無期転換ルールの対応~企業は? 有期労働者は? 最新調査報告
アイデム人と仕事研究所 所長/社会保険労務士 岸川 宏
さらに、無期転換権を行使すると回答した者が、労働条件・待遇の向上を求めている割合を見てみると、パート・アルバイトでは70.9%、契約社員の85%が、「現状よりも正社員に近い労働条件・待遇になりたい」と回答しています。
現在では、法改正への認知は低いものの、法改正の認知が高まれば無期転換を希望する労働者が多く発生しそうです。
特に、契約社員においては、改正についての認知も高く、無期転換権の行使、さらに労働条件・待遇向上への期待値が高い結果となっています。
企業は無期転換後の待遇について消極的?
労働者にしてみれば、転換後の労働条件・待遇の向上を期待するところですが、企業側はどのように考えているのでしょう。
無期雇用に転換した後の労働条件(労働時間、賃金、仕事内容、福利厚生)について、パート・アルバイト雇用では概ね5割前後が、契約社員雇用では概ね4割前後が、「無期雇用転換する前と変えない」と回答しています。パート・アルバイト雇用では、今まで通りの労働条件とする傾向がやや高く、契約社員雇用については「今まで通り」と「正社員に近づける」が拮抗しています。
転換後の労働条件については、単に、無期雇用の典型であった「正社員」に近づければ、良いということでは無いかもしれません。
労働契約法20条では、無期雇用者と有期雇用者で、不合理に労働条件(待遇)を相違させることを禁止しています。
有期から無期に転換しただけで、容易に賃金やその他待遇を上げることは、他の有期雇用者との不合理な待遇の差につながり、労働契約法違反となる可能性があります。
反面、不合理な差としないために、労働時間や仕事の内容を正社員に近づけることなどを無期転換の条件とすることは、不利益な変更、もしくは無期転換をさせないための行為と、とられてしまうかもしれません。
今まで、短時間で働く事がメリットでパート・アルバイトで働いていたにもかかわらず、無期転換するならフルタイムで働けと言われるとどうでしょうか?人によっては嬉しい、また別の人にとっては嬉しくない事かもしれません。
企業は、「優秀な人材が定着する」ことをメリットとし、「長期勤続を期待しない人材が無期雇用となる」ことをデメリットと感じています。
このようなジレンマを回避するには、どのような人材に、無期雇用に転換してもらい、どのように働いてもらうかを事前に設計しておく必要がありそうです。
そして、その設計に基づいた採用、契約、更新が行なわれる事が重要となります。
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文/岸川 宏(きしかわ ひろし)
アイデム人と仕事研究所 所長/社会保険労務士
大学卒業後、リゾート開発関連会社へ入社。飲食店部門での店舗運営を経験後、社会保険労務士資格を取得。社会保険労務士事務所にて、主に中堅・小規模企業の労務相談、社会保険関連手続きに従事した。
1999年、アイデム人と仕事研究所に入社。労働環境の実態に迫る情報提供を目指し、社内・外への情報発信を続けている。2015年4月より現職。
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