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脳科学の視点から考える、社員の「主体性」の育み方

玉川大学 脳科学研究所 教授

松元 健二さん

コロナ禍に代表されるように不確実性が高く、予測困難な時代において、企業が求める人材が「教育・管理しやすい人材」から「自ら考え、自ら動ける主体的な人材」へと変化しています。活躍する人材の要件の一つに挙げられることが多い「主体性」とは、そもそもどのようなものなのでしょうか。また、社員の主体性を引き出したり、組織の中で主体性を持つ人材を増やしたりすることは可能なのでしょうか。人の主体性を支える脳機能について研究している、玉川大学 脳科学研究所教授の松元健二さんにお話をうかがいました。

プロフィール
松元 健二さん
玉川大学 脳科学研究所 教授

1991年帯広畜産大学畜産学部獣医学科卒業、1996年京都大学大学院理学研究科霊長類学専攻博士後期課程修了。京都大学博士(理学)。同年理化学研究所基礎科学特別研究員、1999年理化学研究所脳科学総合研究センター・研究員、2004年同スタッフ研究員、2007年カリフォルニア工科大学神経科学訪問研究員/玉川大学嘱託研究員、2008年玉川大学脳科学研究所・准教授を経て、2011年より玉川大学脳科学研究所・教授。2022年よりムーンショット目標9プロジェクト「脳指標の個人間比較に基づく福祉と主体性の最大化」プロジェクトマネージャー。専門は認知神経科学。所属学会は日本神経科学学会、日本生理学会、日本神経精神薬理学会、Society for Neuroscience、Society for Neuroeconomics 、American Association for the Advancement of Scienceなど。

脳科学から見た「主体性」とは

人の主体性を支える脳機能について研究されている松元先生は、「主体性」をどのように定義されていますか。

さまざまな説がありますが、私は「自らの判断と意志に基づいて対象に働きかけ、目的を実現し、さらにその結果についての責任を負おうとする態度」と定義づけています。

まずは、自分が思うように外界を変えようと、働きかける。その態度が主体性の起点になります。そのとき、どんなふうに変えたいかが大事です。

目の前にリンゴとオレンジがあったとしたら、どちらに手を伸ばすか。意思決定の研究では「価値の表現」という言い方をしますが、リンゴとオレンジそれぞれに、自分にとっての価値を見出し、価値が高いと判断したほうに手を伸ばすでしょう。

リンゴとオレンジであれば、単純に選んで食べるだけですが、料理をする場合は、いろいろな材料を組み合わせて、自分が望むような結果に近づけていくというプロセスがあります。

また、主体性を考える際に重要なのは、「人は価値そのものを変えられる」ということです。人は自由に選ぶことができ、一度選んだ後も考え直すことができる。あるいは自分で価値そのものを変えて、選択肢以外の中から新たに選ぶこともできます。

たとえば学生が就職活動を始めたとき、最初はぼんやりと「こういう業種がいいな」と思うかもしれません。ただ、実際に業界研究をしたり、面接を受けたりするうちに考え方が変わっていく。もしくは最初は人気企業のランキングや、他人の価値基準に影響されて選択していたとしても、「本当にそれでいいのかな」と考え直す。自分で選択して、その結果について責任を負うことが主体性だと考えています。

ちなみに、人が選択をする際に判断基準としている「価値」には、さまざまな種類があります。お金だったり、娯楽だったり、安心だったり。たいていは「良い生活がしたい」など、今自分が生きている世界の中で良い思いをすることが目的になるのですが、場合によっては「自分が死んだ後の世界」に価値を見出す人もいます。

「自分が死んだ後の社会を良くしたい」などと自分の生存を越えるような価値観を持つのは、人間だけです。動物は、死後に価値を見出せません。自分の生命が果てた後に価値を見出せるのは人間ならではです。

いかに内発的動機を引き出すかよりも、いかにつぶさないかが大事

主体的であるためには、外界を変えようとする意思や動機が必要なのでしょうか。

そうですね。動機には「内発的動機」と「外発的動機」があります。内発的動機とは、金銭や名誉など外から与えられる外的な報酬がなくても「それをやること自体が楽しい」「興味が勝手にわいてやりたくなる」というものです。

主体的であるためには、この内発的動機が必要なわけですが、自らの判断と意志で何らかの行動を起こして、「おそらく、こういった結果が起きるだろう」とする予測と実際の結果に関連性を見出せると、人はどんどん動機づけられていきます。

反対に「予測」と「結果」がバラバラだと、動機づけは弱まると言われています。次第に行動することや、結果を得るために努力することをやめてしまうわけです。これを「学習性無力感」と呼びます。

注意が必要なのは「内発的動機」が「外発的動機」にすり替えられる点です。アンダーマイニング効果といって、内発的動機に基づいて行われていた行動も、成功したときに外部から与える報酬を約束したりすると、内発的動機がしぼんでしまうことがあります。

例えば、本を読むのが好きな子どもがいたとします。その子どもは、誰かから言われるまでもなく、自分の内発的動機に従って、よく本を読んでいます。そんなとき、学校で読書を促進するイベントが行われ、図書館で1冊本を借りるとシールが1枚もらえる、誰が何冊読んだかがわかるように教室に貼り出される、といった施策が行われたとします。

すると、シールを貼ることに夢中になり、イベントが終わった後は、本を読まなくなってしまうことがあるのです。最初は本が好きだから読むというように読書自体が目的だったにもかかわらず、シールをもらうというご褒美や、みんなに評価されるという名誉が目的にすり替わってしまう。それで内発的動機がしぼんでしまうのです。

松元健二さん(玉川大学 脳科学研究所 教授)インタビューの様子

職場においても、内発的動機を持っている社員に過剰な外的報酬を設けることで、内発的動機を減衰させてしまうこともあり得ますね。

そうですね。一方で、もともと意欲のない人に対して外発的な動機づけを行うことは有効だったりします。初動は外発的動機づけがきっかけだったけれど、やり始めたら楽しくなって、内発的動機が引き出されるケースがないわけではありません。

内発的動機が芽生えたら、そっと見守ることが大事です。目の前の相手がどういう状態にあるのかをしっかりと観察して、内発的動機をつぶさないようにしなければなりません。一人ひとりが置かれている状況や興味、関心は異なるので、主体性をコントロールすることは、とても難しいんです。

そもそも動機を持つこと自体が難しいという場合もありそうです。

そもそも何をすればいいかがわからない、というケースですね。一つのやり方としては「選択の余地」を与えることがあるかと思います。

とくに職場だと、やらなければいけないことがたくさんありますよね。そういった義務的なものの中に、少し選択の自由を入れる。何時までにタスクを終わらせなければいけないと決まっているけれど、どの順番でやるかは選択肢を与える、といったやり方です。

ただ、ここで一つ心に留めておいてほしいのは、選択の自由は平等である必要があること。選択の自由度に差があると不公平感が生まれ、選択の自由度の価値が落ちてしまいます。結果的に、組織の中にあるやる気や主体性を削ぐことになってしまうのです。

また、主体性について考えるのに有効な、2018年に発表された先行研究があります。二つの赤い丸が表示されたタブレットを渡し、その二つを、できるだけ多く、さまざまな線で結んでもらうというものです。直線に近い線をとにかくたくさん引く人もいれば、いろんなユニークな線を書く人もいます。一定の時間内に「何本、線を書けたか」「人とは違うユニークな線を書けたか」を指標に、脳の働きとの関連性が調べられました。

まだ不明確な部分も多いのですが、二つの指標とも「ドーパミン」が関係することが分かっています。ドーパミンがより働いている人のほうがたくさん線を引き、ユニークな線を引くのです。

ドーパミンがたくさん出ているのは、どのような状態なのでしょうか。

ドーパミンは、思っていたよりも良いことが起きたときに反応すると、これまでは考えられていました。ただ、最近の研究では、それだけではないことが分かりつつあります。

たとえばネズミが広場で自由に行動しているときに、ドーパミンの変動が見られました。その変動が、その次にどのような行動を起こすかを決めているという結果も出ています。行動したら、エサがある場所を発見できて、アクションの頻度が高まったという単純な話だけではなく、自由に行動している中でドーパミンが反応し、それがそのあとの行動に関連していると言われています。まだまだ分からないことが多い分野ですが、自由に行動できる環境と主体性には相関がありそうです。

企業が目指す姿、ビジョンを論理的に伝えることの効用

職場で社員の主体性を引き出すためには、どうすればいいのでしょうか。そもそも主体性を後天的に伸ばしたり、身につけたりすることは可能なのでしょうか。

私は、可能だと考えています。しかし、誰かが介在して、人の主体性を引き出すことは実に難しいことです。

というのも、主体性というものに注目しすぎてしまったり、評価したりすると、先ほどの外発的動機が刺激されて、上司や同僚から評価されるために、まるで主体性があるかのように人は振舞ってしまうからです。そうなると、かえって主体性を失わせてしまいます。

主体性というのは、自らの判断と意志に基づいて、何かを変えたいとか、目的を実現したいという思いが起点になるはずです。そのため、まず本人が「職場のために何かをしたい」「上司の役に立ちたい」「会社のビジョンを実現したい」などと思えることが重要です。その思いがあれば、主体的に何かへ取り組み始める可能性が高くなります。

その上で経営者や管理職にできることは、組織にとって新しい価値観を“阻害しない”ことではないでしょうか。まわりと違うことをやり始めた人を「何をくだらないことをやっているんだ」と止めたり、新しい価値観を「良い・悪い」でジャッジしたりせずに、見守ることが大切です。

もちろん、その社員の行動が組織に不利益をもたらすものであれば、止める必要があるわけですが、従来の価値観に基づく論理に縛られて、新しい価値観や行動をつぶしていると、組織の中で主体性は育ちにくいでしょう。

これは脳科学ではなく、マネジメントの話になってしまいますが、主体性が育まれる組織には、長期的な見通しを持てる経営者や管理職が不可欠だと思います。自分以外の人間から新しい価値観が生まれてきたとき、それが長期的に見て会社にプラスなのかマイナスなのか、しばらく見守っていいのか、すぐにやめさせたほうがいいのかを見通す力が試されます。

松元健二さん(玉川大学 脳科学研究所 教授)インタビューの様子

「勤務時間の20%を自分のやりたいプロジェクトに費やせる」といったルールを設けている企業もありますが、主体性の発揮という観点からすると有効でしょうか。

有効だと思います。指示されたことしかできないと、主体性を発揮する余地が少なくなってしまいますから。勤務時間中に自分の好きなことができる、誰からも邪魔されることなく自由に選択できる、という環境をつくるメリットは大きいと思います。

松元先生がご自身の研究室で、学生の主体性を引き出すために工夫されていることはありますか。

基本的には、邪魔をしないことを一番大事にしています。

研究内容について共有し合うセミナーも、開催日を決めていないんです。セミナーを開催する曜日をあらかじめ決めて、担当者を順番に回すというやり方もありますが、できればそうしたくはありません。順番がきたからやるのではなく、「みんなに共有したいから、セミナーをやりたい」という思いがまずあって、それから周囲に呼びかけて開催するという体制にしています。とくに私の研究室は基礎研究の分野なので、自分でやりたい研究を考えて、取り組めなければ、研究者として育っていかないと思っています。

もちろんそれは、大学が利益を追求する場所ではないからできることかもしれません。企業であれば、「社員の主体性はいらない」というのも一つの経営判断でしょう。しかし、コロナ禍のように世界情勢がどんどん動いて、物事の前提が変わっていく状況下では、前例にとらわれずに、主体的に解を求めていく社員が必要だと思います。

松元先生は、主体性には「目的の価値づけ」と「目的と行動のリンク」が必要だともおっしゃっています。管理職や人事担当者は、社員が主体性を発揮するため、どのようにして「目的の価値づけ」「目的と行動のリンク」を生み出せばいいのでしょうか。

主体性には「どのような目的にどのくらいの価値を置くか(目的の価値づけ)」と「高い価値の目的の実現につながる行動をどのように選ぶか(目的と行動とのリンク)」の2点が要になります。

たとえば企業経営者は、「目的の価値づけ」と「目的と行動のリンク」を自然に行っているはずです。企業の理念を掲げて、そこに価値づけをし、どのような行動をとればその理念が実現できるのかを考えるわけです。

経営者ほどの主体性は発揮できなくても、その組織にいる人たちが「その理念の実現に協力したい」と思えれば、主体的な組織になっていくと思います。経営者の主体性を支えるというところで自分自身の価値を見出していく部分もあるでしょう。

ですから、理念やビジョンなど、企業が目指す姿をしっかりと伝えていくことは大事ですし、自分より上の人たちが本気でそれを目指しているんだということが分かること、あるいは「トップが言っているプロセスならビジョンを実現できそうだ」と納得できることはとても大切です。

私たちの研究室では「説得の研究」も手がけていますが、社会規範に同調する力というのは想像以上に強い。黙っていれば、常識的なもの、自分たちにとってなじみのある考えやコンプライアンスを順守する考えに同調してしまうんです。

しかし、社会規範から少しずれた部分、場合によっては従来の社会規範を変えていくところに、本当の意味での主体性があるわけです。コロナ禍がまさにそうですよね。「従来のやり方で本当にいいのだろうか?」と立ちどまり、前例とは異なる行動がとれるか否かに経営者の主体性があらわれていました。

説得の研究の結果からは、従来のやり方が通用しないときに、「目的の価値づけ」と「目的と行動のリンク」を新たに行う主体性には、論理や理性が関係しているだろうと見ています。論理的に説得したときに、人は常識に流されなくなるし、そのための脳回路がヒトという生物種には備わっていることが分かったからです。

イノベーションを起こすとき、新しいものを生み出していくときこそ、その中身を論理的に説明し、人を説得していくことが大事です。簡単ではありませんが、理性的に、ロジカルに説明することを怠らない姿勢もまた大切だと思います。

松元健二さん(玉川大学 脳科学研究所 教授)

取材:2023年12月15日

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「HRペディア「人事辞典」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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*****さんが参考になったでオススメしました

東京都 電機 2024/01/18

ビジョンやパーパスの必要性を考えるとき、それがあって社内外のステークホルダーに伝えていくことは、実はそのステークホルダーの主体的な関わりを引き出すことになるからなのだと理解しました。

*****さんが共感できるでオススメしました

大阪府 情報処理・ソフトウェア 2024/01/16

 

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