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キーパーソンが語る“人と組織”

「社員改革」を実現するリーダーシップのあり方 

吉越事務所 代表

吉越 浩一郎さん

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トリンプ・インターナショナル・ジャパンの社長時代、「早朝会議」「完全ノー残業デー」「がんばるタイム」など、ユニークな仕組みを次々と打ち出し、19期連続の増収増益を達成した吉越浩一郎さん。最近では著書『「残業ゼロ」の仕事力』(日本能率協会マネジメントセンター)が、大きな注目を集めています。仕事の効率化を図り、社員の能力を引き出すためのリーダーシップについて、お話を伺いました。

Profile

よしこし・こういちろう●1947年千葉県生まれ。ドイツ・ハイデルブルク大学留学後、72年に上智大学外国語学部ドイツ語学科卒業。極東ドイツ農産物振興会、メリタジャパン、メリタ香港の勤務を経て83年にトリンプ・インターナショナル(香港)に入社。86年よりトリンプ・インターナショナル・ジャパンに勤務する。87年に代表取締役副社長、92年には代表取締役社長に就任、2006年に退任する。現在は吉越事務所代表としてこれまでの実体験を体系化し、その執筆や講演活動を積極的に行っている。2007年末に発行された『「残業ゼロ」の仕事力』と『デッドライン仕事術―すべての仕事に「締切日」を入れよ』は、共にベストセラーとなった。

社会人生活は、公私ともども外国様式でスタート

「残業ゼロ」の仕事力』

大学を卒業された後、日本企業ではなく外国企業への就職を選択されました。これは、どういう経緯からですか。

当初は、日本企業への就職を考えていました。ドイツに留学していた関係で、私はすでにその時25歳。フランス人の婚約者がいましたが、正直、当時の日本企業の初任給では2人で暮らしていくことは難しかった。彼女にしてみれば、フランスと日本の文化や生活環境の違いも大きかったでしょう。本意ではなかったのですが、やむなく給料のいい外国企業へ就職することにしました。とはいえ、今振り返ってみると、この時の選択が結果的に良かったと感じています。

日本的な習慣とは異なる状況下で、社会人生活をスタートすることになったわけですね。

最初に勤めた極東ドイツ農産物振興会は、半官半民の組織。私を含めて従業員はわずか3人でしたが、休日はちゃんと消化し、残業もしないという職場風土が徹底していました。非常に合理的だなと感じましたね。そもそも仕事とは、こういうやり方をするものだと最初から教え込まれたわけです。

その後、ドイツのコーヒー抽出機メーカーであるメリタが日本法人を設立する際、縁あって参加することになりました。1974年のことです。給料も上がり、車も与えてくれました。ところが、とても忙しい職場で、毎日夜の10時まで残業をしていました。加えて上司が日本人でしたから、毎晩のように飲みにいくのに付き合わされ、帰宅は午前様。当然のことながら、フランス人の妻には耐え難い日々が続きました。

そんな時、香港に極東事務所を設立するという話が持ち上がったので、迷わず行かせてほしいと手を挙げました。何より香港では、ドイツのように合理的な仕事のやり方が浸透していましたから。その後、トリンプ・インターナショナル(香港)に転職し、香港で6年間生活しましたが、ここでの経験が、後の私の「仕事観」を決定付けたと思っています。

集中して仕事をすれば効率も上がり、「残業ゼロ」を実現できる。そうすればワークライフバランスも良くなると。

そうです。おかげで、妻ともめることもなくなりました(笑)これが当たり前になると、日本の会社では働けません。経営者になった時には、残業が当たり前の日本的な仕事のやり方を何とかしなくてはと考えたわけです。

日本に戻ったのは86年。トリンプ・インターナショナル・ジャパンでは、売り上げが伸びない状態がずっと続いていました。思えばこの時が底で、当時の売上高は100億円だったのが、私の辞める2006年には500億円を超えました。増収増益を続けられたのも、香港で学んだことをベースに仕事の効率化を図ってきたからです。

「吉越流改革」をどのように実現していったのか

日本に戻られた時、日本の会社のどのような点に問題があると思いましたか。

吉越 浩一郎さん Photo

まず感じたのは、社内でスムーズなコミュニケーションが取れていないこと。それが原因で問題になっていたのが、バーゲンでの在庫管理でした。コンピュータが導入されていなかったこともあり、商品のサイズ単位で必要な情報が出てこないのです。本来、商品ごとの在庫状況と売れ行き、回転率などが正確に分かっていないと在庫管理はできません。それがまったくできていない状況で、売れない商品が山のように積まれていました。

ところが、現場の人間は原因がどこにあるのかを知っていたにも関わらず、なぜか会議の場でそれを言わない。なぜなら、軋轢が起きるのを避けたいからです。問題が隠蔽された状態が続くと、本当に会社はダメになる。大切なのは問題を顕在化させて、どう解決していくかということ。会社では、それがとても重要なのですが、残念ながら前述のような例が社内の至るところにありました。

問題となる部分について、一つひとつ潰していったわけですか。

その通りです。仕事は、正社員、パート・アルバイト社員、そしてIT(コンピュータ)の3つで進めていきます。正社員には、仕事を効率的に進められるようなアイデアを出す役割が求められています。ところが、当時のトリンプはそれがまったくできていなかった。

今、世間では「格差」云々の問題が言われています。しかし、本来正社員の立場にある人は非正社員の人やコンピュータでできる仕事を作り出しながら、自分はもっと生産的な仕事をしなくてはいけないはず。それなのに、非正社員の人と同じような仕事をしていたら、「同一労働同一賃金」の考え方の下では、非正社員と同じ給料になっても仕方がありません。

現実的にも、正社員なのに非正社員の人とあまり変わらない仕事をしている人が少なくありません。非正社員の人たちが怒るのも当然です。正社員が生産的な仕事をしていれば、問題は起きないのですから。昨今の格差問題の本質は、この部分にあるのではないでしょうか。

正社員というのは仕事のパート化、IT化が行える人。問題点を発見し、自立的に改善していける人。そして、創造的な仕事をどんどんとやっていける人。それが本当の意味での正社員だと思います。

なるほど。まずは社内にある仕事を全社的な視点から棚卸しする。それを具体的なプロセスへと分け、誰にその仕事をやってもらうかといったBPR的な観点が必要なのですね。

それらを一つひとつ実現していけば、仕事のスピードや効率は飛躍的に良くなります。こうした点から考えても、コンピュータを使えていない会社というのは、最悪の状態にあると思います。

ワークライフバランスは大事ですが、その前にちゃんと正社員としてやるべき仕事ができているかどうか、問い直す必要があるのではないでしょうか。正直、日本企業でそれができている正社員は少ないというのが私の感想ですね。

トリンプの社長時代、効率的に仕事を進めるために、いろいろな仕組みを導入しました。

仕事がはかどるためには幾つかの条件が必要です。まず、職場が静かであること。そして、何時までに終えるといった「デッドライン」を引いて集中すること。それができている人は非常に少ない。

実際問題として、ワイワイガヤガヤしたところでは仕事はできません。勉強する時もそうでしょう。集中が必要です。個室や図書館で勉強するのと同じような状況を、会社でも作らなければいけないのです。

一方、外国企業では営業のある最先端の部署でも、シーンと静まり返っています。そうすると、それに相応しい仕事の与え方が必要になってきます。しかし、日本企業では「報連相」をよしとした仕事の与え方をしている。曰く、常日頃のコミュニケーションが大事だと。とんでもないことです。これでは、仕事に集中できるわけがないでしょう。こうした環境を作るために「ノー残業デー」の後、「がんばるタイム」を設けたわけです。

一連の社内改革を行った際に、社員から反発は起こりませんでしたか?

吉越 浩一郎さん Photo

それはありましたよ。人間というのは、新しいことを始めようとすると、反発をするものです。でも、決して諦めないこと。そして、成功するまでやり続けること。これが改革を進める際に最も重要です。

そして、改革の必要性を話し続ける中で、賛同者を得ていくことです。考え方や価値観など、いろいろな情報の共有化を進めていけば、細かな説明をする必要がなくなってきますから。

人は最初は言われたことであっても、情報を共有化し、一緒になって成功体験を積むと、自分が始めたのだという実感を持つことができます。その経験が得られれば物事はうまく流れていきます。そこからリーダーシップも育まれていきます。

社内改革では、最初に「早朝会議」をスタートさせ、社員をロジカルシンキングやスピード感のある仕事のやり方に慣れさせた後、「ノー残業デー」に始まるさまざまな仕組みを行っていきましたね。

やると決めたからには徹底的にやりました。「ノー残業デー」にしても、決められた時間になったら社内の電気のスイッチを自ら消していきました。守れなければ、「なぜできないのか」とトコトンやり込めましたから。

結局、すべてが会社を良くするためですから、そこには上下関係はありません。会社のために何がベストかをお互いに考えることが重要なわけで、もう毎日が「ガチンコ勝負」でした。


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