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企業の不正・不祥事に関する定量調査

パーソル総合研究所 上席主任研究員 小林 祐児氏、研究員 中俣 良太氏、研究員 今井 昭仁氏

企業の不正・不祥事に関する定量調査
【調査概要】
調査名 企業の不正・不祥事に関する定量調査
調査内容
  • 不正・不祥事の実態とその影響を明らかにする。
  • 不正が発生する要因と、その防止策について明らかにする。
  • 不正発生後、組織改善のための対応施策のあり方を明らかにする。
調査対象 ■スクリーニング調査
  • 全国の就業者 20~69歳男女 46,465s
  • 労働力調査の構成比に合わせて、業種(20分類)を割付。

■本調査
① 5年以内に不正関与・目撃群 n=3000s
② 非発生群 n=1000s
  • ①の業種(20分類)×企業規模(1万人以上、1000人以上、それ以下)に合わせて、②は割付。
  • いずれもライスケール1問正答者
調査時期 2023年 1月30日-2月3日
調査方法 調査会社モニターを用いたインターネット定量調査
調査実施主体 株式会社パーソル総合研究所

※報告書内の構成比の数値は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、個々の集計値の合計は必ずしも100%とならない場合がある。

調査結果(サマリ)

【不正・不祥事の実態】不正はどこで発生し、どのような影響を与えているのか

13.5%が不正に関与・目撃

本調査対象である全国の就業者20~69歳の男女46,465人に不正の関与・目撃経験を尋ねたところ、13.5%が不正に関与したことがあるか、見聞きしたことがあると回答。

図1.不正の関与・目撃率
図1.不正の関与・目撃率

不正に関与・目撃した就業者にその内容を確認したところ、日常的なサービス残業などを含む「労務管理上の問題」への関与・目撃率が高い。

図2.不正の関与・目撃率(カテゴリ別、複数回答)
図2.不正の関与・目撃率(カテゴリ別、複数回答)

不正発生は業務外にもマイナスの影響

不正の関与・目撃経験は、関与者・目撃者自身の「幸福度」、「組織コミットメント」、「継続就業意向」を低下させる傾向がみられた。また、休日における「心理的距離」(仕事のことを考えない)と「リラックス」にもマイナスの影響を与えており、不正によるストレス状況が業務外にも影響していることが示唆される。

図3.不正の関与・目撃経験による負の効果
図3.不正の関与・目撃経験による負の効果

【不正・不祥事の要因】不正はどこで、なぜ起こるのか

不正の「許容」と「黙認」が不正発生にプラスの影響

不正発生への影響を見たところ、「多少の不正はある程度は許される気がする」、「他の人の多少の不正は甘く見るほうが賢明」、「不正は仕事上の必要悪である」などのように許容する「個人の不正許容度」と、「会社は不正・不祥事を報告しても相談にのってくれない」、「会社は不正・不祥事を隠そうとする」、「会社は不正・不祥事が起こっても対処しない」などの「組織の不正黙認度」は、ともに不正発生にプラスの影響を与えている。

※個人の性格特性(ダーク・トライアド)は不正発生に大きな影響は与えていなかった。

図4.不正発生への影響分析
図4.不正発生への影響分析

「運輸業、郵便業」と「医療・福祉」は不正の発生リスクが高い

「個人の不正許容度」と「組織の不正黙認度」の観点から、業種別に不正の発生リスクの度合いを見た。「運輸業、郵便業」、「医療・福祉」はいずれのスコアも高く、不正の発生リスクが高い。

図5.不正の発生リスクマップ(業種別)
図5.不正の発生リスクマップ(業種別)

不正発生の共通要因は「属人思考」や「長時間労働」など

「個人の不正許容度」と「組織の不正黙認度」に影響を与える要因を「組織特性」、「働き方」、「個人状況」別に見たところ、「組織特性」では、「属人思考」、「不明確な目標設定」、「成果主義・競争的風土」、「働き方」では、「長時間労働/働き過ぎ」、「脅迫的な働き方」、などが共通で影響している。

図6.不正の許容度・黙認度を促進する要因
図6.不正の許容度・黙認度を促進する要因

分析結果を整理すると、不正発生リスクを上げるのは、成果のために不正せざるを得ない「窮地追い込まれ型」と、スピード重視の業務状況により、不正のハードルが下がる「不正軽視型」がある。不正を黙認する組織は、トップダウン的な風土による「押しつぶされ型」が多い傾向にある。

図7.不正が発生する要因
図7.不正が発生する要因

【不正・不祥事の防止施策】不正発生を防ぐために

「目標の透明性」や「人材の多様度」が不正発生の要因を低減

不正発生要因を抑制する人事管理の特徴を見た。キャリア形成系では「目標の透明性」や「従業員主体の異動」、「会社都合の異動・転勤の少なさ」、また、組織状態では「人材の多様度(ダイバーシティ)」の度合いが高いほど、主な不正発生の要因である「属人思考」、「不明確な目標設定」、「成果主義・競争的風土」にマイナスの影響を与えている。

図8.不正発生の要因と人事管理の特徴
図8.不正発生の要因と人事管理の特徴

コンプライアンス対策の「こなし」意識を防ぐ

企業の不正防止施策の実施状況について見たところ、「実施」割合は4割弱に留まる。加えて従業員側には、「不正対策は、形式的に行われているだけ」が43.7%、「担当者が話を聞きにくるが、実際には何も変える気がない」が34.5%など、形式的にコンプライアンス対策を「こなす」意識があり、不正が発生している企業は特にその傾向が強い。対策への「こなし」意識は、「個人の不正許容度」、「組織の不正黙認度」ともにプラスに関連しており、不正防止につながっていないことが示唆される。

その背景には、不正対策内容の「現場感の欠如(会社は現場を分かっていない)」「対処の不徹底(責任の所在が不明瞭)」「量的な負担感(受講必須の研修が多い)」があり、これらを払拭することが重要になる。

図9.不正対策への不信感による「こなし」意識と不正許容度・黙認度の関係
図9.不正対策への不信感による「こなし」意識と不正許容度・黙認度の関係

「情緒的共感」を呼ぶコンプライアンス研修の実施

不正防止研修に対する「認知的理解」と「情緒的共感」の組合せ*で見たところ、研修への「理解・共感層」は「理解のみ層」や「理解・共感ともになし層」と比べて、「個人の不正許容度」や「組織の不正黙認度」、対策の「こなし」意識が非常に低い。
*「共感のみ層」は、n数少のため除外

図10.不正防止研修の「理解・共感」と不正許容度・黙認度、対策のこなし意識の関係
図10.不正防止研修の「理解・共感」と不正許容度・黙認度、対策のこなし意識の関係

不正防止研修の内容のうち「不正に関する判例や事例の紹介・解説」、「性や人種など多様性に関する説明」、「参加者同士の議論・ワークショップ」は、「研修への情緒的共感」にプラスの影響を与えている。また、「参加者同士の議論・ワークショップ」は、相対的に実施が低い。

図11.不正防止研修内容の実施率と「研修への情緒的共感」の関係
図11.不正防止研修内容の実施率と「研修への情緒的共感」の関係

【不正・不祥事の改善】組織はいかにして立ち直るのか

不正発生後に会社の対応があると、なかった場合と比べて約3倍の改善

不正発生後に会社の対応があった場合は、なかった場合と比べて、その後の不正が「おおよそ無くなった」、「完全に無くなった」割合が約3倍(74.8%)。図示はしていないが、会社対応があった場合のほうが、なかった場合と比べて、個人パフォーマンス/ワーク・エンゲイジメント/幸福度ともに有意に高い。

図12.不正発生後の改善状況(会社の対応有無別)
図12.不正発生後の改善状況(会社の対応有無別)

不正の共有・説明による理解と従業員の意見の吸い上げが重要

会社対応についての従業員意識として、「膿だし感(会社の悪い部分が明るみになって心が晴れる)」、「腹落ち感(会社の対応について納得できた)」があることが、不正の解決度にプラスの関係が見られた。また、「腹落ち感」に加え、「吐き出し感」(しっかり自分の気持ちを話せた)があることが、不正防止対策の「こなし」意識を下げている傾向にある。

図13.会社対応への従業員の意識と改善状況
図13.会社対応への従業員の意識と改善状況

分析コメント

組織の不正風土の改善と従業員側の意見に耳を傾けるコンプライアンス対策を

従業員による法律やルールへの違反、または社会的信頼を損なうような行為がしばしば発生する。このような不正・不祥事は時に企業業績に大きな損害を与え、コーポレート・ガバナンス上の大きな問題となるだけではなく、従業員側のストレスを上げ、主観的なウェルビーイング(幸福感)を下げている。

しかし、企業がコンプライアンス対策としてさまざまな施策を行っていても、増え続けるルールや手続き、現場感のない研修などは、対策を形式的に「こなす」意識を生み、不正防止につながっていないことが明らかになった。

今回の調査から示唆された不正防止のためのポイントは、まず目標管理の適正化やキャリア形成の整備によって、組織全体の不正風土の改善を図ること。また、一方通行的な説明だけでなく、議論やワークショップ、サーベイなど、従業員側の「意見の吸い上げ」を重視したコンプライアンス対策の重要性だ。

不正・不祥事が発覚した後も、こうした企業対応によって従業員側に「会社の悪い部分が明らかになってスッキリした」、「自分の気持ちが話せた」といった理解や納得を引き出すことで、組織全体のコンディションの回復につながっている。

不正を防ぎ、不正発生から「立ち直る」ためには、事案をただ穏便に処理するのではなく、透明性高く調査を行い、従業員側の意見に耳を傾ける姿勢が重要になる。

図14.調査結果からの提言
図14.調査結果からの提言
株式会社パーソル総合研究所

パーソル総合研究所は、パーソルグループのシンクタンク・コンサルティングファームとして、調査・研究、組織人事コンサルティング、タレントマネジメントシステム提供、社員研修などを行っています。経営・人事の課題解決に資するよう、データに基づいた実証的な提言・ソリューションを提供し、人と組織の成長をサポートしています。
https://rc.persol-group.co.jp/

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