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社会起業家

世のため、人のため、
そして自分自身のために働きたい!
“社会を変える”ビジネスの可能性とは

内閣府が2013年2月に実施した調査によると、「何か社会のために役に立ちたい」と考える人の割合は66.7%。かつては4割程度だったが、バブル崩壊 以降6割台で推移し、ここ数年は7割近くまで増えている。高まる社会貢献への熱を、仕事という形で具現化する新しいモデル――それが「社会起業家」だ。受 け皿はまだ多くないが、やりがいと生活の糧の両立を目指して、その狭き門を叩く若者は後を絶たない。

「社会を良くするためにもうける」のが使命

世のため、人のために役立つ活動といえば、まず思いつくのはボランティアだろう。しかし経済的自立が見込めない以上、それはビジネス=仕事にはなり えない。「社会起業家」とは、社会的課題の解決に資する新しいビジネスモデルを創出し、実践する起業家のこと。欧米では「ソーシャルアントレプレナー」と 呼ばれ、ハーバード大やスタンフォード大などのエリート学生たちに人気の高い進路の一つともいわれる、れっきとした“職業”である。

介護や子育て、環境保護、貧困、差別、街づくりなど扱う課題はさまざま。社会起業家は、そうした難題の解決にビジネスの手法を取り入れ、事業収益を 上げることで、社会貢献活動を継続的・安定的に展開していく。そこが、善意の寄付や行政などからの補助金に依存せざるをえない、ボランティア団体や従来の NPO法人との決定的な違いだ。実際、社会起業家という概念が注目されるようになったのも、“小さな政府”を志向したレーガン政権下のアメリカでNPOへ の補助金がカットされ、多くの団体が運営に窮したことが発端だった。

社会起業家の多くは、法人としてNPOを設立しているが、近年は株式会社や有限会社など一般の営利企業と変わらない形態をとるケースも増えている。 しかし一般企業が自らの発展や株主還元のために利益を追求するのに対して、社会起業家は「社会を良くするためにもうける」のが使命だ。社会貢献事業から得られた利益は、さらなる社会貢献に再投資される。

日本にもモデルが続々、迷える若者の選択肢に

イメージ

世界的によく知られている社会起業家として、2006年にノーベル平和賞を受賞した、グラミン銀行の創設者・経営者のムハマド・ユヌス氏がいる。バングラ デシュの農村等で貧しい人々に無担保融資を行い、世界の貧困問題解消に尽力した。画像は氏の著書『ムハマド・ユヌス自伝 貧困なき世界をめざす銀行家』 (早川書房)。

実例を挙げよう。アメリカではすでに定着している社会起業家が日本に登場し始めたのは、2000年代に入ってから。04年にNPO法人フローレンス を立ち上げた駒崎弘樹さんは、保育業界最大の難問と言われる「病児保育問題」に取り組む社会起業家だ。子育て経験豊富な近所の女性たちが仕事に行く親に代 わって、風邪などの病気で保育園に預けられない子どもの世話をするというサービスを事業化し、大きな注目を集めている。NPO法人TABLE FOR TWO Internationalを創設した小暮真久さんは、企業の社員食堂でカロリーを抑えた食事を提供する一方、その食事代の一部を開発途上国の学校給食支 援に充てるプロジェクトを07年から展開、途上国の飢餓と先進国の肥満という二つの問題の同時解決を目指している。また、株式会社マザーハウス社長の山口 絵理子さんは先進国との対等な経済活動による途上国支援を志し、06年に弱冠25歳で起業。バングラデシュの天然素材を使った高品質バッグを現地で生産 し、輸入・販売するビジネスを立ち上げた。

こうした先駆者に続く起業家も、若い世代を中心に次々と輩出されている。実際に活躍するモデルが増えれば、社会起業家への関心はさらに広がるだろ う。「人の役に立ちたい」「自分のアイデアで世の中を変えたい」という人々の潜在欲求が、東日本大震災を機にさまざまな形で表面化している。そうした志を 仕事として実現できるところに、社会起業家のやりがいがあるからだ。それまで誰も手をつけなかった分野でビジネスを展開するとなれば、リスクや障害は不可 避。安定は望めず、スタートアップ時は生計を立てるのも容易ではない。それでもあえて挑もうとする若者の選択には、伝統的な就労観の揺らぎも見てとれる。

支援・育成の仕組みづくりは始まったばかり

では、社会起業家になるにはどうすればいいのか。先駆者たちは、まさに徒手空拳で道なき道を切り開いてきた。近年は、そうした志を支える社会的基盤 も徐々に整備されつつあるが、まだ決して多くはない。09年に設立された社会起業大学は、社会起業家の育成に特化した、日本で初めての社会人ビジネスス クール。4ヵ月の在学期間中にソーシャルビジネスの理論と実践を学べるだけでなく、卒業後も設立登記から資金調達支援まで、起業に向けた手厚いサポートを 受けられるのが特徴だ。正規の教育機関においても、大学あるいは大学院が社会起業家育成のための講座やカリキュラムを導入する事例は確実に増えている。

すでに起業に向けた構想やビジネスモデルがある程度固まっている場合は、事業アイデアのコンテストやより実践的な養成講座への参加が“登竜門”にな るかもしれない。社会起業家の育成・輩出を目指すNPO法人ETICでは、2013年夏から「ソーシャルベンチャー・スタートアップマーケット」と題する プロジェクトをスタート。有望な社会起業家の候補生を2年間で100名選抜し、一律50万円のスタートアップ支援金や最大で450万円の事業化支援金をは じめ、さまざまな有形無形の経営資源を獲得できるチャンスを提供する。

また、社会起業家の実態や仕事ぶりを深く知りたいという人には、すでに事業を立ち上げている団体でインターンとして働いてみることも有意義だろう。受け入れている起業家は多く、上述のETICではそうしたインターンシップ・プログラムも用意している。

“思い”の強さで不安を乗り越え、人を動かす

経済産業省の研究会が07年11月~08年1月にかけて、ソーシャルビジネスの事業者を対象に行ったアンケートによると、1団体当たりの年間収入(売上 高)については1000~5000万円未満の事業者が26.4%と最多数を占めた。収支が赤字の団体も27.4%と少なくないが、一方で3年後の収入増を 見込む事業者は6割を超え、売上規模が大きくなるにつれて黒字団体の比率が高くなる傾向もみられた(下記グラフ参照)。社会起業家という仕事はほとんどの 場合、“すぐには”もうからない。個人の収入も、立ち上げた事業の内容や成長の段階に応じて大きく変動せざるをえないということだ。

出典:経済産業省「事業者アンケート」(2008年)

どんなにすぐれた課題解決のアイデアをもっていても、事業が軌道に乗るまでの、こうした資金不足や生活の不安に耐えられるメンタルの強さがなければ、社会 起業家として働き続けることは難しい。何よりも大切なのは社会貢献そのものに対する意欲――その人自身がどれだけ社会を変えたいのかという思いの強さだろ う。社会に変化を起こすには、それに共感し、協力してくれる人々の存在が欠かせないからだ。思いがあるところに、人は集まる。社会起業家を成功に導くの は、自らの信念と熱意で人を動かし、巻き込んでいく「人間力」かもしれない。

※数字や記録などは2013年7月現在のものです。

この仕事のポイント

やりがい「人の役に立ちたい」「自分のアイデアで世の中を変えたい」という志を仕事として実現できる
就く方法・社会起業家の育成に特化した社会人ビジネススクールへの通学
・事業アイデアのコンテストや実践的な養成講座への参加
・すでに事業を立ち上げている団体でインターンとして働く
必要な適性・能力・「社会を変えたい、良くしたい」という強い意欲
・資金不足や生活の不安に耐えられるメンタルの強さ
・自らの信念と熱意で人を動かし、巻き込んでいく「人間力」
収入・ほとんどの場合、“すぐには”もうからない
・立ち上げた事業の内容や成長の段階に応じて収入は大きく変動
※NPOフローレンス代表・駒崎さんは、起業して1年目の月収はおよそ20万円だったという

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