期待され、右管理体制充実等の職務を中心に担当すべき教務部長として採用されたものであるにもかかわらず、Xにはその職責および期待に対する自覚に欠ける面があり、他方では、独断による越権行為であると非難されても仕方のないような行為をし、教務部長の発言としては相当性に欠ける対応をし、相当な程度を越えて自己の考えに固執し、甲野に対し不適当な言動をし、一度は反省文を作成するに至ったにもかかわらず、なおも複数回にわたって甲野から注意を受け、同僚からも注意を受けているが、反省はみられず、かえって反発するかの言動がみられるなどという事実が、採用して僅か6カ月も経たないうちに生じているのですから当社としては到底看過することはできません。

2 言い分の検討

1.労働者の言い分の検討

(1)労働者は何を求めているのか

まず、労働者の言い分を聞くにあたり、どのような解決を望んでいるのかを確認する必要があります。

そうすると、Xの言い分の中に、「以上の通り、甲進学塾の本件解雇の意思表示は、何ら理由がなくなされたものですから、無効だと思います。ですから、解雇の無効とともに、未払いの賃金の支払いを求めたいと思います。」と記載されていますので、甲進学塾がなした解雇は無効であり、現在もXが甲野進学塾に対し雇用契約上の権利を有することおよび解雇後の賃金の支払いを求めることが、Xの望む解決であると考えられます。

この点、労働者の相談を聞いているといったいどのような解決を希望しているのか定かではない場合もありますが、そのような場合には、どのような解決を求めているのか、法的にどのような主張が可能なのかを整理して確認することが必要です。

また、Xは賃金の支払いを求めていますので、賃金の額、賃金の締切日、賃金の支払期日も忘れずに確認する必要があります。

(2)あっせんを申請するにあたり申請書に記載しておかなければならない事実および追加して聴取しなければならない事実は何か     

(あ)地位確認請求について民事訴訟においては、雇用契約上の地位の確認を求める労働者は、訴訟要件として確認の利益があることの主張立証をすべきであり、通常は「使用者による雇用契約終了の主張」(本件では解雇されたこと)がこれに当たると言えます。

具体的には、地位確認請求の請求原因は(1)雇用契約の締結、(2)使用者による雇用契約終了の主張の2点です。

したがって、Xは、(1)平成16年2月1日、Xと甲進学塾は雇用契約を締結したこと、(2)甲進学塾による雇用契約終了の主張という点を主張立証する必要があります。

さらに、使用者は、この労働者からの請求に対する抗弁として、解雇したという事実を抗弁として主張立証すればよいのですが、実務上は労働者が、解雇されたことを主張立証している場合がほとんどです。そのため、訴状を記載する段階から、本来再抗弁事実である解雇権濫用の評価根拠事実を主張立証する必要が生ずることに注意するべきでしょう。

そして、本件における解雇権濫用の評価根拠事実としては、労働者の言い分の7(2)に記載の事実を摘示すればよいでしょう。

(い)賃金支払請求について

賃金支払請求権の請求原因は、(1)労働者と使用者は、労働者が使用者に対し労務に服することを約し、使用者が労働者に対し月額○円の賃金を支払うことを約したこと、(2)労働者が(1)の労務に服することができなかったこと、(3)(2)が使用者の責めに帰すべき事由によることを基礎付ける事実です。

したがって、Xは、(1)平成16年2月1日、Xと甲進学塾は、Xが甲進学塾に対し、教務部長としての労務に服することを約し、甲進学塾がXに対し月額50万円の賃金を支払うことを約したこと、(2)Xが(1)の労務を提供することができなかったこと、(3)甲進学塾がなした解雇が無効であり、それにより労務に服することができなかったことを主張立証する必要があります。

なお、(3)の記載がなぜ要求されるのかですが、使用者が無効な解雇によって労働者による労務の受領を拒否したものであり、当該労務提供の履行不能は使用者の責に帰すべき事由に基づくものであって、労働者は民法536条2項により賃金請求権を失わないので、この記載が必要になるからです。その際には、賃金請求に対応する期間の労務遂行不能の原因が解雇によることを明示する必要があることから、「賃金の締日、支払日」の主張とともに、使用者の解雇の意思表示および解雇の効力発生時期について日時を明示した上で主張することが必要となり、「平成16年7月31日、甲進学塾はXに対し、同日付けをもって解雇する旨の意思表示をした。」と明示しておく必要があります。

さらに、月給のほか賞与の支払いを求める場合もあり得ます。もっとも、賞与については多くの企業においては、給与規程において明確な義務となっていない場合が多いものと思われ、直ちに賞与の支払いまで求めることができるのか疑義がありますが、裁判例は賞与の支給を受けられる蓋然性がどの程度あったのかということによりこの請求を認めるかどうかを判断しているものと思われます。それゆえ、Xに対し賞与についても確認する必要もあるでしょう。

2.使用者の言い分の検討

(1)使用者はどのような解決を求めているのか

甲進学塾の言い分を読む限りでは、Xの主張に対し、真っ向から反論していることが明らかです。そこで、平成16年7月31日に行った解雇が有効であることを主張立証することとなります。

(2)使用者はどのような事実を主張立証するのか

使用者は労働者からの地位確認請求に対して、解雇したことを抗弁として主張立証することができますが、解雇したことは労使双方において争いはほぼないのであまり問題とはならないでしょう。

もっとも、Xと甲進学塾の言い分から明らかな通り、試用期間が定められていたか否かが争いとなっています。試用期間は、新規採用者が正社員として本採用するに足りる職務適格性を有するか否かを判断するための期間であり、その間に職務不適格と判断された場合には解雇することができるとの解雇権が留保された期間であると解することができ、この場合には解雇権の行使は通常よりも広く認められています(最高裁においても、留保解約権に基づく解雇は、通常の解雇の場合と比較して「広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきものといわなければならない。……前記留保解約権の行使は、上述した解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解するのが相当である。換言すれば、企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合には、さきに留保した解約権を行使することができるが、その程度に至らない場合には、これを行使することはできないと解すべき」(三菱樹脂事件・最大判昭48.12.12)と解されている通りです)。

そうすると、甲進学塾は、抗弁として(1)試用期間の定めがあったこと、(2)平成16年7月31日の満了に先立って解約権を行使したことを主張立証することができることになります。また、Xを採用するに至った経緯も重要でしょう。それゆえ、労働者の言い分の4も摘示するべきです。

さらに、労働者が解雇権濫用の評価根拠事実を主張立証していますので、甲進学塾は再々抗弁として解雇権濫用の評価障害事実を主張立証することとなります。具体的には会社の言い分の3に記載の事実を摘示すれば足りるでしょう。

3.労働者・使用者が収集すべき証拠

Xが収集すべき証拠は、就業規則、雇用契約書、労働条件明示書、退職証明書(解雇理由通知書)、給与明細等でしょう。

また、甲進学塾が収集すべき証拠としては、就業規則、雇用契約書、反省文、過去の解雇事例のほか、Xの言動についての調査結果(陳述書等)が挙げられます が、特に一定の能力をXが有することを前提として採用したこと、Xに対し改善の機会を付与したこと、Xがそれにもかかわらず改善しなかったことを重点的に 立証すべきです。

3 和解の内容

和解の内容については大きく分けて、(1)退職とするもの、(2)復職とするものの2種類があります。

そこで、上記2種類の和解案のサンプルを示します。

■Xが退職することを前提とする和解の例
1 甲進学塾は、甲進学塾がXに対し、平成16年7月31日になした解雇の意思表示を撤回する。
2 甲進学塾とXは、平成●年●月●日(編注:和解成立の日)、甲進学塾とXとの間の雇用契約を合意解約した。
3 甲進学塾は、Xに対し、本件の解決金として金●●万円の支払義務があることを認める。
4 甲進学塾は、Xに対し、平成●年●月●日限り、前項の金員をX名義の○○銀行○○支店の普通預金口座番号○○○○○○に振り込む方法で支払う。
5 甲進学塾とXは、本件に関し、本和解条項に定めるほか、何等の債権債務のないことを相互に確認する。

日本法令発行の『ビジネスガイド』は、1965年5月創刊の人事・労務を中心とした実務雑誌です。労働・社会保険、労働法などの法改正情報をいち早く提供、また人事・賃金制度、最新労働裁判例やADR、公的年金・企業年金、税務、登記などの潮流や実務上の問題点についても最新かつ正確な情報をもとに解説しています。ここでは、同誌の許可を得て、同誌2006年6月号の記事「ケース別 個別労働紛争解決ノート――解雇事案(連載第1回)」を掲載します。『ビジネスガイド』の詳細は日本法令ホームページ http://www.horei.co.jp/へ。

【執筆者略歴】
●岩本 充史(いわもと・あつし)
弁護士(安西法律事務所)

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この記事ジャンル 労使関係

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【用語解説 人事辞典】
アウトスキリング
解雇
ADR
諭旨解雇
打切補償
整理解雇の4要件