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田中潤の「酒場学習論」
【第2回】国分寺「燗酒屋がらーじ」と、決める・決めてもらうのが私たちの仕事

株式会社Jストリーム 管理本部 人事部長

田中 潤さん

Jストリーム 人事部長  田中潤の「酒場学習論」

古今東西、人は酒場で育てられてきました。上司に悩み事を相談した場末の酒場、仕事を振り返りつつ一人で呑んだあのカウンター。あなたにもそんな記憶がありませんか。「酒場学習論」は、そんな酒場と人事に関する学びをつなぎます。

西は国分寺「燗酒屋がらーじ」から、東は千葉蓮池「奈種彩」を結ぶ「中央線・総武線“燗酒”ライン」。果てしなく往復していたいと感じるほど、この沿線には愛すべき燗酒の名店が多数あります。多くの店が週末は昼から営業しているので、数ヵ月に一度は週末の昼過ぎに国分寺駅に降り立ちます。国分寺から東に電車で移動していく、成り行き任せのはしご酒です。

その起点となる「燗酒屋がらーじ」は本当に素敵なお店で、もともとは自家製麺のラーメン店でした。社会人生活を業務用小麦粉の営業としてスタートした私は、食数は激減したとはいえ、いまだに年に150杯はラーメンを食べており、ここのラーメンに目がありません。そのほかにも数多くの魅力的なメニューがあって、カレーまであります。私は燗酒にこのカレーを合わせるのが大好きです。

燗酒の店では基本的に、お酒を店にお任せしています。いろいろ呑んでみたい、でも苦手なタイプには当たりたくないし、好きなものは外したくない……そんな思いを持ちつつお任せします。自分で頼むとどうしても同じものに偏ってしまいますが、決めてもらうことによって世界が広がります。

問題は、どう決めてもらうかです。頼んだアテとの相性、これまでの傾向、それにお店の主張も入れながら、「燗酒屋がらーじ」はいつも本当に満足のいくお酒を決めてくれます。初訪のお店では、大きくはずれることのないように、好みを聞かれたら、私の好みをふわっとお伝えします。また、スマホのカバーに好きな銘柄のシールを貼ってそれとなくカウンターに置いたりもします。決めてもらう側にも、それなりに礼儀と工夫が大切なのです。

ある日に、決めてもらったお酒たち。ど真ん中のものばかり。

ある日に、決めてもらったお酒たち。ど真ん中のものばかり。

お酒は決めてもらえても、アテは自分で決めなければなりません。麺類とカレーは食べたい。他にも魅力的なものがたくさんある。でも、ここは今日の一軒目。このあと何軒いくかわからないけれど、いつも五軒くらいはしごするので、一軒目から満腹になるわけにはいかない。そのため、全身全霊を込めてメニューと対峙します。決めてもらうことと、決めること。この二つをゆっくりと時の流れる週末の午後に国分寺で楽しみます。

とある日に、決めたアテ。「純米燗酒の燗酒屋」「自家製麺の麺屋」の徳利がうれしい。

とある日に、決めたアテ。「純米燗酒の燗酒屋」「自家製麺の麺屋」の徳利がうれしい。

人事マネージャーの日々の仕事も、「決める」ことと「決めてもらう」ことの連続です。人事に限らず、すべてのマネージャー、もしくは組織で働くすべての人に共通する話かもしれません。

「決める」から考えてみましょう。組織は階層で成り立っています。自分が決めなければ、上位者にその決定を委ねることになります。つまり、上位者に決めてもらうことになります。自分が決めないとした時点で、テーマは「決める」から「決めてもらう」に移るのです。「決める」よりも「決めてもらう」ほうが楽だというマネージャーにとっては、実に平和で安易な方法です。中には、職務権限上、自分が決められることまで上位者に委ねる人もいます。これでは権限移譲ならぬ「権限献上」です。そうしたくなるくらい「決める」というのは重いことなのです。国分寺でメニューと対峙するとき、いつも「決める」ことの重さを痛感します。

「決めてもらう」には大きく二つあります。一つは先ほどの、権限献上して上位者に決めてもらうケース。これはお気軽です。権限献上するくらいですから、「思い」などないわけです。ただ、こんなことばかりしているマネージャーはいずれ存在意義を問われるようになり、部下からの信頼は限りなくゼロに近づきます。

もう一つは、自分の権限以上のことを上司に自分の思惑通りに「決めてもらう」ケースです。これは組織で働く醍醐味にほかなりません。自分のやりたいことを組織で実現させることだからです。ただ、人に「決めてもらう」というのは、なかなか思惑通りに進みません。相手に「決めてもらう」プロが営業職です。私は20代の頃に小麦粉の営業として中小企業の社長に「決めてもらう」仕事をしていましたが、その経験を本当にありがたく感じます。

「決めてもらう」ためには、相手への礼儀と工夫が必要です。また、「決めてもらう」能力は、組織で働く者にとって極めて重要な力です。「決めてもらう」ことがそれなりに上手にできるだけで、働く時間は劇的に短縮します。そして、うまく決めてもらえた喜びは格別です。あとは思いをもった実行あるのみです。

初めて訪れたお店のカウンターで、意外だけど好みの酒が出てきたとき、「ああうまく決めてもらえた」と感じる喜びにそれは共通します。あとはおいしく呑むだけです。

この平盃が好き

この平盃が好き

■バックナンバー
【第1回】赤羽「まるます家」と酒場での学び


田中 潤さん(株式会社Jストリーム 管理本部 人事部長)
田中 潤
株式会社Jストリーム 管理本部 人事部長

たなか・じゅん/1985年一橋大学社会学部出身。日清製粉株式会社で人事・営業の業務を経験した後、株式会社ぐるなびで約10年間人事責任者を務める。2019年7月から現職。『日本の人事部』にはサイト開設当初から登場。『日本の人事部』が主催するイベント「HRカンファレンス」や「HRコンソーシアム」への登壇、情報誌『日本の人事部LEADERS』への寄稿などを行っている。経営学習研究所(MALL)理事、慶応義塾大学キャリアラボ登録キャリアアドバイザー、キャリアカウンセリング協会gcdf養成講座トレーナー、キャリアデザイン学会理事。にっぽんお好み焼き協会監事。


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