KDDI株式会社:
なでしこ銘柄もグローバル化も「信頼ある人事」から
「現地現物」で変革を加速するKDDIの「アクティブHR」とは(後編)[前編を読む]
KDDI株式会社 理事 コーポレート統括本部 総務・人事本部 副本部長
白岩 徹氏
新しい中期経営計画の柱に据えられた「社員力強化」とは
「働き方が変わる」という意味では、昨年、退勤から翌朝出勤までの休息時間を一定以上確保する「勤務間インターバル制度」を、他社に先がけて導入されましたね。
2015年の春闘で労働組合から「インターバル制を導入してほしい」と要求されたのがきっかけです。先駆例の欧州連合(EU)では1993年以降、加盟国に11時間のインターバル確保を義務づけていますが、それをそのまま当社に適用することは非現実的でした。というのも、EUと同じ11時間の確保を義務化した場合、朝9時の定時に出勤するためには、前日の夜10時までにあがらなければなりません。繁忙期には午後10時以降残業する社員もおり、実務に支障が出るおそれがあったのです。かといって、インターバルを短くしすぎると、社員の健康維持という目的が骨抜きになってしまう。
そこで当社では、インターバルを11時間と8時間の2段階に設定して、この問題に対応しました。第一の制約として、EUと同じ11時間のインターバルを安全衛生管理規定で制定。インターバルが11時間を下回る日が月に11回以上になると健康チェックを行い、場合により産業医との面談が義務付けられます。そして第二に、就業規則で8時間のインターバルを制定し、こちらには強い拘束力を付与しました。8時間の確保はマストで、仮に退勤が深夜2時になったら、翌日の就業は定時を越えて10時までずらさなければなりません。
導入後の反響は大きかったですね。長時間労働を美徳とするような文化にメスを入れるという意味で、会社としても、内外に向けて大きな変革のメッセージを発信できたのではないかと思っています。
人事部としての、今後の課題や取り組み方針についてお聞かせください。
今年度からスタートする新しい中期経営計画の柱の一つに、初めて「社員力強化」という目標が盛り込まれました。背景にあるのは、当社の成長の実体はインターネットやモバイル端末の爆発的普及といった外部要因によるところが大きく、決して社員の力がずば抜けていたからではない、という認識です。そこをうぬぼれてはいけないと、私自身も肝に銘じています。今後は人口減少とともに、そうした業界への“追い風”は徐々になくなっていくでしょう。だからこそ、一刻も早く人材教育の仕組みやプログラムを整備し、逆風下でも自らの努力と創意で成果を出せるように、「社員力」を鍛え直していく必要があるのです。特に国内市場の縮小はまったなし。海外でのビジネスを加速させなければ稼げません。
ところが、当社にグローバルで活躍できる社員がどれだけいるかというと、まだまだ足りないわけです。英語も満足に話せない。そこで昨年から、次期幹部候補である部長の一部を対象に、思い切った英語の集中訓練を始めました。3ヵ月はフィリピン・マニラで朝から晩までの語学研修プログラムに取り組み、次の3ヵ月は東京の語学スクールに通います。半年間、業務には一切かかわらず、パソコンも没収、メールも見られません。参加者は部長でありながら、部署からいったん抜ける形になるわけです。そうしないと、片手間ではとても身につかない。一昨年、私自身がこの訓練を、最初に“モルモット”として体験してみて、そう気づいたのです。
繰り返しになりますが、「隗(かい)より始めよ」で、何事もまず人事から始めるのが私の発想。社員力強化や人材のグローバル化についても、同様です。人事が自ら率先して行動を起こさなければ、改革を訴えても説得力に乏しく、現場を動かすことはできません。だから人事部では今、朝礼の3分間スピーチを英語で行っていますし、ランチミーティングも英語オンリーです。
ありがとうございました。最後に他社の人事担当の方々に向けて、メッセージやアドバイスをお願いします。
「郷に入っても郷に従わず」で3年間走り続けてきましたが、今あらためて感じるのは、会社を良くするのも、悪くするのも人事だということです。長く人事以外の世界にいたので、なおさらその思いが強いのかもしれません。人事のやりがいの第一は、会社の根幹をつくる面白さにあると、私は思います。そしてその根幹とは、人にほかならない。極めて重要な役割を担い、また幸せなポジションにいるのだという認識を、われわれはもっと強くもつべきではないでしょうか。そうすればきっと、人事部を、会社を、自分自身を変えられると思います。