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キーパーソンが語る“人と組織”

組織に関する問題を「人」「関係性」に働きかけることで解決
いま日本企業に必要な“組織開発”の理論と手法とは(前編)

南山大学 人文学部心理人間学科 教授、人間関係研究センター センター長 、
人間文化研究科 教育ファシリテーション専攻

中村 和彦さん

「人と人との関係の質」は「結果の質」に大きく影響する

 組織にはハードな側面とソフトな側面があるとおっしゃいましたが、そもそも組織開発とは、どのように定義されるものなのでしょうか。

組織開発は、「部署や部門間、組織全体の効果性と健全性を高めることを目的に、プロセスに気づき、働きかけていくアプローチ」と定義することができます。英語では「Organization Development」(OD)。組織が発達、成長するということですね。そのためには、組織構成員である一人ひとりがプロセスに気づき、働きかけ、変革できる力を身に付けていくことが必要です。

ここで「プロセス」という言葉を用いましたが、組織開発について語る際には特殊な使い方をします。一般的にプロセスとは、結果に対する「過程」という意味ですが、これでは「仕事の仕方」のように理解されてしまいます。組織開発においてプロセスとは、仕事の仕方も含めて、「人と人とがどのように関わっているか」「どんな風にコミュニケーションをとっているのか」「どのように決定しているのか」「それぞれがどんな関係にあるのか」など、「ヒューマンプロセス」という意味で使います。人と人との関係の「HOW」のレベルのこととして用いているのです。

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重要なのは、人と人との関係の質は、結果の質に大きく影響するということです。例えば、コミュニケーションがうまくいっていなかったり、ぎくしゃくしたりしていると、最終的にはお互いのアイデアが活かされなかったり、ミスが生じたりします。つまり、「プロセス・ロス」が起こるのです。

このような事態を解消するには、「どんな風にコミュニケーションをとっているのか」「それぞれがどんな関係にあるのか」ということを、自分たちで気づかなければなりません。うまく行っていないことに気づいたら、自分たちで働きかけて改善していく。それが組織開発のアプローチです。

組織開発と言うと、チームや組織をプロフェッショナル(専門家)が開発していくことであるかのように聞こえますが、そうではありません。プロフェッショナルはその手伝いをするだけです。基本的には、組織の中にいる人たちがプロセスに気づいて、変革に取り組む。その結果、永続的にチームや組織が良くなっていくというのが組織開発の根本にある考え方です。

 これからチームや組織として戦う必要があるとすると、チーム力が低下しつつあると言われている日本企業は不利だと感じました。

現在は上司が指示を出し、部下はそれに従っていればいいという時代ではありません。競争が激化し、価格の安さだけではなく、創造的なものを作ることで勝負していかなければならない状況下では、自分で考える「主体性」と、みんなで考える「横の連携」が必要です。

しかし、現在の50代や60代の人たちは、相変わらず昔のままの発想で数字を持ち出し、指示・命令型のマネジメントを行っています。これでは、創造的な発想を生むような協働関係やともに学ぶ関係が育まれません。マネジメント・スタイルの転換が、いままさに必要とされているのです。

営業組織を例に取ると、全国のトヨタの販売会社の中でも顧客満足度の高いことで知られるネッツトヨタ南国は、営業会議に2時間をかけているといいます。営業の仕事はどうしても個業化しやすく、自分のパートだけ、自分のお客様だけ、ということになりがちだからです。ミーティング会議でじっくりと情報を共有し、ともに学ぶ。そして、お互いにサポートしあう。メンバー間の関係性を密にすることで、仕事が個業化することのない組織を構築しているのです。そのような体制が、顧客満足度ナンバー1をずっと続けていく結果へと結び付いています。

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このように関係性のマネジメントは、重要な経営課題の一つなのです。しかし、多くの経営者に「経営課題は何ですか?」と聞いても、「グローバル化」「収益性の向上」「競合との差別化」といった回答が多い。「社員同士の関係性」「モチベーション」「社員の主体性」「会社の風土のマネジメント」など、組織開発に関する課題はなかなか出てきません。この状況をどうやって変えていくかを考えることが、組織開発に関する問題のスタートだと思います。

 組織開発が経営課題として認知されていないのは、どのようなことが原因なのでしょうか。

緊急の経営課題としては上がっていませんが、多くの経営者は、人と人との関係性が大事だと認識しています。しかし、そのまま放っておけば悪化してしまうという問題意識は低いように思います。収益や利益など、当面の経済的価値に目が向いている経営者が多いからです。

「人と人との関係性が大事である」というのは、人間尊重の価値観です。このような価値と経済的価値との間には、ジレンマが起こることがあります。人間的な価値に投資して関係性を良くしようとしても、すぐに業績に結び付かず、短期的には経済的な価値と両立しないことが多いからです。しかし、関係性を大事にし、社員のモチベーションが高めていくことで、最終的に経済的な価値も高まるというのが、組織開発の考え方なのです。決して、経済的な価値を否定しているわけではなりません。

日本企業では四半期決算の成果が求められ、中には1ヵ月ごとに収益の状態を厳しくチェックする企業もあります。しかし、これでは経済的な結果ばかりに目が向いてしまいます。社内で数値ばかりが語られるようになると、社員は自分が会社から大事にされていると思えなくなります。社内で会議を行う場合も、数値のことだけではなく、人の想いや努力、その体験から何を学んだのかについて話したりするなど、人間的側面や人と人との関係性について語られるようになると、組織は確実に変わっていくと思います。


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