思い切った事業の構造改革によって生み出された
働き方改革プラットフォーム「TeamSpirit」
株式会社チームスピリット 代表取締役社長
荻島 浩司さん
受託開発から自社製品開発への転換
独立・起業してから約10年間、一人で会社を運営されていたとは意外です。具体的にはどのような仕事をされていたのでしょうか。
一言で言えば、システム開発のプロデューサーです。東芝の金融事業部から委託をうけて、いくつかのシステムを手がけました。融資関係の契約書をイメージ化してファイリングし、ネットワーク経由で参照するシステムや、銀行の自己資本比率をはじき出す際に、オペレーショナルリスクを追加して計算するシステム、銀行の事務規定を電子化するシステムなど。自分で企画を立てて、委託を受けたら、予算の折衝から開発メンバーを集めて動かすところまで、外部の人間ながら任せてもらいました。システム開発の会社時代に培った自社製品開発のノウハウが生きましたね。
その後、徐々に従業員を増やし、現在の組織につながっていくわけですが、何がきっかけで変わっていったのですか。
中核的な深いシステムを開発しようとすると、技術的に高度なものが要求されるので、できる技術者は限られてきます。しかし、そういう技術者を必要なときだけ集めるのは、とても難しいんです。そこで「よく知っている昔の仲間を自分の会社で雇用して、コア部分の開発を手がけたらどうだろう」と考えました。具体的には、システム開発の会社時代の同僚です。時間が経っていたので転職している人も多かったのですが、数人が来てくれることになりました。2007年から年に1人くらいのペースですが、徐々に増員していきました。
ちょうどそのころ、日本でも「クラウド」という言葉をよく耳にするようになりました。欧州では銀行システムがすでにクラウド化されている、とも聞きました。一般的に、システム監査を受ける金融機関が採用すると、その技術はほかの業界にも一気に広まる、と言います。そのときに「これからはクラウドの時代になる」と確信しました。
メインフレームの時代からITに関わって、ダウンサイジングやネットワーク化の時代を経験してきたわけですが、それまでは変化に乗り遅れないようについていくのが精一杯でした。でも、クラウドの時代が来そうだと知ったとき、「今からやれば時代を先取りできる」と思ったんです。今まさに10年に一回の波が来ている、こんなチャンスはそうないぞ、と。そのときから、昼間は東芝で受託開発の仕事をして、夜は事務所に戻って自社のクラウドの企画やパッケージの開発に取り組む、という働き方をするようになりました。
現在の主力製品である「TeamSpirit」はそこから誕生したのですか。
はい。ただ、試行錯誤はありました。2009年にクラウド分野の世界的企業であるセールスフォース・ドットコムのパートナーになって、イベントなどに出展しましたが、最初の製品「入札管理システム」は、開発期間が短かったこともあり、市場からはまったく評価されなかったんです。しかし、そこで使った「総合評価方式」の仕組みは人事評価にも応用できるのではないかと考え、すぐに次の新しい製品の開発に取りかかりました。
設計を進め、特許も取得しました。その過程で「総合評価のためには勤怠管理をはじめ大量の人事データが必要になるが、どうやってそのビッグデータを集めるのか」という課題にぶつかりました。当然のことながら、手入力は効率が悪すぎる。また、その当時あったいくつかの勤怠管理アプリを調べてみると、どれもセンスがいまひとつ。画面のデザインが悪いんです。私はもともとデザイナーを志していたので、余計に気になりました。同時期にツイッターをはじめとするSNSが出てきて、皆がその使いやすいインターフェースになじみ始めているのに、会社で使うシステムだけは昔ながらの画面のままなのはどうか、と。それで「自分たちで作ろう」と考えたんです。ただし、最初は製品化よりも一種の実験のつもりでした。
実験ですから、最初は無料で使ってもらうことにしました。その結果、驚くほど反響がありました。勤怠管理アプリは既にたくさん存在し、無料のものもあったので、やはりデザインの斬新さが評価されたのだと思います。
ラッキーだったのは、使ってくれた方々がいろいろとフィードバックをくれたこと。当時、「リーン・スタートアップ」といった言葉は知りませんでしたが、結果的に、実験的な製品やサービスを無料で提供してユーザーからフィードバックをもらう、という進め方ができました。フィードバックの中には「勤怠管理だけでなく工数管理が欲しい」「ツイッターのようなインターフェースの報告システムは、経営者にはとてもありがたい」といった意見がありました。そのような意見を取り入れ、製品版として新たに作り直したものが、現在の「TeamSpirit」の原型です。
日本を代表するHRソリューション業界の経営者に、企業理念、現在の取り組みや業界で働く後輩へのメッセージについてインタビューしました。