ライフデザインの視点
中高年社員の活躍推進~再チャレンジに向けた支援を
第一生命経済研究所 ライフデザイン研究部 主席研究員 的場康子氏
若者中心のキャリア形成支援
新型コロナウイルス感染拡大は経済に大きな影響を与えている。多くの企業が社会変化に対応するために事業再編を行い、社外から多様な人材を集めるなど人材の流動化も加速している。「ジョブ型雇用」など、仕事内容と賃金をより連動させた人事制度を採用する企業も増えるとされている。
他方、長寿化に伴い、働く人一人ひとりが長期化する職業人生を見据えてキャリア形成をし、働くことが求められている。
こうした中、企業も従業員が活躍できるよう、働きやすい職場づくりとともに、「自主的なキャリア形成への支援」や「生涯を通じた職業能力開発」を重視しているところが多い(資料1)。
ただし、日本経済団体連合会の調査によると、多くの企業がキャリア形成支援の対象として最も力を入れているのは20代から30代の若年・中堅層である。20代から30代の若年・中堅層への支援を重視しているという企業は7割以上であるのに対して、40代、50代の中高年層への支援を重視している企業は2割にも満たず少数派である(日本経済団体連合会「人材育成に関するアンケート調査結果」2020年)。
年齢を問わずキャリア形成に積極的な女性管理職
こうした実態を反映してか、積極的に自身の能力向上やキャリア形成に取り組んでいるのは 20代から30代の若年・中堅層に多く、年齢が高まるにつれて、キャリア形成に取り組む社員が少なくなると認識している企業が多い(資料2)。
ただし、女性の管理職のみ40代にピークがあり、その後も相対的に高い。これは、そもそも女性の中でも特にキャリア意識が高い人が管理職に就いているという実態を反映した結果であると思われる。
これからの時代は、まさに女性管理職の多くの人がそうであるように、年齢を重ねてもキャリア形成に取り組む姿勢を崩さない働き方が求められる。コロナ以前から少子化による労働力不足が懸念され、女性や高齢人材への期待が高まっている。こうした中、コロナ禍によってデジタル化、産業構造の変化が加速し、これに対応して年齢を問わずキャリア形成に取り組むことが、働く個人のみならず企業の成長のためにも重要とされている。
今後は20代から30代の若年・中堅層のみでなく、40代から50代のミドル・シニア層への再教育を強化し、年齢にかかわらず多くの社員が意欲を持って働き、戦力となるための仕組みづくりに注力することが重要であろう。
現状、先の資料1にあるように、従業員の活用やキャリア形成に関して、「従業員の学び直しへの支援を重視している」に回答した企業は40.5%と相対的に低い。現時点では多くの企業が認識しているわけではないが、今後は中高年社員の活躍に向けて、学び直し支援にも力を入れることも必要と思われる。
50代男性のチャレンジ意識
実際、50代男性正社員に対するアンケート調査結果をみると、能力向上支援に積極的な職場で働いていると実感している人は、そうでない人(あてはまらない)よりも、50歳を過ぎても新たな仕事や難易度の高い仕事に挑戦してみようという人が多い(資料3)。勤務先の能力向上支援が、50代男性社員のチャレンジ精神を刺激し、仕事を通してさらに自分を高めようという意識につながることがうかがえる。
最近では、中高年人材の活性化に向けた取り組みに力を入れている企業も増えている。社会人向けの大学講座も増えており、「マナパス」などインターネットで講座を検索できるポータルサイトも構築されている。
しかし、そうした研修や学びが必ずしも中高年社員の活躍推進に結び付かない場合もある。資料3でも、研修などをしても前向きに挑戦する自信を持てない人が少なくないことが示されている。こうしたことから企業の中には、研修の実績や取得した資格を再雇用後の給与などの処遇に反映させることで自発的なスキル向上を促すとともに、獲得したスキルを活かして働ける職種やキャリアを用意し、中高年人材の活躍推進を図っているところもある。
2021年4月から改正高年齢者雇用安定法の施行により、希望する社員には70歳まで就労機会を設けることが企業の努力義務となった。70歳までいかに「現役」として能力を活かして働くことができるか、また戦力として活用することができるか。これからは女性活躍推進と共に、中高年の活躍推進の取り組みが、コロナ後の社会変化の中で企業が成長するためのカギを握ると思われる。
第一生命経済研究所は、第一生命グループの総合シンクタンクです。社名に冠する経済分野にとどまらず、金融・財政、保険・年金・社会保障から、家族・就労・消費などライフデザインに関することまで、さまざまな分野を研究領域としています。生保系シンクタンクとしての特長を生かし、長期的な視野に立って、お客さまの今と未来に寄り添う羅針盤となるよう情報発信を行っています。
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