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イベントレポート
東京大学社会科学研究所
「ワーク・ライフ・バランス推進・研究プロジェクト」成果報告会

~ワーク・ライフ・バランス支援の新次元~
女性活躍推進 と 仕事と介護の両立
(2012/10/25掲載)

2012年10月4日(木)に、東京大学社会科学研究所「ワーク・ライフ・バランス推進・研究プロジェクト」による成果報告会『ワーク・ライフ・バランス支援の新次元~女性活躍推進 と 仕事と介護の両立』が開催されました。

「ワーク・ライフ・バランス推進・研究プロジェクト」成果報告会 photo

東京大学社会科学研究所「ワーク・ライフ・バランス推進・研究プロジェクト」は、2008年10月に民間企業と共同して、社会全体での働き方の改革やワーク・ライフ・バランス社会の実現に関する調査研究を行うことを目的として発足。毎年、その成果報告会を開催しています。4回目となる今回の報告会には、企業の人事担当者やワーク・ライフ・バランス推進担当の方たちが約400名参加。大変な盛況の中、同プロジェクトによる研究・活動内容が報告されました。本レポートでは、成果報告会の模様をダイジェストでお伝えいたします。

【開催概要】
日時 2012年10月4日(木) 13:00~17:30
場所 東京大学本郷キャンパス 伊藤国際学術記念センター
主催 東京大学社会科学研究所「ワーク・ライフ・バランス推進・研究プロジェクト」
【プログラム】
■第1部:分科会 13:00~15:30
第1分科会:「両立が当たり前の時代」の女性活躍推進
<概要>
育児休業や短時間勤務を利用して「両立」をはかる女性社員が増加する中、女性の能力開発・キャリア形成に悩む企業が増えています。女性活躍推進の取組の「見える化」の方法や「両立社員」を活かす職場マネジメントのあり方などを、最新の調査をもとに考えていきます。(運営協力:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)
<担当>
矢島洋子(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 主任研究員)
第2分科会:地域のワーク・ライフ・バランス推進における自治体の役割と課題
<概要>
WLB等を推進する企業の取り組み支援や住民に対する意識啓発などに関し、自治体として実施すべきこと、効果的な支援のあり方について、事例紹介およびパネルディスカッションを通して考えます。
(事例発表:新潟県、三重県、兵庫県(ひょうご仕事と生活センター)、西東京市)
<担当>
武石恵美子(法政大学キャリアデザイン学部 教授)
山極清子(立教大学ビジネスデザイン研究科 特任教授、(株)wiwiw 社長執行役員)
松原光代(株式会社東レ経営研究所 コンサルタント)
第3分科会:WLBと働き方改革の必要に関する管理職の意識啓発のためのモデル研修の実演
<概要>
WLBを実現できる職場作りのためには、管理職の理解と取り組みが不可欠です。市販のDVDを活用した管理層の意識啓発のためのモデル研修を実施し、参加者が社内で研修を行うための教材を提供します。
<担当>
佐藤博樹(東京大学大学院 情報学環 教授・社会科学研究所兼務)
松浦民恵(ニッセイ基礎研究所 生活研究部門 主任研究員)
第4分科会:企業の行うべき「介護と仕事の両立支援」の考え方と導入事例
<概要>
自社の「介護を抱える社員の割合」を把握していますか?実態を調査したことで具体的な支援に踏み出している企業の事例発表を通じて、企業の行うべき支援について考えます。
(事例発表:大成建設株式会社、株式会社丸紅)
<担当>
小室淑恵(株式会社ワーク・ライフバランス 代表取締役社長)
■第2部:全体会議 15:30~17:30
・プロジェクト紹介
・第I部の各分科会の報告
・仕事と介護の両立に関する調査と提言
第1部 第1分科会:「両立が当たり前の時代」の女性活躍推進

第1分科会では、「『両立が当たり前の時代』の女性活躍推進」と題し、働く女性の現状や「両立」社員を活かす職場マネジメントのあり方など、企業の取り組みに関する最新調査を紹介するとともに、自社の課題や施策について、参加者同士の対話が行われました。

「女性活躍推進」における問題、企業の対策とは
~ワールドカフェ形式で、参加者同士が対話

矢島洋子氏 photoまず、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 経済・社会政策部 主任研究員の矢島洋子氏が、第1分科会の趣旨について説明。「近年、育児休業や短時間勤務などの両立支援施策が広がり、結婚・出産を機に離職する女性社員は、大企業を中心に減少している。しかし、両立している女性社員の今後のキャリア形成をどうするのか、活躍の場をどのように作るのかといったことまでは、多くの企業がまだ考えられていないのが実情。今どのような課題があり、どんな施策が考えられるのかについて皆さまと一緒に考えていきたい」と述べられました。

その上で今回は、「参加意識を高め、主体的にかかわり、情報を共有する」ことを目的に「ワールドカフェ形式」を採用し、4~5人ずつのグループに分かれて、テーマごとにメンバーをシャッフルしながら、対話が進められました。

ワールドカフェの冒頭、矢島氏から以下の三つの問題(テーマ)が提示されました。

■ラウンド1:あなたの会社の「女性活躍推進」に関して、今起きている問題は何か。
■ラウンド2:あなたの会社で「女性活躍推進」について、行っている、または考えている対策は何か。
■ラウンド3:ラウンド1の「問題」と、ラウンド2の「対策」は、「両立女性」だけの話なのか? 仕事の配分、目標設定・評価―― 一般社員のマネジメントは、問題ないのか。

ワールドカフェ photoラウンド1では「目標となるロールモデルがいない」「男性管理職の意識が低い」、ラウンド2では「女性社員同士の社内ネットワークの構築」「上司とのコミュニケーションを深める場を作る」、ラウンド3では「一般社員の業務内容が明確ではない」「育児休業者・短時間勤務者と一般社員との評価にギャップがある」など、参加者からさまざまな意見が挙がりました。

規模も業種も異なる企業の人事担当者の方々が参加されていましたが、悩みや課題、そのための対策などをシェアできたことは、大きなプラスとなったようです。

「両立」女性社員の活躍に向けて、企業が取り組まなければならないこと

矢島氏からは、「皆さんが『女性活躍推進』を阻むものとして多く挙げていたのが、本人、管理職、職場メンバーの“意識”の問題。ラウンド2の『対策』でも、『意識啓発のための研修やガイダンスなどを実施する』という意見がいくつか出ていました。たしかに意識啓発は重要ですが、それを行うのであれば、制度利用者あるいは女性社員だけを対象にしないこと。必ず、管理職とセットで、同時期に研修を行うことが重要です」とのアドバイスがありました。研修後、目標や働き方、キャリアについての面談を、管理職と対象社員が行うことで、一定の成果が上がるとのことです。

短時間勤務者のマネジメントについては「ラウンド3で挙げた、一般社員のマネジメントの問題が必ず壁になる」と強調されていました。女性社員や短時間勤務者だけのために、企業がいまある仕組みを変えることは難しいのが実情。仕事の配分や目標設定、評価などの人事制度を見直すには、一般社員の働き方も含めて仕組みに手をつける必要があるとのことです。

最後に、女性活躍を推進する上で重要なこととして、矢島氏から「皆さんの企業で両立支援策を利用して働いている女性は、その働き方をもともと望んでいて、制度ができて働ける状況になったからこそ、いまも仕事を続けていることを忘れないでほしい。企業は、そうした社員を受け入れ、マネジメントしていく覚悟が必要。『一人あたり』の成果で評価をしてしまう企業が多いが、彼女たちに対しては『時間あたり』の成果で評価を考えていくべき。時間あたりの生産性で、『両立』をはかる女性社員をうまく活躍させること、それこそが人事担当者の皆さんにとって今後の課題ではないか」とのメッセージがあり、第1分科会は終了しました。

第1部 第4分科会:企業の行うべき「介護と仕事の両立支援」の考え方と導入事例

第4分科会は、『企業の行うべき「介護と仕事の両立支援」の考え方と導入事例』と題し、前半は株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役の小室淑恵氏が、介護に関するさまざまなデータを用いながら、今後私たちは介護にどのように向き合っていけばいいのか、詳しく説明。後半は、大成建設株式会社、丸紅株式会社が行っている、社員の介護支援の状況についてそれぞれの企業の担当者が事例発表を行った後、企業が社員の介護支援に取り組む際にはどうするべきなのか、小室氏が解説していきました。

誰もが直面する可能性がある「介護と仕事の両立」

小室氏はさまざまなデータを用いながら、企業にとって、いかに社員の介護と仕事の両立を支援することが喫緊の課題であるのかを説明していきました。団塊世代の一斉退職による「2007年問題」の影響もあり、企業は労働力を確保する目的で、女性社員が育児と仕事を両立できるように制度改革を進めてきました。その一方で、2017年には団塊世代が70歳になり、介護施設の不足で介護難民が大量発生、団塊ジュニア世代が家庭内での介護を余儀なくされるという問題には、十分に対応できていないのが実情です。

世界の高齢化推移のデータを見ると、日本は世界第1位のスピードで高齢化率が高まっています(平成21年版 高齢社会白書より)。今や企業にとって、社員の介護と仕事の両立を支援することは、経営戦略の一つとして考えなければならない重要な課題。企業は、介護のために時間制約のある社員たちが増えても、労働力を確保し、利益の出せる職場にしていく必要があると、小室氏は言います。

小室淑恵氏 photoしかし、多くの人たちは「介護」と聞いても、「自分の親は要介護状態にはならないのではないか」「自分が介護することはないだろう」などと考えがち。しかし、小室氏は「75歳以上の高齢者の約3割は、要介護状態にある」「介護施設への入所を待っている人が全国に42万人もいる」など、ここでもさまざまなテーマを示しながら、決して楽観視はできないことを強調します。

介護は、子育てとは異なり、誰もが直面する可能性のあるもの。「自分には関係ない」と考えるのではなく、いつでも対応できるよう、事前の準備や情報収集が大切だそうです。前向きに介護と向き合い、いざという時にも自分ひとりで抱え込まないこと。そして何より、介護によって時間制約が生じても、仕事で成果を上げられるように、働き方を見直すことが必要だという小室氏の言葉は、強く印象に残りました。

企業が取り組むべき三つのポイントとは?

後半は、大成建設株式会社、丸紅株式会社が実際に行っている社員の介護支援に関する事例発表からスタート。先進的な2社の取り組みに関する報告に、参加者の方々も熱心に耳を傾けていました。特に興味深かったのは、両社とも社員への情報提供に力を入れていること。社内イントラネットによる介護関連の情報提供や、介護支援に関するハンドブックの制作などの事例が紹介されました。先述のように「介護」と聞いても、まだ他人事だと感じる人が多いため、まずはその重要性を説くことが大切だと、改めて理解することができました。

2社の発表を受けて、小室氏は「企業が取り組むべき三つのポイント」について解説しました。一つ目は、やはり「情報提供をする」ということ。介護は自分自身も関わる可能性があること、また、実際に介護を行う場合には何をすべきか、どのくらいの費用がかかるのかなどの情報を伝えていく必要があるそうです。

二つ目は、「制度は新設するより、従来の運用性を高める」。既存の制度がきちんと利用されているか、誰もが使いやすい状況にあるかなどを確認しなければならないとのこと。また、自宅での介護や遠距離介護、介護施設の利用など、社員によって介護のスタイルはさまざまなので、形態に合わせた制度設計が重要だと言います。

三つ目は、「働き方の見直しに取り組む」。今後は勤務時間に制約のある社員が増えることを前提に、生産性向上による労働時間の改善に着手する必要があるとのこと。そのためには、これまでもさまざまな企業が取り組んできた、ワーク・ライフ・バランスに関する施策が効果を発揮しそうです。

介護に関わることで時間の使い方がうまくなったり、新たな人脈を築いたりすることもできます。仕事との相乗効果も期待できるでしょう。介護から得たものを活かし、広げていくという発想で、仕事と介護を両立できる社会を実現していこうという、小室氏の熱いメッセージで、第4部会は締めくくられました。

第2部 全体会議より:社員の仕事と介護の両立をどのように支援すべきか
社員が自分一人で介護課題を抱え込まないために

第2部では、参加された皆さんが一堂に介し、各分科会の内容について報告。また、「ワーク・ライフ・バランス推進・研究プロジェクト」代表である、東京大学大学院教授の佐藤博樹氏が「社員の仕事と介護の両立をどのように支援すべきか 社員が自分一人で介護課題を抱え込まないために」というテーマで、講演を行いました。

社員が介護を一人で抱え込まないために、何をすべきか

40歳代後半から定年退職までの期間、特に50歳代には、ほとんどの社員が仕事と介護の両立という問題に直面します。しかし、家庭の問題を職場に持ち込もうとせず、一人で解決しようとする社員が多いとのこと。この年齢層には管理職などの中核人材も多く、両立が困難になると仕事への意欲が低下したり、場合によっては離職に繋がったりするなど、企業に大きな影響を及ぼすこともあります。

上記の年齢層の社員は、ワーク・ライフ・バランスを自分自身の課題として理解していないことも多く、企業がその必要性を認識させていくことが重要です。社員が相談しやすい環境を整えたり、どのような介護保険制度によるサービスが受けられるのかについてアドバイスしたりするなど、介護に関する理解を深めてもらうようにするのです。企業が社員の仕事と介護の両立を支援するためには、社員が一人で介護を抱え込むことのないよう、問題に直面する前に必要な情報を提供することが必要だと佐藤氏は言います。

佐藤博樹氏 photo その上で、情報を提供するタイミングが大変重要とのこと。社員が介護に直面してから情報を提供しているようでは、遅いからです。佐藤氏は、「社員が40歳・50歳」の時点と、「社員の親が65歳」の時点が、情報提供のポイントだと言います。

40歳になると、社員は介護保険の被保険者になります。そのタイミングで介護保険制度の趣旨を説明し、一人で抱え込んではいけないことを認識してもらうのです。また、50歳になると、実際に多くの社員が介護に直面するので、さらに踏み込んで情報を提供するべきだそうです。また、親が65歳になると「介護保険義保険者証」が届くので、それをきっかけに、介護が必要になった場合にどうするかについて、社員が親と話し合うようにすることも重要とのことでした。

佐藤氏による講演を通じて、社員が一人で介護の問題を抱えないように企業がしっかりと情報を提供していくことの重要性を、大変よく理解することができました。

*    *    *

「ワーク・ライフ・バランス」についてさまざまな視点から考えることができた、第4回成果報告会。参加された皆さんは、大変充実した4時間を過ごされたことでしょう。引き続き、「ワーク・ライフ・バランス推進・研究プロジェクト」による活動と、その研究成果が注目されます。

『日本の人事部』では、今後も人事担当者としてぜひ聴いておきたい講演や、参加しておきたいセミナーなどのレポートをお届けしていく予定です。どうぞご期待ください。

※「ワーク・ライフ・バランス推進・研究プロジェクト」の活動状況や研究成果は、こちらからご覧ください。


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