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カゴメ株式会社:
100年企業の人事を大改革! 世界市場で勝つための「グローバル人事制度」とは(前編)

カゴメ株式会社 執行役員 経営企画本部人事部長

有沢 正人さん

一気に進めたカゴメでの人事“大改革”

グローバル人事としてのプロフェッショナルな経験をされたわけですね。カゴメに入社されることになった経緯について、お聞かせいただけますか。

カゴメは売上高が2000億円ほどの会社ですが、数年前の海外売上比率は10%強という状態でした。一方、少子高齢化で人口減少の進む日本の国内市場は飽和状態です。したがってカゴメの今後の成長はグローバルで市場を開拓することに大きくかかっているのです。しかし、人事制度は全くグローバルに対応していなかった。そこで、強い危機感を持った当時の西社長から、「グローバルに通用する人事制度を一から作ってほしい」という要望がありました。非常にやりがいのある仕事だと感じ、何よりもこれまでのグローバルでの経験が活きると思ったので、2012年1月に「特別顧問」という形でカゴメに入社しました。

有沢正人さん Photo

最初の仕事は、海外拠点に行って現地のCEOと話をすることでした。驚いたのは、彼らが日本本社に人事部があるのを知らなかったことです。なぜならそれまで日本本社の人事部は、海外拠点に行っていなかったんです。最初に行ったのはオーストラリアです。海外の中ではかなり大きな拠点なのですが、とにかくビックリしました。まず評価シートを見せてもらったのですが、セールスマネジャーの目標の欄には「たくさんの人に会うこと」と書いてある。結果の欄には「たくさんの人に会った」とあり、評価の欄には5段階評価で5が付いていたんです。これでは目標シートの体をなしていませんし、とても評価制度と言えるものではありませんでした。さっそくCEOと直接話をして、全面的に評価制度を変更しました。また、当時のオーストラリアにはHR部門がなかったのですが、女性二人にHRのマネジャーとアシスタントになってもらい、CEOと一緒になって人事の改革を進めることを決めました。ここから海外拠点の人事を改革する、怒涛の進撃が開始しました。

その時に強く感じたのは、世界で統一した人事制度を作ることの必要性であり、また、人がグローバルに行き来できるシステムを作ることが重要だということです。当時はオーストラリアの工場長と日本の那須工場長のどちらのランクが上なのか、といったことが誰も分からない状態でしたが、西社長から「それが分かるようにしてほしい」と言われ、全世界共通のHRポリシーや仕組みを構築するために、2年がかりで職務等級制度(ジョブ・グレーディング)を導入しました。職務等級制度の一覧表を見れば、オーストラリアの工場長、アメリカの工場長、ポルトガルの工場長、そして日本の7ヵ所の工場長のグレード(職務等級)が全て分かるようになっています。それはセールスマネジャーも同様。マネジャー以上に関しては、全世界共通の「物差し」で見ることができるようにしました。たとえば、オーストラリアの工場長が昇進したいと考えた場合、次にどこに行けばいいのかが分かるようになっています。自分のキャリアを成長させるために、世界中で自由に行き来できる仕組みが完成したわけです。そして次に行ったのが、グローバルでのサクセッションプラン。トップの後継者が常時控えているような状態を作っておくことは、非常に重要だからです。

ところで、私がカゴメに来た時、役員に対する評価制度がありませんでした。私は人事評価制度を一新するにはトップから変えるべきだと考えていましたので、ジョブ・グレーディングを役員まで入れる必要があるとして、役員評価制度を導入しました。ミッションに対する達成度合いがどのくらいであったのかを点数化すると共に、報酬についても変動部分と固定部分を見直し、変動部分の割合を大きくしました。これは、海外のCEOについても同様です。2年前に役員の評価体系を全面的に見直しましたが、翌年には部長クラス、そして今年は課長クラスへと導入していきました。なぜなら、上から改革を進めていかなければ、下が納得しないからです。上が変わった後なら、下の人たちも変わることを受け入れやすくなります。「カゴメ通信」という社内報にも、社長の年収額と報酬の決定のメカニズムを開示しました。社長自身も、公開すべきだという考えを強く持っていたからです。

カゴメに入ってまず意識したのは、どのようなことだったのでしょうか。

先ほども申し上げた通り、全世界で通用する仕組みを導入することです。最初は「特別顧問」という立場でカゴメの現状を確認し、人事部長になってからは、一気に変革を進めていこうと考えました。かなりのスピード感を持って進めていったので、最初は社内から不満があったことも事実です。しかし、その目的と意味が分かると、大変協力的に対応してくれました。カゴメの社員は非常に誠実で、素直な人たちばかりです。ロジックできちんと話をすれば、ちゃんと理解してくれます。上から改革を行っていくことが分かると、積極的に協力してくれるようになりました。

一連の改革の中で、有沢さんが一番気を付けてきたことは何ですか。

有沢正人さん Photo

改革推進のトップである西社長に、「覚悟」を持ってもらうことでした。痛みを伴った改革を行うので、社員からは当然、不満が出ます。カゴメの100年を超える歴史の中で、このような改革を行うことはある意味画期的なことでした。しかし、この改革を進めなければ、グローバルに展開していこうとするカゴメの将来はないと考えました。まずは私が人事の責任者としての覚悟を決めて、次にトップにも覚悟を決めてもらう。この共同プロセスが人事改革を進めていくためには、絶対に欠かせません。

覚悟ができなくて、トップを巻き込むこともできないのなら、人事をやるべきではありません。それでは、単なるオペレーション担当です。なぜなら、人事は経営戦略そのものだからです。経営戦略の一環として人事があるわけですから、改革の中身を人事とトップが理解し、共に握っていないと絶対にうまくいきません。私は会社の収益を左右する最も大きな経営戦略の一つが、人事戦略だと思っています。カゴメでは社長、会長をはじめとしたトップが、人事に対して大きな理解を示してくれています。今、カゴメで私が人事改革をできるのも、そのおかげだと思っています。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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