日本ヒューレット・パッカード株式会社:
グローバル企業・HPの「世界共通の人事制度」と「人事営業」(前編)
取締役 執行役員 人事統括本部長
有賀誠さん
社員自らがキャリアを構築
HPの「人財開発」は、どのような考え方に基づいているのでしょうか。
これまでグローバル企業を何社か経験してきましたが、人財開発についてはHP固有の考え方があります。それは「キャリアは自分でつくりなさい」というもの。HPには創業の頃から、「自分で考えて、自分で行動する」という自律を求める文化があります。そのため、キャリアを自分で考え、かつ責任を持って実践することを求めています。それに対して、マネジャーはアドバイスをします。また、会社はそのためのインフラを提供します。これが、HPにおける社員のキャリア構築の基本形です。
また、それを実現するための仕組みとして「社内公募制」があります。一般的に、社内公募制は、多くの会社で「名目上」だけになっているケースが多いと思います。しかしHPではそんなことはありません。上司に拒否権がなく、社員が「別の職場に異動したい」と手を挙げて面接を受け合格したら、現在の上司が口を出せるのは、異動のタイミングだけ。キャリアは自分でつくるものですから、HPではこうしたことが当たり前の文化となっています。ですから、マネジャーは日頃からメンバーの希望を吸い上げて、それをサポートしなければなりません。また、後任を考えておくこともマネジャーの仕事です。
さらに、360度評価を用いて毎年、社員の意識調査を実施しています。そこでは、マネジャーがメンバーから評価されます。HPでは社内で「人材流通市場」ができていて、仮に人気のないマネジャーがいたとしたら、信望の厚いマネジャーの部署に人が流れていってしまいます。そのため、マネジャーはメンバーを大事にしますし、本人の希望を常に吸い上げています。また、メンバーもそのようなプロセスを経た上で、自分がマネジャーになることを理解しています。そこで重要となるのが、それぞれのメンバーがハッピーであること。人材の流動化が基本にあるため、メンバーがハッピーであることでしか組織を維持存続できないのです。
事実、社内の異動に関しては、会社が辞令を出すよりも、メンバーが自ら異動希望を出すことのほうが圧倒的に多くなっています。なお、異動希望を出す際、一つの仕事を最低2年間行っていることを条件としています。仕事をマスターし、そこで貢献することなしに、社内ジョブホッパーのようになっては良くないからです。
それから、会社側としては、将来のマネジメントを育成するための「サクセッション・プランニング」があります。例えば、ある国や事業のCFOというポジションがあります。そのポジションで成功する人が持つべき要件を定義し、それに対して候補者を挙げます。そして、候補者の現状と理想の間にはギャップが出ますから、そのギャップを埋めるために育成計画を各論レベルで作成するのです。
例えば、私の配下に本部長が何人かいます。ある本部長の後任を考えた時、候補者が3人いるとします。1番目は、明日からでも後任を担える人。これは特に育成の必要はありません。あまり長く待たせないことが課題となるでしょう。2番目は、ある分野は強いけれど、ある分野の知識・経験が足りない人。足りない分野を勉強してもらうため、社外のビジネススクールに派遣するといった対応を行います。3番目は、ポテンシャルはあるけれど、まだ実務での経験が足りない人。ローテーションで足りない実務を経験させる、といった対応を行います。候補になり得る人の理想とのギャップを分析して、それを埋めるためのアクションプランの取り組みを3ヵ月に1度、繰り返し行っています。また、これを縦横斜めのマトリックスの中で行います。各国でも行うし、各事業部の中でも行います。このようなことを行えるのも、世界共通の人事制度が大前提だからです。
ただこれだけだと、日本では足りない部分があります。例えば、英語力。日本HPの社員の多くはTOEIC800点くらいの力はありますが、英語が母国語の人と伍してやっていくには、全く足りません。そのため、日本HPが独自にプログラムを組まなければなりません。あるいは、優秀な社員ほど、顧客からは担当を代えないよう要請があります。そういう場合には、将来のことを考え、担当は代えないけれども、ほかの業界のことを勉強してもらうために、異業種交流の場に送り込むというようなことを、日本HPでは独自に行っています。