野村證券株式会社:
多様性に優先順位をつけない!
野村證券の“草の根”発「ダイバーシティ&インクルージョン」の取り組みとは(前編)
野村證券株式会社 人材開発部 エグゼクティブ・ディレクター タレントマネジメント・ジャパンヘッド 兼 ダイバーシティ&インクルージョン・ジャパンヘッド
東由紀さん
多様性が存在するだけでは価値創造につながらない
「ダイバーシティ&インクルージョン」への理解を促すために、野村證券では、そのコンセプトをどう定義しているのでしょうか。
まず、ダイバーシティについては、組織に「多様な価値観・人材が存在する状態」と定義づけています。現在、野村グループの総社員数は約2万9000人を数えますが、男女比はほぼ半々。国籍は全世界で70ヵ国以上、国内だけでも実に38ヵ国の人々が働いています。その意味では、すでに多様性が存在している状態だといえるわけですが、しかしそれだけでは、企業の競争力にはつながりません。ダイバーシティがただあるだけでなく、「多様性を受容し、強みを活かしている状態」にまで進化しなければ意味がありません。それが、インクルージョンの定義だと、私たちは考えています。ダイバーシティが存在していても、インクルージョンが推進されていなければ、新しい価値は創造されないのです。
女性活躍推進やLGBTへの対応を含め、扱う課題は多岐にわたるとのことですが、では、具体的に何を、どのように実践しているのでしょうか。取り組みの枠組みや進め方についてご紹介ください。
取り組みの根幹には三つの柱があります。一つ目は制度面の整備で、2012年に社内の倫理規定を改定。「人権の尊重」の項目に、国籍、人種、民族、性別、年齢、宗教、信条、社会的身分、障がいの有無に加えて、性的指向や性同一性による差別を行わないとする旨を明記し、LGBTへの対応を明文化しました。倫理規定はすべての社員にとって、バックグラウンドの違いにかかわらず、相互に尊重し、働きやすい環境を保障する信頼の基盤となるものですから、推進活動の最初のステップとして、これを実施しました。
二つ目に、社員ネットワークの活動が挙げられます。冒頭に触れましたが、リーマン・ブラザーズで行われていた取り組みを引き継いだもので、社員が自主的に運営する三つのネットワークを通じ、部門を超えたネットワーキングの場や講演会、社内外の交流などの機会を提供しています。多様な人材が活躍できる社内風土や文化の醸成を推進する上で、まさに中核を成す仕組みですね。
また、三つ目として、ダイバーシティ推進に資するさまざまな研修を実施しています。特に管理職および新しく弊社に入社する社員には必須で、ダイバーシティ&インクルージョンの概念と、それが身近な課題であることを理解してもらうのが目的です。
差別規定の話がありましたが、日本企業で、そこに性的指向や性同一性に関する記載まで入れている例は、まだほとんどありません。
規定があっても、たいていは「年齢、性別、国籍などで差別してはいけない」ですからね。“など”にごまかされてしまうんです。LGBTも含まれているんだから、特に明記しなくてもいいだろうと。そういう意見もありますが、性的指向と性同一性については、それが見えにくい違いだからこそ、違いを認識していることを証明するために明記する必要があるのです。以前は、「そうはいってもうちにはいないですよね」という言葉をよく聞きました。そう言う人の多くは、テレビ番組に出てくるような「おネエキャラ」などのわかりやすい例を思い浮かべて、「うちにはいない」というわけです。本来、セクシュアリティーは目に見えにくいものだという理解がないから、「見えない=いない」と決めつけてしまう。見えなくても、会社がちゃんと存在を認識していることを証明し、当事者の人を安心させるためにも、LGBTに関する明文化は必須だと考えたのです。