全国64行の地方銀行が連携し、
転居先でも別の地銀で働ける仕組みを構築
「輝く女性の活躍を加速する地銀頭取の会」
の活動とは
千葉銀行 ダイバーシティ推進部 調査役
山本 悠介さん
輝く女性の活躍を「加速」するため、二つの研究会・部会がフル活動
そもそも、この制度をなぜスタートすることになったのでしょうか。この制度の母体となっている「輝く女性の活躍を加速する地銀頭取の会」について教えてください。
もともと、前段階として、内閣府がサポートする「輝く女性の活躍を加速する男性リーダーの会」があり、そこに弊行の頭取・佐久間英利が加わっていたことに端を発します。同会では、2014年6月に行動宣言を出したのですが、その中に「ネットワーキングを進める」というものがありました。それを実践する形で、全国地方銀行協会に所属する北海道から沖縄までの64行の頭取に、男性リーダーの会の地銀頭取版を作ろうと、佐久間が声をかけました。そして、2014年11月に、「輝く女性の活躍を加速する地銀頭取の会」が発足したのです。その流れで、千葉銀行が事務局を担当することになりました。
この「輝く女性の活躍を加速する地銀頭取の会」では、大きく二つの研究会と部会が活動しています。
一つ目は、女性活躍推進研究会。各銀行の女性活躍推進の担当者が年4回集まり、女性活躍推進のためには実際に何をすればいいのか、意見交換や情報交換をはじめ、さまざまな研究を行っています。2014年度は主に現状を把握するための情報交換を行ったほか、外部講師の方を招いての研究会も行いました。情報交換を行うと、実際に進んでいるところもあれば、必要性は実感しつつも現状は立ち遅れ気味のところもあることがわかりました。また、女性活躍推進の必要性を認識して取り組んでいる銀行もあれば、何となくやらなくてはいけないからやっているといったところもあります。それらの意識や活動をどれだけ底上げできるか。外部の講師の方による女性活躍推進に関する講演も、そのために実施しました。
1 回目は、株式会社プロノバ代表取締役社長の岡島悦子さんに、組織コンサルタントの視点から女性のキャリアをどうやって築いていくかというテーマで、2回目は、日経BPヒット総合研究所長・執行役員の麓幸子氏さんに、具体的な各社の取り組みを交えながら、女性活躍推進をどう進めていったらいいかというテーマで、ご講演いただきました。いずれも、午前中は講演で、午後はグループを作ってどんどんメンバーをシャッフルしながら意見交換をしていくという勉強会形式で研究会を進めてきました。
二つ目は、女性リーダー育成部会。これも年4回行っています。各行一人ずつ、将来の幹部候補生や、現職の管理職、もしくは管理職一歩手前といった女性を集めます。目的の一つはネットワーク作りです。ロールモデルがなかなかいない中で、他行にも自分の将来像がいるかもしれない。そういう人たちが集まって情報交換する場として、リーダー育成部会を設けています。
ここでは、実際のキャリア形成支援に関するような研修を行ったり、グループでテーマを決めて研究しながら発表したりしています。今年度のリーダー育成部会は2期生になるわけですが、2回目の部会を開催した時点で既に非常に強いきずなが生まれていると思います。昨年度の部会では参加者の方々から、「こういう銀行になるといい」と話し合ったものを、女性活躍推進研究会の人事担当者に投げかけるなど、部会、研究会双方での効果も期待しています。
そのような活動の中で、毎年何かしらアウトプットしていくことが、「輝く女性の活躍を加速する地銀頭取の会」の当初からの目標でした。その最初のアウトプットが「地銀人材バンク」だったのです。
もともと発足前から、弊行の佐久間には、このような制度を実現したいという考えがありました。2~3年前に、弊行の主計担当だった女性が結婚後にご主人の転勤で新潟に転居することになったのですが、システム統合の件でつながりがあった新潟の地銀である第四銀行に声をかけたところ、その女性を受け入れてくださり、女性は働き続けることができたのです。そのようなことを、もっと全国のネットワークでできないものかと、「輝く女性の活躍を加速する地銀頭取の会」の発足当初から検討を重ね、64行のネットワークを活用した転職の橋渡しとして「地銀人材バンク」がスタートしました。
2014年11月に発足して、翌15年4月には「地銀人材バンク」がスタートしているということですが、64行もの協力を得ながら、このようなことを実現するスピードは驚きに値します。しかも、研究会や部会がそれぞれ年4回で実施されていますよね。
「加速する」会ですから(笑)。そもそも女性活躍推進をやらなければいけないということは、どこの銀行もわかっているので、反対の声は上がりません。むしろ、他行の進んでいる状況を見て、キャッチアップできる貴重な機会にもなる。なかなかそういう機会がなかったので、この運営体制に賛同してもらえたのではないかと思います。
そのような中で、地銀人材バンクの仕組みを短期間で設立するにあたり、苦労されたのはどのようなことでしたか。
この取り組みが「職業紹介」に当たると、法律に抵触してしまうため、それを回避することでした。事務局が人材をプールして転職先をあっせんしてしまうと職業紹介になってしまいます。銀行法では銀行業以外、基本的にやってはいけないことになっています。銀行業務に関連する人材派遣や、事務部門を集中して受託することを主業務とした別会社を設立することなどはできるのですが、それ以外で人材派遣・紹介やあっせんを主業務とすることはできません。そこで、どういう形をとったら一番いいか、実はその構想のために数ヵ月かかり、最終的に落ち着いたのが今の方法です。
事務局の案について、何度か理事行や全国の窓口担当者の方々から意見をもらい、そこからは比較的スムーズに進みました。2月から3月にかけて意見を調整し、3月の終わりごろからアナウンスして、4月から正式スタート。3月末に辞められる方で、すぐに利用された方も何人かいました。
退職後の利用も可能なのでしょうか。
目安として、退職から6ヵ月程度とはしています。しかし、働き続けるようにすることが目的なので、絶対にダメということではなく、あくまでも目安です。銀行業務は融資業務や投資型金融商品の販売といった特有のスキルを必要とするなど、同じ地方銀行だからこそ生かせることがたくさんあります。そうした業務スキルの劣化がない範囲ということも踏まえて目安は6ヵ月程度ではないかというぐらいのものです。
先ほど、予想外に利用者が多いということでしたが、実際、女性の間での認知度は高まっているのでしょうか。
弊行の場合、退職するとの申し出があった時点で、ダイバーシティ推進部で必ず面談することにしています。辞めるにあたってはいろいろな要因があると思いますので、深堀りして聞くことが目的です。ただ「退職したい」というだけではなく、そのきっかけを探るために、一人ひとりと面談しています。退職する人数はさほど多くないので対応できています。その中で、配偶者の転勤・転居が退職の理由だという人たちに、地銀人材バンクのお話をしているのですが、最近は知られるようになってきたので、面談前に相談に来た人もいます。行内で周知を図っていることもあり、かなり知られるようになってきたと思います。