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“300年以上成長し続ける企業”を目指す
ソフトバンクグループの人材育成戦略(後編)[前編を読む]

300年以上成長し続ける企業を目指すという、ソフトバンクグループ。研修を内製化することも、そうしたビジョンと一貫した人材育成戦略があったからこそ。『後編』では、内製化の内容について、社内講師(ソフトバンクユニバーシティ認定講師:ICI)の応募や育成、効果・効用など、人材育成の実務に関係した具体的な話を伺っていきます。

Profile
武田健佑さん
武田健佑さん
ソフトバンクモバイル株式会社、ソフトバンクテレコム株式会社、ソフトバンクBB株式会社、ワイモバイル株式会社 人事本部 人材開発部 人材開発2課 課長

たけだ・けんすけ ● 2002年入社。営業を経験後、08年より現職。「ソフトバンクユニバーシティ認定講師(ICI)制度」や「知恵マルシェ」の運営責任者。ソフトバンクユニバーシティやICI制度の立ち上げを経て、後継者育成機関であるソフトバンクアカデミアの運営にも参画。ソフトバンクグループ社員の「知恵と知識の共有を推進する」ことを目的に、各種取組みを強化している。

島村公俊さん
島村公俊さん
ソフトバンクモバイル株式会社、ソフトバンクテレコム株式会社、ソフトバンクBB株式会社、ワイモバイル株式会社 人事本部 人材開発部 人材開発2課

しまむら・きみとし ● 2005年入社。営業を経験後、08年より現職。ソフトバンクユニバーシティの立ち上げに参画し、プログラム開発、社内講師の育成体系作りに従事。約100名の社内講師陣の育成を担当する。累計登壇回数700回以上、受講者数1万7千人以上の登壇実績。最近では、東北の高校生の人材育成を支援するワークショップ企画・実施にも従事している。

社内講師をいかにして「育成」するのか

社員から研修講師を公募・養成し、多くの社内研修を自社社員の方々で行われていますが、どのように講師を募集・選出されているのでしょうか。

武田: 研修講師の募集は、「公募」という形を取っています。また一方で、スカウトも行っています。公募は年に1回、決まった時期に実施。社内講師としてのICI認定までのステップは、「書類審査」→「面接」→「認定試験」の3段階に分けて行います。

まず「書類」では、自分自身のこれまでの経験や、どんな研修をやりたいのかなどを記入してもらいます。どういう研修を担当するかは、事務局から要望を出す場合もありますし、応募者に希望を書いてもらう場合もあります。いずれの場合も、研修講師を務められるだけの経験やノウハウがあるのかどうかを、書類上で確認します。

武田健佑さんPhoto

続く「面接」では、「書類」に書かれていた内容について詳しく質問します。あわせて、社内講師として皆の前で「話す」部分(デリバリースキル:伝える力)について、最低限のスキルを確認します。ただ、ここでも重視するのは、研修講師としてふさわしい「経験・ノウハウ」があるかどうかということ。そして、講師になりたいという「想い」です。自分の経験やノウハウを社員に伝えていきたい、事業や会社に貢献していきたいといった強い「想い」がどれだけあるかを、「面接」の段階までにしっかりと見ていきます。

最後の「認定試験」ですが、既存のコースを担当してもらう場合は、研修の一部を実際に行ってもらいます。一方、新しいコースであれば、その内容に関してプレゼンテーションを行ってもらうこともあります。結局、見るところは同じ「経験・ノウハウ」や「想い」なのですが、ステップが進むに従ってそのレベル感が深くなっていくわけです。例えば、具体的な事例や自分なりの経験をうまく話してくれるのかどうか。そうした内容がちゃんと盛り込まれているかどうかを見ていきます。

ちなみにICIは、初年度は約80人の応募に対して、26人が認定されました。直近では40人近い応募に対して24人が認定されています。初年度はそれまで前例がなかったので慎重な選考を行ったこともあり、倍率的には厳しくなりました。制度上では、ICIの任期は1年ですが、本人の希望があれば更新されます。現在、ICI認定講師は96人に達しています。

島村: 社員が会社のために自分の経験を伝えようと、勇気をもって応募することは本当に尊敬に値すると思います。ただ、基準に達していない場合には、クオリティー維持も人材開発の重要なミッションであるため、お断りすることも多々あります。

同じ社内ですから、後日プロジェクトで一緒になることもあるわけで、認定に関する合否の連絡は当然ながら丁寧かつ慎重に対応しています。ちなみに、応募者本人は応募に際して、自身の上長に確認をとっています。また、合否については本人と上長だけしか知らされません。なお、その年に不合格だった場合でも、再チャレンジが可能な仕組みになっています。

登壇に向けて、社内講師の方々に対してはどのようなトレーニングを行われているのでしょうか。

武田: 実はICIの認定段階ではあまり重きを置いていないのが、講師としての「デリバリースキル:伝える力」です。なぜかと言うと、このスキルは後からでも育成できるからです。

私は初年度の立ち上げ時もICI制度を担当していましたが、初期にはデリバリースキルを重視していました。講師である以上、伝える技術は大事だと思ったからです。それが、応募者数に対して合格者が少なかったことの一因でもありました。しかし、1年間やってみて明確に分かったのが、講師に最も求められるのはデリバリースキルではないということ。講師になってからでも、デリバリースキルは十分に伸ばせるんです。大事なのは、そのテーマに関してどれだけの経験やノウハウを持っているか、そして何より本人に強い「想い」があるかどうかです。それで、デリバリースキルに関しては、認定後に育成していくことにしたわけです。

具体的に言うと、初回の登壇まで、デリバリースキル育成のための時間を6時間程度とっています。1回当たり2時間くらいのトレーニングを3回行った後、社内講師としてデビューするケースが多いです。

島村: 実際に登壇するICI講師も、初回登壇後は「もっと上手に研修を進めたい!」「もっと受講者を巻き込める方法を知りたい!」といった非常に前向きな要望を伝えてくれます。これらの要望に育成担当者として真摯に向き合い、長く続けてもらうためのモチベーションとして、また、講師の質の向上を図るためにも、必要なデリバリースキルをまとめ、体系化し、見える化しておくことが大切だと考えました。

そこで、デリバリースキルを向上させるための目安として「デリバリースキルマップ」を作成しました。話し手の意図を伝えきるための「伝達力」、受講者を飽きさせないようにするための「演出力」、さまざまな受講者にどのように臨機応変に対応していくかという「対応力」の三つのカテゴリーに分け、レベルを「二つ目」「真打」「匠」の三つに分け、スキルをマッピングしました。

なお、下位の「二つ目」では、初めてICI講師になる方に、登壇する前に必ず受けてもらう基礎編のプログラムを用意しています。その上の「真打」「匠」は、「伝達力」「演出力」「対応力」というカテゴリーごとに応用プログラムを用意しています。ちなみに、基礎編、応用編の全トレーニングは、人材開発部の講師が自らプログラム開発し、約100名ほどいる講師陣のスキルアップ講座を担当しています。人事の講師陣は、自らそれらを体現できるように日々研鑽を積んでいます。

社内の人材がボランティアで講師を務める。ここがICIの仕組みの中ではキーになっていると感じました。

島村: 私たちは、立ち上げ当初からこの制度を永続的に続けていく制度にしたいと考えていました。長く続けていくには、外発的な動機づけではなく、内発的な動機づけがとても重要だと考えます。だからこそ、「想い」を持った講師が社内のどこにいるのかをリサーチしたり、実際に社内営業することはとても重要なポイントになります。

武田: ボランティアですから、講師としての手当ては特にありません。「自己啓発支援金」として、担当する研修をより良くするためにセミナーに参加したり、資格を取得したりした際などに生じた費用を、年間3万円まで支援するという制度は用意していますが、そもそもボランティアで参加している人たちばかりなので、利用者は少ないのが実情です。

島村: 講師の方々に、なぜICIの活動をしているのかヒアリングをしたことがありますが、一番多かった回答が、人に何かを伝えたり、教える経験は、必ず自分の成長につながるという回答でした。その次が、優秀な仲間と繋がれ新しい人脈が築けるというというものでした。手前味噌ですが、本当に素晴らしい講師陣だと感じております。

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この記事ジャンル 能力開発関連制度

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