イケア・ジャパン株式会社:
イケアはなぜ「同一労働・同一賃金」「全員正社員」にできたのか
“本気で人を大事にする会社”に学ぶ人事制度改革(後編)[前編を読む]
イケア・ジャパン株式会社 人事本部長
泉川玲香さん
すぐに答えの出る仕事をする人事は大した人事じゃない
さて、新制度の運用が始まってまもなく1年になります。泉川さんが実感されている手ごたえや社内の変化についてお聞かせください。
まず感じるのは、無期雇用化によってコワーカーの間に安心感、安堵感が広がってきていることですね。もう6ヵ月ごとに契約の更新を心配しなくていい。この会社で働くことを前提に、自分のライフパズルを考えればいいわけですから。一方で、今回の改革のベースにある“We believe in people”という会社の思いや、成長してほしいという期待感を真摯に受け止めて、それに応えようと奮闘し始めている人もいます。同一労働・同一賃金になるといっても、当然、次の日から誰もが自動的に賃金が変わるわけではありません。変化のプロセスとして、あなたにはこういう期待値があるけれど、それに対して何が足りないか、何を勉強したいか、自分ではどういうキャリアプランを描いているのかといったことを、マネジャーとの一対一の面談を重ねながら、何ヵ月かにわたって詰めていきます。正社員になることで、より責任感やコスト意識が求められますし、いやでも自分のライフパズルと向き合わざるをえなくなるわけです。
なるほど。賃金の話はそのきっかけにすぎないわけですね。
そうなんです。以前はマネジャーの側にも、非正規の人はこの程度でいい、というような気持ちがどこかにあったんです。「人が大事」だといいながら。でも、いまはマネジャーも変わりつつあるし、それをうけて多くのコワーカーが変わりつつある。「人生と向き合うチャンスをもらいました」という言葉はけっこう聞きましたね。もちろん、そうした変化が本人と会社の成長に結びつくまでには、まだまだ時間がかりそうですが。
泉川さんにとって、人事の仕事のやりがいとは何ですか。
たとえば、今回の制度改革でいうと、すべてのコワーカーが社会保険に入ることになりました。その結果、社会保険料が天引きされるので、時給は上がったけれど上がった実感がないという人も多いかもしれません。でも、長く勤めるほど年金の支給額が増えるので、後々のメリットはすごく大きい。65歳になったら、きっとわかってもらえるでしょう。人事の仕事とはそういうものだと思うんです。今日やって明日答えが出るものではないし、すぐに答えが出るような仕事ばかりやっている人事担当者は、大した人事じゃない。すぐには喜ばれなくても、働く人たちが後で振り返ったとき、会社も自分の人生をともに生きた、自分のライフパズルをかけがえのないピースとして支えてくれたと、そう思ってくれるような役割を果たせるのが、人事の一番の醍醐味ではないでしょうか。