イケア・ジャパン株式会社:
イケアはなぜ「同一労働・同一賃金」「全員正社員」にできたのか
“本気で人を大事にする会社”に学ぶ人事制度改革(後編)[前編を読む]
イケア・ジャパン株式会社 人事本部長
泉川玲香さん
週20時間だけ働くマネジャーがいてもいいのでは
大切なのはやはり、コワーカーそれぞれのライフパズル(※前編参照)を尊重し、理解し、受容するインフラを整えておく、ということではないでしょうか。人が100人いれば、100通りの複雑で多様な人生のパズルがある。結婚するにしても、子供を生み育てるにしても、それぞれにする・しないの選択があり、早い・遅いのタイミングも違うでしょう。誰が、いつ、いかなるライフステージにいても、それをちゃんとカバーできる仕組みや環境をつくっておくことが、これから先、すごく大切になってくると思います。私も今はほぼフルタイムで働いていますが、今後は、週20時間程度に抑えて半分は海外に行ったり、趣味を楽しんだりといったこともありえます。自分のライフパズルにおいてそういう選択肢を想定したときに、パートタイムのリーダーとか、週20時間しか働かないマネジャーがいてもいいんじゃないか、と。逆に、大学生のストアマネジャーが出てきたっていいと思いますよ。収入のピークを人生のどこに持ってくるかも、人によって違うはず。上へ、上へと、ひたすらはしごを昇り詰めていくだけがキャリアの形ではありませんからね。10年後、20年後の日本におけるエイジングの新しいモデルケースをつくっていきたいというのが、私個人の展望でもあります。
人事改革には本来、そうした長期的な視点が欠かせません。とはいえ当初は、イケア内部でも戸惑いや異論があったそうですね。
今はまだ問題が出ていないということで必要性に疑問を持たれたり、正社員化でコストがふくらむと懸念されたり、トップの経営会議でもそのあたりは何度も議論を重ねました。将来への投資か、コストか、どちらに焦点を絞るのかと。そして最終的に、人に関わる部分は「投資」でいこうという結論に至ったわけです。私としては、イケアの人に対する本気度を、改めて証明してもらったような気がしましたね。言っていることと、やっていることが矛盾しない。やっぱり本気で「人を大事にする会社」なんだと。
その“言行一致”が、イケアに転職して一番の驚きだったと、インタビュー前半でも述べられました。でも、前職から移る気はあまりなかったとか。
よくご存じですね。まったくありませんでした(笑)。映画関係の仕事ですごく充実していましたから。たまたま知り合いのヘッドハンターの方に口説かれて、というか、「ワインと食事をつけるから」という誘いにつられて(笑)、イケアの担当者との会食のテーブルに、着くだけ着いたんですよ。もう、驚きましたね。一応経歴書も用意していったのに、私がそれまで何をしてきたのかなんて、一言も聞かれないんですから。そのかわり、イケアのカルチャーについて、90分間延々とプレゼンテーションを受けました。あとでわかったのですが、イケアはイケアの価値観に共感してくれる人材を求めていて、私との会食の場でもその反応を見ていたんですね。私はその90分のプレゼンで、イケアという企業のあり方にすっかり引き込まれていました。話の通りならすごい会社だし、人事としてもやりがいがあるなと。入社して、それが本当にその通りだったのです。