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人事労務専門誌『ビジネスガイド』提携  
トラブルをいかに最少限度で食い止めるか?
セクハラ・パワハラに関するトラブル発生時の対応実務と解決手順

奥川貴弥/弁護士 奥川法律事務所

ビジネスガイド 日本法令発行の『ビジネスガイド』は、1965年5月創刊の人事・労務を中心とした実務雑誌です。労働・社会保険、労働法などの法改正情報をいち早く提供、また人事・賃金制度、最新労働裁判例やADR、公的年金・企業年金、税務、登記などの潮流や実務上の問題点についても最新かつ正確な情報をもとに解説しています。ここでは、同誌のご協力により、2007年9月号の記事「セクハラ・パワハラに関するトラブル発生時の対応実務と解決手順」を掲載します。『ビジネスガイド』の詳細は日本法令ホームページ http://www.horei.co.jp/ へ。

1.セクハラ・パワハラに対する一般的対応

セクシュアル・ハラスメント(以下、「セクハラ」という)は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により、当該労働者の労働条件につき不利益を受け、または当該労働者の就業環境が害されることをいいます(男女雇用機会均等法11条1項 以下、単に「均等法」という)。東京都労働相談情報センターに寄せられたセクハラに関する相談件数は、平成15年1,369件、同16年2,009件と増加傾向にあります。

一方、パワー・ハラスメント(以下、「パワハラ」という)は、法律上の規定はありませんが、一般的には、労働者に対する嫌がらせ、いじめ、暴力、暴言、叱責、差別など、広くセクハラ以外の労働者に対する違法行為を総称して使われているようです。なお、本稿では、セクハラ・パワハラが発生した際の事業主の対応を取り上げていますから、事業主が解雇、退職勧奨、配転などをすることによる、事業主が自ら行ったパワハラは除外します。

セクハラについては、従来男性に対するセクハラは均等法上保護の対象となっていませんでしたが、平成19年4月施行の改正均等法では男女区別なく、男性に対するセクハラも保護の対象とされることになりました。

ところで、均等法では、従来事業主は、セクハラによって労働者の就業環境が害されることのないよう雇用管理上必要な配慮をしなければならないとされていましたが、改正により労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならないとされました(同11条1項)。

セクハラでいう「職場において」の職場とは、労働者が通常就業している場所よりずっと広く、取引先の事務所、取引先と打合せをするための飲食店、顧客の自宅等であっても、当該労働者が業務を遂行する場所であれば、これに含まれることに注意してください。

また、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」が定められました(平成18年厚生労働省告示第615号。以下、「指針」という)。ここでは、東京都産業労働局がまとめたものを引用しておきます。

(1)セクシュアル・ハラスメントの内容・セクシュアル・ハラスメントがあってはならない旨の方針を明確化し、周知・啓発すること。
(2) 行為者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等に規定し、周知・啓発すること。
(3)相談窓口をあらかじめ定めること。
(4) 窓口担当は、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。また、広く相談に対応すること。
(5)相談の申出があった場合、事実関係を迅速かつ正確に確認すること。
(6)事実確認ができた場合は、行為者および被害者に対する措置をそれぞれ適切に行うこと。
(7)再発防止に向けた措置を講ずること。
(8)相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周知すること。
(9)相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益取扱いを行ってはならない旨を定め、周知すること。

2.セクハラ・パワハラと賠償責任

セクハラ・パワハラは、被害者の人格権(個人の人格に本質的に付帯する個人の生命、身体、精神および生活に関する利益)の侵害として不法行為(民法709条)を成立させます。

加害者は当然に慰謝料などの損害賠償責任を問われ、また、事業主もセクハラ・パワハラについては使用者責任(民法715条)を問われます。

使用者責任は、被用者(従業員)のセクハラ・パワハラなどの不法行為が事業の執行についてなされた場合に損害賠償責任を負うものですが、事業の執行についての範囲は相当広いことに注意してください。また、事業主は、労働者に良好な職場環境を保つべき配慮義務(安全配慮義務)違反として損害賠償責任を負います。

これらの賠償の内容は単に慰謝料に限らず、セクハラ・パワハラによって会社を退職せざるを得なくなった場合は、賃金の6ヵ月分~9ヵ月分が逸失利益として認められることもあります。このようなことから、セクハラ・パワハラが判明した場合に被害者が退職しなくともよいような環境を整える配慮が必要とされます。

3.事実確認のポイント

以下では、事業主が事実確認をするうえでのポイントを解説していきます。

(1) 事実確認の対象
事実の確認は、セクハラの行われた日時、場所、行為の具体的態様、目撃者の有無、加害者との関係(交際の有無などの人間関係)、加害者・被害者(配偶者の有無)等を確認してください。

(2) 相談担当者
相談担当者は2名以上とし、被害者(女性の場合)が相談担当者に女性を希望した場合は、その点の配慮も必要です。むしろ相談担当者の1人は女性にすべきと思います。相談担当者は聞き上手な人を選任してください。時間をかけてじっくり話を聞くだけで被害者の信頼感と満足感が得られ、それが解決に大きく寄与します。さらに公正を期すために、被害者が組合に加入している場合には、被害者の希望により組合役員を同席させることも考慮しましょう。被害者が親族、友人、弁護士の同席を要求する場合は、親族のうち配偶者、両親、兄弟などの親族や、弁護士の同席はやむを得ないと思います。

(3) 相談の記録
被害者の主張する事実は書面に書いてもらったほうがよいと思います。さらに場合によっては被害者の同意を得て録音をすることも考えてください。

(4) 証拠収集
事実確認は当事者の供述のみに頼るのは危険があるので、供述以外の証拠の収集をしましょう。例えば加害者からの手紙、FAX、メール、電話の着信記録などが残っていれば、原本もしくはコピーを提出してもらうことなどです。また、目撃者や加害者、被害者から相談を受けた人がいれば、それらの人から事情聴取をしましょう。

(5) 事実の整理
被害者の事情聴取が終わった段階で、事実の整理が必要です。被害者の主張を整理・書面化し、被害者に書面の記載に誤りがないか確認することも必要です。また、被害者からの主張の事実の問題点、疑問点を整理し、状況によっては被害者から再度事情を聴取してください。というのは、被害者の主張が明確でないと、加害者から事情を聞く際に確認すべき対象やポイントが明らかにならず、何度も事情聴取を繰り返すことになり、効率が悪いばかりではなく、加害者に迷惑をかけることになり、その後の協力が得られなくなる恐れがあるからです。なお、ここで便宜上「加害者」といっていますが、あくまで「被害者の主張によれば」という前提があることを注意してください。

(6) 加害者からの事情聴取
加害者に聴取すべき内容をあらかじめ整理しておきましょう。事情聴取にあたっては、被害者が申立てをしたことを理由として、被害者に対し嫌がらせなどをしないように注意してください。状況によっては当面被害者への接触を禁止することを申し渡してもよいと思います。加害者からも質問事項に書面で答えてもらうか、書面化したものを見せて確認をしてもらうなど、基本的には被害者に対する事情聴取(特に(3)(4))と同じです。

(7) 委員会の設置
特に目撃者がいない1対1のセクハラでは、事実確認が重要です。裁判例で、部下が上司に対し強姦致傷罪で告訴し、上司が逮捕され、刑事裁判で結局無罪となったケースがあります(東京地判平成16年11月29日・判時1894号27頁参照)。ちなみにこのケースでは、上司は解雇処分を受けています。このように事実の確認は困難です。セクハラを訴えた事件の中には、上司に対する復讐、ふられた腹いせなども絶対にないとはいえません。筆者の受けた相談では、10年前の交際のトラブルをセクハラと称して何年間も慰謝料をとっていたケースがあります。
事実確認が当初から困難であることが予想される場合は、委員会を設置し、かつ外部から弁護士などに委員会に参加してもらうなど慎重に対応しなければいけません。もし事実が確認できない場合は、セクハラがなかったとして取り扱うほかありませんが、セクハラが認定できないとしてもそのようなトラブルが発生したことを前提にしてその防止策をとる必要があります。

4.法的評価の問題

事実確認がなされても、それがセクハラ・パワハラに該当するかどうかの問題があります。

均等法上のセクハラの成立は広く認めて、その対応をしましょう。しかし、損害賠償責任を伴う民法上の違法なセクハラを認定する場合で、微妙な案件は弁護士などの専門家に相談してください。

パワハラは、それが違法な行為であったかどうかは、セクハラよりもっと微妙です。同じ上司が「バカヤロー」と叱責しても、励ますつもりの場合もあり、行為からだけでは判断が困難だからです。これも、被害者がセクハラの均等法上の措置と同じように事業主に社内措置を要求するのであれば、対応は柔軟に考えてください。しかし、損害賠償請求をされた場合は弁護士などの専門家に相談してください。

被害者がうつ病などの精神疾患の原因をセクハラ・パワハラにあると主張した場合は、いわゆる原因と結果の因果関係の問題となります。被害者の提出する診断書だけではなく、それ以外の病院の診断も必要と思います。思い切って被害者に労災の申請を促し、労災が認定されるかどうかを目安にするのも1つの方法と思います。

5.事実確認後の対応

(1) 指針のチェック等
セクハラについては、前記の指針が遵守されているかどうかをチェックしてください。また、厚生労働大臣は事業主の責務が十分遂行されていない場合、事業主に対し報告を求め、または助言、指導もしくは勧告をすることができ(均等法29条)、さらに事業主が是正勧告に従わなかった場合、企業名を公表することができます(同30条)。厚生労働大臣に対する報告をしなかったり、虚偽の報告をしたりした事業者には20万円以下の過料に処せられることがあります(同33条)。
パワハラについては労働関係法上の措置は規定されていませんが、セクハラの場合に準じた措置を検討してください。

(2) 社内での措置・被害者への賠償
セクハラ・パワハラの事実が確定すると、社内での措置と被害者への賠償を考えなければいけません。
セクハラについては前記の指針による措置によります。また、パワハラについてもそれを参考にしてください。
措置のうち、加害者に対する懲戒処分、降格・配置換えなどを就業規則によって迅速適正に行う必要があります。これらの措置はセクハラ・パワハラによる被害の内容の程度、再発防止、従前の措置との均衡などの点から検討してください。被害者の希望を聞くことは差し支えありませんが、以上の措置はあくまで事業主の専権事項であることに留意してください。また、被害者が不利益と感じるような後者の損害賠償については、金額は事案によってまちまちなので、厳密に算定するのであれば判例で類似案件を捜すしかありません。
損害賠償金の支払いは、事業主に使用者責任が認められる場合は、事業主と加害者の連帯債務となります。したがって、被害者から事業主に被害の全額の請求があったときは、その金額を負担することになります。両者の内部分担は折半ないし事業主70%負担というところでしょう。

6.被害者との紛争を解決する制度

被害者と事業主の紛争(事業主からみた不当請求)としては、(1)セクハラ・パワハラの事実が認定できなかったため、被害者の賠償請求を事業主が拒否する場合と、(2)事実認定はできたが、被害者の賠償請求の額が不当な場合があります。

その場合は次の制度を利用してください。このうち、労働審判制度の利用が一番効果的と思われます。

(1) 均等法上の制度(セクハラの場合)

ア 紛争の解決援助
都道府県労働局長は、セクハラに関する雇用管理上の措置について、労働者と事業者間の紛争について、当事者の双方または一方からその解決について援助を求められた場合に、必要な助言、指導または勧告をすることができます(同15条)。

イ 均等法による調停
都道府県労働局長は、労働者と事業主間のセクハラ紛争について、双方または一方から調停の申請があったときは、紛争の解決の促進に関する法律で定める紛争調整委員会に調停を行わせることができるとされています(同18条)。

(2) 民事調停
民事調停法による民事調停の申立てをすることも考えられます。この制度は当事者の互譲により、条理にかない事情に即した解決を目的としたもので、調停委員2名がいろいろなアドバイスをしながら解決策を当事者の話合いで見つけ出すものです。
最近は不当請求に対する対抗措置として利用されることがあります。

(3) 労働審判制度
労働審判制度は個別労働関係紛争を裁判所において原則として3回以内の期日で迅速適正かつ実効的に解決することを目的として設けられた制度です。労働審判官(裁判官)と2人の労働審判員から構成される労働審判委員会が調停を進めながら、調停不成立の場合は労働審判を行います。審判は、2週間以内に異議の申立てがあれば失効し、裁判へ移行します。
この制度は、事業主からの申立ても可能で、その場合は、債務不存在の申立てということになります。セクハラ・パワハラが認定された場合、調停案として賠償額が示されます。

(4) 裁判の提起
これは相手を牽制する方法としてはもっとも効果的です。これも債務不存在の訴えを提起することになります。

■ セクハラ・パワハラ解決のための手順
セクハラ・パワハラ解決のための手順






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