転職意思のない人材をその気にさせるのは、至難の業
人材紹介とヘッドハンティングの違い
コンサルタントの思惑通りにはいかない? 人材の「転職したい」という気持ちが重要
人材紹介とよく似たサービスに「ヘッドハンティング」がある。いずれも企業からのオーダーに従って適切な人材を紹介するというものだが、大きな違いは、人材紹介がもともと転職を希望して登録した人の中から候補者を選ぶのに対して、ヘッドハンティングは転職希望の有無に関係なく、最適の人材を探し出し、新しい仕事がキャリアアップになると説明して説得することだろう。当然、ヘッドハンティングの方が難しく成功報酬も高額だ。転職希望がない人をその気にさせるのは、やはりヘッドハンティングのプロでないと至難の業だといえる。
ハードな営業に従事していたSさん
「お仕事中に大変失礼いたします。本日は、資産運用にご興味があればと思いまして、お電話しました」
オフィスで働いている30代以上の人であれば、こうした突然の営業電話を何度か受けたことがあるのではないだろうか。その日、私にかかってきたのもまさにそういった電話だった。人材紹介会社のコンサルタントは、名前だけでなく年齢や経歴など簡単なプロフィールもWEB上に公開していることが多い。そのため、不動産、商品取引、金融商品など、さまざまな営業電話がかかってくる。
「詳しくご案内したいのですが、いかがでしょうか。ご指定の場所にうかがいます」
普段なら「資産運用には興味ありません」「間に合っています」などと答えてすぐに切ってしまうのだが、直接会って説明したいという相手の熱意のこもったトークに心が動いた。
「わかりました。では一度お話をうかがいましょう。こちらの事務所までお越し願えますか」
人材紹介会社には転職相談用のブースがいくつもあることを説明し、日時を決めた。
「ありがとうございます!当日はどうぞよろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしく。お待ちしていますよ」
相手の声はアポイントがとれたことで喜びに弾んでいた。しかし、実をいうと、私は資産運用に興味があったわけではなかった。電話をかけてきた本人に興味があったのだ。
個人への電話営業、それも新規開拓というのは、非常に厳しい仕事である。それだけに離職率も高い。実際に私も「法人営業やルート営業の仕事に転職したい」という相談を受けることがよくあった。
つまり、会って話せば、「実は転職を考えていました」となる可能性があるのではないかと思ったのだ。人材紹介会社のコンサルタントは、より多くの転職希望者に登録してもらうことも仕事のうちである。
相手の電話の口調が、丁寧でしっかりしていたのも良かった。「これは“できる人材”なのではないか」と思えた。ハードな新規開拓で鍛えられた営業経験者なら欲しいという会社は、いくらでもある。声から判断して年齢が20代だと思えたのもプラス材料だった。
「若手営業を募集している会社の求人票をそろえておいた方がいいな」
私はアポイントをとった相手、Sさんとの面談が楽しみになっていた。厳しい営業に疲れ切って相談に来る転職希望者も少なくない中、Sさんはバリバリの現役である。イキのいい若手営業を紹介したら、きっとどの企業も喜んでくれるだろう。そう思ったのである。