“2枚目の名刺”が若手を育て、シニアを活性化
楽しく学ぶ「パラレルキャリア」の人材育成効果とは(後編)[前編を読む]
法政大学大学院 政策創造研究科 教授
石山 恒貴さん
2枚目の名刺で自分のキャリアを主体的に、豊かに再構築する
パラレルキャリアは、日本の伝統的なキャリア観に一石を投じるものです。石山先生は、これからのキャリアのあり方についてどう考えていらっしゃいますか。
これからのキャリアのあり方を考える上で重要になってくるのが、「キャリア権」の問題です。キャリア権というと、昇進する権利や、就きたいポストに就ける権利を行使させろ、というような危険な主張だと誤解されやすいのですが、そうではありません。そもそもキャリアというのは、広い意味での人生の役割であって、仕事で上を目指したり、難しい資格を取ったりすることがキャリアのすべてではないと、私は考えています。キャリア権とは、これまで職場に委ねきりだった自分のキャリアを、もう一度自らの手に取り戻し、人生のさまざまな役割を通じて、主体的に、豊かに自己実現していくこと――これに尽きると思いますね。だから、決して一方的に主張したり、行使したりするものではない。個人がキャリア権を守り、実現していくためには、周囲がそれを尊重すると同時に、本人の主体性も求められるのです。たえず自分を見つめ直し、学び直していかなければいけません。
パラレルキャリアがそのきっかけになると。
そのとおりです。「二枚目の名刺」共同代表の廣優樹さんが、こんなことを言っています。「会社人としての1枚目の名刺だけでなく、2枚目の名刺を持つことを通じて、自分の価値観や実現したいことが明確になっていく。1枚目の名刺が自身のアイデンティティーのようになっていた人にとっては、“自分”が自身の中で再定義されていくわけです。そのうち、1枚目、2枚目という枠自体に、あまりこだわりがなくなっていきます」と。複数の活動を通して自分の価値観がより明確に形成され、自分が再定義されていくというキャリアのあり方は、マーク・サビカスが唱える「キャリア・アダプタビリティ」の概念にも通じます。キャリア・アダプタビリティとは、キャリアの適応力のこと。不確実で、予測不可能な社会に適応していくために、自分というものをいかに再構築していくか、という考え方です。そのカギは、自分自身の価値観にほかなりません。会社中心の価値観を問い直し、自分の本当にやりたいことに照らし合わせて自分の役割を再定義できる人が、職場でもいきいきと働けて幸福になれるのではないでしょうか。
ありがとうございます。では、最後に、社員のキャリア支援や教育・育成に取り組む人事の方々に向けて、メッセージをお願いします。
冒頭でも申し上げましたが、人事部の方は、いろいろな交流会や勉強会などに参加される機会が多いので、すでにパラレルキャリアを始めているという方も少なくないでしょう。まだ始めていないという方がいらっしゃったら、まずご自身から一歩踏み出して、その楽しさを体験してみてください。自分は体験しないで、他の社員の方にばかり、パラレルキャリアを始めよう、外へ出て学んできましょうと勧めても、説得力に欠けますからね。ただし、いきなり大それたことを始める必要はありません。気軽に、楽しく、まず一歩。いいえ、半歩から踏み出してみましょう。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。