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田中潤の「酒場学習論」
【第4回】八戸の洋酒喫茶「プリンス」とエンゲージメント、リファラル採用

株式会社Jストリーム 管理本部 人事部長

田中 潤さん

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Jストリーム 人事部長  田中潤の「酒場学習論」

古今東西、人は酒場で育てられてきました。上司に悩み事を相談した場末の酒場、仕事を振り返りつつ一人で呑んだあのカウンター。あなたにもそんな記憶がありませんか。「酒場学習論」は、そんな酒場と人事に関する学びをつなぎます。

いかにも入りにくい外見の酒場に意を決して入り、そこが本当に“酔い”酒場だったとき、酒呑みとして最高の幸福感に包まれます。この店もそうでした。

初めて訪れた街、八戸。街の中心街が横丁で形成されているはしご酒好きには最高の街です。その横丁の一つ「れんさ街」に、見るからにディープな外観の店があります。「洋酒喫茶」というのが、またいい感じに怪しい。夕暮れどき、まだあまり酔ってはいない私に扉を開けることを躊躇させる雰囲気を醸し出しています。事前知識なしでこういう店の扉をあける緊張感も、はしご酒の醍醐味(だいごみ)の一つです。

この外観。あなたは扉を押せますか

この外観。あなたは扉を押せますか

扉を開けるとすでに先客が二人、カウンターの中には素敵なマスター。店内はいい感じでごちゃごちゃとしていて、天井には無数の名刺が貼られています。マスターからは八戸愛に溢れる話が聞けます。写真の「令和」のタイポグラフィ。よくよく見ると「八戸市」と読めます。そして「和」の口の部分は、八戸の市章なのだそうです。

令和のタイポグラフィ。八戸の市章を知っている人にとっては感動ものです

令和のタイポグラフィ。八戸の市章を知っている人にとっては感動ものです

カクテルメニューには、ウミネコで知られる名勝地「蕪島」、海岸沿いに美しい天然芝が広がる「種差海岸」といった八戸の観光資源でネーミングされたオリジナルがあります。「神社エール」というカクテルは、その売り上げの一部が地元の神社に寄付されるとか。まさに神社にエールを送るカクテルです。

種差海岸の天然芝をイメージしたカクテル「種差海岸」

種差海岸の天然芝をイメージしたカクテル「種差海岸」

地方の酒場に立ち寄ると、地元愛にあふれる店主や客に多く出会えます。旅の目的地として地元を選んだこと、この店に訪れたことを喜び、いろいろとその土地の話を語ってくれます。皆さん、ほんとうに自分の街が好きなことが伝わってきます。

三色揃った「神社エール」

三色揃った「神社エール」

人事領域で「エンゲージメント」という言葉が使われます。ウェブサイト『日本の人事部』の「人事キーワード」では「個人と組織の成長の方向性が連動していて、互いに貢献し合える関係」と定義していますが、個人が自らの意志でその組織に貢献するためのエネルギーを最大限に発揮することができている状態を指します。まさに、各地の酒場の店主の皆さんは、地元との間に強いエンゲージメント関係にあるといっていいでしょう。

誰から指示されることも依頼されることもなく、旅人に街を語り、街に貢献する――そんな関係です。社員が自分の属する企業に対して、このような気持ちで日々の仕事にあたれば、これほど心強いものはありません。そんなエンゲージメントが成り立つ前提としては「個人が組織に対して強い信頼感と愛着を抱いていること」が必要です。

リファラル採用が注目されてずいぶん経ちます。社員自らが自社でともに働く仲間を募る採用手法です。いろいろな方法論が取りざたされていますが、方法論以上に大切なのは、社員と企業のあいだにエンゲージメント関係が成り立っているかどうか。「採用力を高めることは、定着力とエンゲージメントを高めること」だと、以前整理したことがあります。

採用力を高めることは、定着力とエンゲージメントを高めること

採用力を高めることは、定着力とエンゲージメントを高めること

採用力は、「採用戦術」「企業力」「職場力」の三つに分解できます。本当の意味で採用力を高める施策とは、社員のエンゲージメントを高める施策であり、社員をリテンションする施策、定着を高める施策でもあることがわかります。このうち「魅力的なビジネス」は、人事が直接的に展開することは難しいかもしれませんが、そのほかのすべては人事が主体的に携われるものばかりです。

20代後半で初めて採用担当者になり、最初の新卒採用を終えたとき、採用担当者の仕事は会社を良くすることだと強く感じたことを記憶しています。エンゲージメントを高め続ける取り組みが良い採用のためには絶対に必要だという思いと、採用したすべての社員に対する強い責任を感じてのことです。

故郷はよいものです。街と人との間に自然とエンゲージメントされた関係が構成されています。私は転校生生活を送っていたこともあり、強い故郷意識を持てる街がありません。そのため、各地で地元愛に溢れる酒場を訪れることが好きなのかもしれません。

■バックナンバー
【第3回】「都橋商店街」「折尾」のRのある世界と、人事制度の運用
【第2回】国分寺「燗酒屋がらーじ」と、決める・決めてもらうのが私たちの仕事
【第1回】赤羽「まるます家」と酒場での学び


田中 潤さん(株式会社Jストリーム 管理本部 人事部長)
田中 潤
株式会社Jストリーム 管理本部 人事部長

たなか・じゅん/1985年一橋大学社会学部出身。日清製粉株式会社で人事・営業の業務を経験した後、株式会社ぐるなびで約10年間人事責任者を務める。2019年7月から現職。『日本の人事部』にはサイト開設当初から登場。『日本の人事部』が主催するイベント「HRカンファレンス」や「HRコンソーシアム」への登壇、情報誌『日本の人事部LEADERS』への寄稿などを行っている。経営学習研究所(MALL)理事、慶応義塾大学キャリアラボ登録キャリアアドバイザー、キャリアカウンセリング協会gcdf養成講座トレーナー、キャリアデザイン学会理事。にっぽんお好み焼き協会監事。


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