メンバーが自発的に動き、新たなアイデアが次々生まれる企業へ
ヤッホーブルーイングを変えた、チームビルディング研修とは(前編)
株式会社ヤッホーブルーイング 代表取締役社長
井手 直行さん
「よなよなエール」「水曜日のネコ」「インドの青鬼」など、個性的なクラフトビールの製造・販売で知られるヤッホーブルーイング。1996年の設立から20年ほどでクラフトビールの業界シェアトップとなり、現在、ビール業界全体でも大手ビールメーカーなどに次いで、第6位の売上を誇ります。同社がめざましい成長を遂げた陰には、「チーム」の力があったと語るのが、同社代表取締役社長であり、社員からは「てんちょ」の愛称で親しまれる、井手直行さん。常に複数の社内プロジェクトが稼働し、常識にとらわれない発想で挑戦する風土があるという同社では、どのようにして社員自らが手を挙げ、アイデアが生まれやすい環境をつくっているのでしょうか。じっくりとお話をうかがいました。
いで・なおゆき●ヤッホーブルーイング代表取締役社長。よなよなエール愛の伝道師。1967年生まれ、福岡県出身。大手電機機器メーカー、広告代理店などを経て、1997年ヤッホーブルーイング創業時に営業担当として入社。地ビールブームの衰退で赤字が続くなか、ネット通販業務を推進して2004年に業績をV字回復させる。現在まで12年連続増収増益。全国200社以上あるクラフトビールメーカーのなかでシェアトップ。2008年社長就任。ニックネームは「てんちょ」。表彰式などでは仮装をし、製品および企業PRを行うことでも知られている。
「ビールに味を!人生に幸せを!」をキャッチフレーズに、画一的だった日本のビール市場に新たな風を吹き込むべく、1996年にエールビール専門メーカーとして誕生。ビールの味やパッケージだけではなく、社内風土も独創的で、メンバーは互いをニックネームで呼び合い、部署名も「よなよなエール広め隊(広報)」、「ヤッホー盛り上げ隊(人事総務)」、「ハッピーお届け隊(物流担当)」と遊び心が満載。
「お通夜みたい」な朝礼で感じた、チームビルディングの必要性
まずは、井手社長がヤッホーブルーイングに入社したきっかけについてお聞かせください。
高専を卒業した後、電気機器メーカーや環境アセスメント系の企業など、何社か経験したのですが、理想と現実のギャップに打ちひしがれ、しばらくバイクで旅に出ました。旅をしながら自分の価値観について考えていたら、「人が好き」「自然が好き」というのが自分の中で大切な軸であることに気付いたんです。それで縁もゆかりもなり軽井沢に移住して、広告代理店で営業として働き始めたのですが、その時のお客さんとして出会ったのが、現在の星野リゾートの代表で、ヤッホーブルーイングの初代社長となる、星野佳路でした。当時の僕は生意気な若造だったのですが、本音で話すところを気に入ってくれたのか、星野に「今度うちでビール事業をやるから手伝って」と言われたのがきっかけで、97年に営業として入社しました。
二代目社長に就任されたのは、2008年ですね。「よなよなエール」が現在のような知名度を得るまでには、さまざまな苦労があったかと思います。
そうですね。入社したときは地ビールブームまっただ中だったので、もう大忙しで。小売店から殺到する問い合わせに「生産が追い付かないんです、すみません!」と謝る毎日でした。幸せな悩みですよね。ところが、ブームが去ると、パッタリ注文がやみました。残ったのは、大量の在庫。たとえ売れなくても、社員で飲んだり周りに配ったりすれば酒税を回収できなくなってしまうので、自分たちが丹精込めて造ったビールを破棄するしかなかった。ビール缶のプルタブを開け、流し続ける日々が続きました。まさにどん底です。創業から8年間赤字が続き、社員もどんどん辞めていきました。残ったメンバーも、かつてはそれなりに仲が良かったのに、業績が悪くなると疑心暗鬼になり、派閥ができたり陰口が横行したり……。会社の雰囲気は最悪でした。
変化の必要性を感じたのはいつごろでしょうか。
2004年にインターネット販売を始めると、業績が少しずつ回復していきました。でも、回復していったのは業績「だけ」だったんです。企画を考えたりメルマガを作ったりして売上が上がっても、誰も喜ばない。それどころか「注文が入ると残業が増えて嫌だ」と迷惑がられ、誰も協力してくれない状態が続きました。ある日、中途入社した社員が長野にある醸造所の朝礼を見て、「お通夜みたいですね」と言うんです。何とかメンバーとコミュニケーションを取ろうと、朝礼で「全員一言ずつ発言しよう」と呼びかけても、「特にありません」「通常業務です」と言うだけ。
みんな、真面目に仕事をしていないわけではない。でもチームがうまく機能していなかったんです。「一人」+「一人」の力は、「二人」以上になるべきです。でも、かみ合っていなければ一人で仕事をするよりも効率が悪くなり、二人合わせても一人以下の仕事しかできない。「それなら協力せず、一人でやったほうがいい」という悪循環が生まれていました。周りにゴミが落ちていても、誰も拾わない。最後に帰宅する人でも、電気を消さない。小さなことですが、周囲が見えていない、関心がない状況とはこういうことです。物理的に見えていないのではなくて、人間は見ようと意識しないものは見えない生き物なんです。
ヤッホーブルーイングでは、「2020年にはビール市場のシェア1%を取る」という目標を掲げていました。そのためには、個人に依存する成長では限界があります。ビジョンをしっかり共有して、皆で成長して、皆の力で時代を解決していく、「チーム」の力が必要でした。しかし、いくら我流でチームを団結させようとしてもうまくいきません。そこで、まずは僕自身がチームビルディングについて勉強することにしました。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。