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【ヨミ】エーディーアール ADR

企業内で起こる労使間のトラブルがメディアを通じて話題になるなど、近年では労働問題に対する関心が高まっています。訴訟まで発展した場合、費用負担が発生したり解決に時間がかかったりするため、さまざまな問題を抱えることになります。働き方改革の一環で、2020年4月から順次、同一労働同一賃金が施行されます。その中には「裁判外紛争解決手続(行政ADR)」の規定整備も含まれ、裁判を経なくても労働者・事業主間の紛争を解決できる間口が広がります。ここでは、ADRや同一労働同一賃金の概要をはじめ、今後の労働問題において企業が対処すべきことを解説します。(2019/11/7掲載)
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1. ADRとは

ADRの概要

ADRとは「Alternative(代替)」「Dispute(紛争)」「Resolution(解決)」の略語で、日本語では「裁判外紛争解決手続」といいます。法的なトラブルや民事上の争いなどに対し、専門的な知識を有する第三者が間に入って問題解決を図る手段を指します。例えば、仲裁・調停・あっせんなどがあり、労働者と事業主の紛争、隣人同士のもめごと、病院と患者間のトラブルなどで利用されています。

司法制度改革の一つとして施行された「ADR利用促進法」に基づき、法務大臣がADR機関を認証する制度が2007年4月にスタートしました。これまで160以上ものADR機関が認証を受けており、民事全般をはじめ、さまざまな分野を取り扱っています。

株関連においても「ADR」という言葉が使われますが、裁判外紛争解決手続のADRとは別の言葉です。株関連のADRは、日本語で「米国預託証券」といい、英語では「American Depositary Receipt」と表記されます。米国の株式市場で他国の株式が取り扱われる際に、現物に代わって用いられる代替証券のことです。

ADRの種類

ここでは、労働問題に関するADRのうち、「調停」「あっせん」「仲裁」について解説します。

「調停」

第三者である調停人が仲介し、当事者間で話し合いを進めて問題を解決する手段です。調停人が解決案を作成・提示し、双方が同意すれば解決となります。調停案に対して同意できない場合は、拒否することも可能です。

「あっせん」

調停と同じく当事者間での自発的な解決をサポートするための手段です。調停と異なる点は、仲介する第三者が解決案を積極的に提示するかどうかにあります。あっせんの場合、双方の主張を第三者の専門家が客観的にまとめ、あくまで当事者同士によって問題を解決することが目的となります。ただし、双方からの求めに応じて具体的にあっせん策を提示するケースもあり、機関によって区別の仕方が異なるため事前確認が必要です。

「仲裁」

当事者間の合意(仲裁合意)のもと、第三者である仲裁人が争いについて仲裁し、その判断に従う形で問題を解決する手段です。あっせん・調停と大きく異なる点は、仲裁には裁判判決と同じように仲裁判断に強制力があることです。仲裁人が提示した解決案は強制することができ、当事者はこれを拒否したり不服を申し立てたりできません。

ADRの分類

ADRを手続き方法で分類すると、以下の三つに分けられます。

  • 助言型……当事者間の自主的な話し合いによって解決へとつなげるもの(相談・助言)
  • 調整型……当事者間が合意することによって問題解決を図るもの(あっせん・調停)
  • 裁断型……あらかじめ第三者による判断に従うという双方の合意に基づき、手続きを行うもの(仲裁)

また、ADRを仲介者の提供主体で分類した場合、以下の三つが挙げられます。

  • 司法型……裁判所内で行われる(民事調停・家事調停など)
  • 行政型……独立の行政委員会や行政機関などが行う(国民生活センターや全国の消費生活センターなど)
  • 民間型……業界団体・消費者団体・弁護士会などが運営している(各種PLセンター・弁護士会仲裁センター・民間ADR事業者など)

ADRと裁判との違い

ADRと裁判には、さまざまな面で違いがあります。ADRの場合、あっせん・調停・仲裁手続では相手の同意が必要ですが、裁判を起こす場合は同意の必要はありません。また、ADRが非公開なのに対し、裁判は原則として公開される点も大きな違いです。

裁判では、第三者である裁判官によって解決案となる判決が下され、判決結果には強制力があります。ただし、判決内容に不服があれば、控訴・上告という手段もあるのが裁判の特長です。

ADRの場合、調停においては解決案が提示されても強制力はありません。仲裁の場合は提示された解決案に強制力がありますが、拒否したり不服を申し立てたりできない点で裁判と大きく異なっています。仲裁合意を行うと、その紛争に関しては裁判で争うことができなくなります。

2. 同一労働同一賃金の概要

同一労働同一賃金は、2018年6月に成立した「働き方改革関連法」のうち「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」が根拠規定となっており、施行時期は大企業が2020年4月、中小企業が2021年4月です。

同制度では「裁判外紛争解決手続(行政ADR)」の規定も整備されています。ここでは三つの改正内容を順に見ていきます。

不合理な格差をなくすことを目的に規定を整備

改正内容として、まず正規雇用労働者・非正規雇用労働者の不合理な格差是正を目的とする規定整備が挙げられます。「均衡待遇規定」「均等待遇規定」が法整備され、裁判の際の判断基準となります。

  • 均衡待遇規程
    職務内容(業務内容や責任の程度)、職務内容や配置の変更範囲、その他の事情を考慮し、不合理な待遇差を禁じます。
  • 均等待遇規定
    職務内容(業務内容や責任の程度)、職務内容や配置の変更範囲が同じ場合には、差別的に扱うことを禁じます。

改正のポイントは、パートタイム労働者・有期雇用労働者について均衡待遇規定が明確化されていることです。

基本給・賞与・役職手当・食事手当・福利厚生・教育訓練など、それぞれの待遇ごとに性質や目的に適していると認められるかどうかを考慮のうえ判断する旨を明確にしています。ガイドライン(指針)策定根拠も規定されました。均等待遇規定については、新たに有期雇用労働者が規定対象に加わります。

派遣労働者については、これまでは均衡待遇規定の配慮義務のみでした。今回の改正に伴い、(1)派遣先労働者との均等・均衡待遇、もしくは(2)一定水準を満たす労使協定の待遇のどちらかを選択・確保することが義務化されます。

(1)については、派遣労働者と派遣先労働者との均等・均衡待遇規定に加え、派遣元への情報提供義務が新設されました。(2)については、派遣元が労働組合(労働者の過半数にて組織)または過半数代表者と協議の結果、労使協定を締結し、その内容に基づき待遇を決定することになります。どちらも、派遣元は派遣料金の額を配慮する義務が設けられていることがポイントです。

出典:厚生労働省|働き方改革特設サイト(支援のご案内)

労働者に対して待遇の説明義務を強化

改正に伴い、非正規雇用労働者は正規雇用労働者との間に生じる待遇差の理由・内容について事業主に説明を求めることができます。

これまでは雇入れ時の待遇内容(賃金・福利厚生・教育訓練など)、待遇決定に際して考慮された事項(開示を求められた場合)についてはパートタイム労働者・派遣労働者について説明義務の規定がありました。

これに加えて、改正後は有期雇用労働者についても同様の説明義務規定が設けられます。また、これまでは待遇差の内容や理由については、パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者ともに説明義務の規定がありませんでした。改正後は、それぞれから求めがあった場合に説明義務が生じます。

また今回、不利益取扱い禁止規定が新設されました。説明を求めたことによって、労働者に不利益(解雇など)を与える行為は禁じられています。

出典:厚生労働省|雇用形態に関わらない公正な待遇の確保

行政による事業主への助言・指導や行政ADRの規定を整備

事業主に対し、行政による助言・指導や行政ADRの規定が整備されました。これまでもパートタイム労働者・派遣労働者については行政による助言・指導に関する規定はありましたが、改正後は有期雇用者も同様の扱いとなります。

また、行政ADRの根拠規定が整備されたことで、都道府県労働局において無料・非公開の裁判外紛争解決手続を行えるようになりました。「均衡待遇」や「待遇差の内容・理由に関する説明」についても行政ADRの対象となるため、行政機関を活用して労働紛争の解決を図る選択肢が広がります。

これらの規定が整備された背景には、ADR利用促進法に伴いADR機関は増えたものの、訴訟件数がそれほど増えていない実態がありました。労働者にとっては、トラブルが生じても裁判を起こすためには費用や手続きなど多くの負担が重くのしかかります。労働者がより助けを求めやすくなるよう、行政が関与する規定の整備が進められています。

出典:第2回 透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会(平成27年11月26日)|労働分野における裁判外紛争解決手続 (ADR)等に関する資料

3. 労働問題における行政ADRの主なもの

行政ADRには労働問題のほか、公害問題・著作権・人権・消費者問題・建設工事請負といった対象によって、それぞれ解決・救済機関や手続き・主宰者・根拠法などが異なります。労働問題においては、主に裁判所・労働委員会(中央・都道府県)・都道府県労働局・紛争調整委員会が紛争解決・救済の機関です。

内閣府|行政型ADR(裁判外紛争解決制度)(主なもの)

裁判所では、一人の労働審判官と二人の労働審判員2人による労働審判委員会が、原則として三回以内の審議を行い、迅速・柔軟な解決を目指します。裁判所での手続きとなりますが、通常の裁判とは異なります。

中央労働委員会では、不当労働行為事件の審査など、労働争議のあっせん・調停・仲裁が行われます。都道府県労働委員会では、これらに加えて個別労働紛争のあっせんについても対象となります。

都道府県労働局では、主に個別労働紛争に関する手続き(未然防止・相談・助言・指導など)を対象とするのに加え、男女雇用機会均等法第16条に規定する紛争の調停も行います。専門家が介入するわけではなく、都道府県労働局長が主宰者となります。

紛争調整委員会では、個別労働紛争によるあっせんが対象となり、厚生労働省が任命した3~12人の委員(労働問題の専門家)が公正な視点であっせん案を提示するものです。男女雇用機会均等法第16条に規定する紛争の調停については、紛争調整委員会長が指名した三名の調停委員によって行われます。

4. 同一労働同一賃金でADRが使われるケース

今後は労働紛争が増加する可能性も

上述の通り、「均衡待遇」や「待遇差の内容・理由」に関する説明も、行政ADRの対象となります。これまで以上に選択肢が広がることで、労働紛争が増加する可能性もあります。

厚生労働省がまとめた資料によれば、2016年度における総合労働相談件数は113万741件でした。このうち個別労働紛争相談件数は、「いじめ・嫌がらせ」が7万917件ともっとも多く、次に「自己都合退職」「解雇」と続きます。

また、労働基準法など法令に違反する疑いがあるものについては20万7,825件。労働基準監督署や公共職業安定所など、関係法令に基づいて行政指導が入っている現状があります。

出典:厚生労働省|個別労働関係紛争解決制度について

今後、企業が取り組むべきこと

法の改正に伴い、今後企業が取り組んでいくべきことは、主に以下の項目です。

  • 改正法における対象労働者の有無を確認
  • 雇用形態における待遇の違いを把握
  • 違いが生じる理由を確認
  • 不合理ではない説明がきちんとできるか確認
  • 法違反が疑われる状況であれば早急に対応する
  • 労働者の意見なども踏まえて計画的に改善に努める

まずは、在籍する労働者の雇用形態を把握するとともに、改正内容の対象となるかどうかを確認していきます。次に、パートタイム労働者・有期雇用労働者など雇用形態による待遇差・内容を全体的に把握します。

待遇差があればその理由を確認し、「待遇ごと」に考え方を整理するのがポイントです。理由については「不合理でない」と説明できるように 、文書としてまとめておくとよいでしょう。

明確に合理性を説明できないなど法違反の可能性が想定される場合には、早急に待遇差や雇用内容を改善するよう努めます。その際には改善計画を立て、労働者の意見も聞きながら迅速に改善できるよう取り組むことが必要です。

5. 法改正を正しく理解することが重要

同一労働同一賃金の発端は、正規雇用労働者と非正規雇用労働者(パートタイム労働者・派遣労働者・有期雇用労働者)の間における賃金格差など、不合理な待遇差です。企業としては、雇用形態による待遇差が生じないよう就労条件を整え、労働者が雇用形態によらず納得・理解した上で柔軟に働ける環境を整備する対策が急務です。

さらに同一労働同一賃金では、行政ADRについても「有期雇用労働者・派遣労働者」に関わる根拠規定が整備されます。まずは正しく法改正の内容を理解し、労働者が行政ADRの対象か対象外かを把握することで、必要な対策を進める必要があります。

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