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となりの人事部
第64回 イケア・ジャパン株式会社

イケアはなぜ「同一労働・同一賃金」「全員正社員」にできたのか
“本気で人を大事にする会社”に学ぶ人事制度改革(前編)

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人事本部長 泉川 玲香さん
2015/9/1
家具・インテリア・生活用品などホームファニッシングの製造販売で世界トップクラスの売り上げを誇るイケア。その日本法人であるイケア・ジャパンでは2014年9月から、新しい人事制度の運用が始まりました。その内容はフルタイム・パートタイムの別なく、「同一労働・同一賃金」を適用し、すべての従業員に「正社員」の待遇を保障しながら、多様な働き方も認めるという画期的なものです。「外資だからできるのでは」「経営に余裕があるからできるのでは」といった見方もありますが、果たしてそうでしょうか。同社の人事制度改革の根幹を支える先進的な理念の一端に触れると、それが単なるパートタイマーの活用策や人材確保の手段でないことは明らかです。同社人事本部長の泉川玲香さんへのインタビュー。前編では、“本気で人を大事にする会社”イケアならではの、独特のカルチャーやベースとなる考え方についてうかがいました。
プロフィール
泉川玲香さん プロフィール写真
泉川玲香さん
イケア・ジャパン株式会社 人事本部長
いずみかわ・れいか●大学卒業後、アナウンサーとして放送局に入社。その後、教育ビジネスで海外の企業買収を手がける。英国で長男を出産。エンターテインメントビジネスに転職し、人事総務本部長を務めた。2004年、イケア・ジャパンに入社。船橋店(千葉県)の人事マネジャー、新三郷店(埼玉県)のストアマネジャーなどをへて、12年から現職。長男はいま大学生。余暇には絵画などの美術鑑賞や、家族3人と愛猫との温泉旅行を楽しんでいる。

既存の制度やシステムでは対応できない「ライフパズル」とは

―― 泉川さんが指揮をとられた2014年秋の人事制度改革では、日本の大企業としては初めて、すべての従業員に「同一労働・同一賃金」を適用するなど、その内容の先進性が大きな話題となりました。

泉川玲香さん Photo

ありがとうございます。「同一労働・同一賃金」の仕組みを初めて導入するということで反響が大きく、いろいろとご質問やお問い合わせをいただきましたが、残念なことに、受け止められ方に少なからず“誤解”があったんです。昨今、人手不足が深刻化しているから、人を集めやすくするために、パートタイマーの待遇を引き上げたのではないか、といった見方が多かったのは事実です。もし、私たち人事部門の狙いがそこにしかなかったとしたら、改革は行われていません。新しい制度を提案したところで、間違いなく社内から「NO」を突きつけられていたでしょう。では、なぜ改革を実行できたのか。それは、イケアが「ライフパズル」という視点をとても大切にしているからです。

―― 「ライフパズル」とは、どういう意味ですか。

価値観の多様化が進み、誰もが一直線に会社勤めをして生きていくという時代では、もはやなくなりました。男女を問わず、キャリアの途中で子供を育てたり、介護をしたり、あるいは勉強をしに学校へ戻ったり。どのライフステージにいるかによって、めいっぱい働いて“上”に昇りつめたいときもあれば、“横”へずれて別のことにエネルギーを配分したいときもあるでしょう。本来、人生もキャリアもチョイスの連続であり、状況変化やタイミングに応じて、さまざまな選択肢のピースを柔軟に組み上げていくパズルのようなもの。そのパズルを組み上げる主導権と責任は自分自身にあるのだ、というのが「ライフパズル」の考え方です。イケア発祥の地であるスウェーデンでよく使われる言葉ですが、私も大好きな言葉なので、こうして取材や講演があると、いつも使うようにしているんです(笑)。

―― 従来型の雇用システムや給与体系では、多様で複雑になる一方の「ライフパズル」に対応していけないということですか。

特に日本の多くの職場では、ダイバーシティが大切と言いながら、その基本中の基本であるジェンダーの部分さえ、まだ遅れています。企業で活躍するのは「男性も、女性も」ではなく、「男性か、女性か」どちらかという風潮が根強いですよね。女性の大半はパートタイマーという“身分”に固定され、豊かな能力を持っているのに、会社のシステムがそれに伴っていなかったり、いわゆる“103万円の壁”を意識して自ら働くことを制限したり、せっかくの能力や経験が生かされているとは言い難いのが現状です。子供を産んだら会社を辞めるしかなく、育児が一段落しても再就職をためらってしまう――そんな社会ではとても、自分の人生のパズルを主体的に組み上げていくことなどできません。こうした状況を打開するには、同一労働・同一賃金に基づく“すべての雇用者の正社員化”が一つの突破口になるのではないか。弊社が導入することで、日本に何かしらインパクトを与えられるのではないか。そんな思いは、人事として強くありましたね。

―― 働く人一人ひとりの「ライフパズル」を、そこまで尊重するのはなぜですか。

イケアという会社では、人間こそがすべての起点だからです。「人を大事にする」ということが単なるスローガンではなく、企業のカルチャーとして組織全体に浸透しているからです。


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