OJTリーダー制度で、
創業130年の企業文化に新しい風を
古河電工が取り組む組織風土改革とは(後編)[前編を読む]
古河電気工業株式会社 戦略本部 人事部 人材育成(採用・教育)担当部長
上原 正光さん
リーダーのあり方が組織風土を変え、組織風土が業績を変える
組織力を強化するため、OJTリーダー制度のほかに取り組まれていることはありますか。
弊社では、毎年研修のメインテーマを設定し、さまざまな研修に一貫性を持たせています。2008年にファシリテーション研修を開始してから2012年までは、メインテーマを「組織力強化」とし、力を入れて取り組んできました。2009年には課題設定や課題解決、ロジカルシンキングなどを強化する研修、そして2010年にはOJTリーダー制度やOJTリーダー研修を開始。2011年には視野を広げ、感性を磨くことを目的に、アスリートとの対談など、一風変わった研修も開始しました。
2013年から2014年には、「組織力強化」というテーマから一歩踏み込み、社員により主体的な行動を求めるため、研修のメインテーマを「俺がやらねば誰がやる!」としました。そして、2015年からは、自分以外の社員と積極的に接して理解を深めることが大切だと考え、「人に踏み込む」をメインテーマに、対話の強化を重視した研修を行っています。その一環として力を入れているのが、「リーダーシップ」の強化です。
「リーダーシップ」強化の要素は、管理職だけでなく、若手や新人の研修でも取り入れています。弊社では、リーダーシップは管理職に限らず、全ての人に必要だと考えているからです。仕事は課単位で行われるものばかりではありません。課長不在のプロジェクトや、同期同士で進める課題など、細かいセグメントになった際に、チームを導く人の存在は不可欠です。リーダーシップという言い方をするから仰々しく感じてしまうかもしれませんが、要は「人を巻き込む力」。主体的に仕事を進める上では、不可欠なスキルなのです。
弊社では、リーダーのあり方が組織風土を変え、組織風土が業績を変えると考えています。一人ひとりが「対話」を通じてメンバーを理解し、リーダーシップを発揮できれば、組織風土が変わり、業績も上がる。リーダーシップ研修やOJTリーダー制度をはじめ、全ての研修に一貫しているのが、この考え方です。
2011年から「感性」を強化することを目的に研修を実施されているとのことですが、これにはどのような目的があるのでしょうか。
感性を強化する研修の一つに、「美術館研修」があります。美術館の中で、芸術作品を鑑賞し、その意味合いや感想について語り合うというもの。ここでいう感性は、「感じることのできる能力」とも言い換えています。弊社には技術職の社員が多いのですが、「なぜだろう」と感じる好奇心は、エンジニアに欠かせない要素です。自分の感じたことを言語表現する難しさを感じ、他人の感じていることを理解する難しさを感じてもらいたいのです。
感性研修は「多様性」を認識する絶好の機会でもあります。同じものを見ていても、隣の人は全く別のものに見えている。例えば、一枚の絵を見て、自分は夕日が描かれていると思う。そこに、「それは朝日では?」と投げかけてやる。「ハッ」とする瞬間に気付きます。感想を共有し合う中で、自分の感じ方に、どれほど先入観が入っていたかを知る。さらに、先入観は人によって全く異なっているということを、肌で感じることもできます。
多様性理解にもつながっているのですね。
ある社員がこのように言いました。「作品の感想を伝えるのは、英語で話すのと似ている。思ったことがうまく言えない」。ここにも狙いがありました。思いを言語化することは、コミュニケーションの前提となります。あうんの呼吸ではなく、きちんと言語化することで、相手との対話も共感も可能になるのです。
すべての人にとって、人生の中心にあるのは自分自身です。多様性を認め合おうと頭では理解していても、いざ違った世界観の人を前にすると、違和感を覚えてしまうもの。しかし、「自分の常識は他人の常識ではない」という考え方は、ビジネスシーンでの効果も高いと思っています。
世の中には、ありとあらゆる技術や知識があふれています。私たちは、そのうちどれだけを知っているでしょうか。おそらく、1%にも満たないはずです。でも、世の中の全員が飛行機の構造を知っている必要はありませんよね。必要なときに、得意な人が分かっていればいいのです。多様性を受け入れるということは、互いの個性や長所を生かせる環境を整えること。そのため、多様性を理解することもまた、組織力の強化につながるのです。