千葉商科大学・島田晴雄学長からの緊急提言!
これからの日本経済と再構築すべき人事戦略(前編)
~メガトレンドから見た、日本企業の現状と課題~
千葉商科大学 学長
島田晴雄さん
正解のない時代、必要なのは「教える」ことではなく「議論させる」こと
では教育について、どのような問題があると思われますか。
戦後、日本は長い間「アメリカに追い付け、追い越せ」を目標にやってきました。そして1986年、一人当たりの所得で追い付きました。この段階で、世界の先頭集団に入ったと見ることができます。ただ先頭集団となると、誰かの後ろに付いていけばいい、ということにはなりません。自ら、前を伺わなくてはいけません。世の中の動きを見ながら、新しい製品やサービスを作り出すということです。これまでのように、どこかの国のやり方をまねすればいい、ということではない。全てが前人未到の世界なのです。
だからこの段階に入ったら、雇用と教育の総力を挙げて、イノベーションを起こすことのできる人材を育成しなくてはなりません。ところが、日本では、「あらゆる問題には唯一の正解がある」という教育が大きな問題です。確かに高度成長期のようなキャッチアップの時代には、このような教え込む教育は良かった。アメリカからノウハウや知識を持ってきて、疑いもなくそれを吸収し、身に付けていくことが奨励されていました。当時、日本企業はアメリカに多くの使節団を送り、最先端の技術を学んで帰ってきました。それを皆に教育し、マスターさせて、製品化していったわけです。逆に製品化するスピードは、アメリカよりも速かった。アメリカは教育することに時間がかかるからです。アメリカの教育は、あらゆる問題に唯一の正解があるとは教えていません。なぜなら、アメリカはずっと最先端にいたからです。正解や見本となるものがないので、常に議論しなければならない。アメリカでは議論することが教育で、日本とは明らかに違います。これは、今でもそうです。
議論すると時間がかかりますから、遅くなるのは当然ですね。
その結果、製品化の部分では日本に負けるということになってしまいました。自動車や電化製品などはその良い例です。だからこそこの部分で日本は高度成長を実現し、アメリカに追い付くことができたのです。しかし、同じ先頭集団に立ったのはいいのですが、今では学ぶことのできる正解がありません。結果的に、日本企業は自ら考えることができず、そこで停滞してしまい「失われた20年」となってしまったというわけです。逆に、東南アジア諸国から追撃を受け、シンガポールには平均所得で抜かれることになってしまいました。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。