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人材採用“ウラ”“オモテ” 
企業・求職者・人材紹介会社の「転職」三角関係

仕事内容は希望通りだが、年収が下がることでためらう転職者
プライドにこだわるベンチャー企業

奥さんよりも実は本人にこだわりが…

いったん上がった年収は減らしたくない

仕事のやりがいの問題、キャリアチェンジ、スキルアップ…など転職の目的は人によってさまざまだ。しかし、そういった仕事上の希望が満たされれば、年収が多少下がってもいいのか、というとそうはいかないケースもある。両方の面で満足したいと思って転職活動をしている人も多い。しかも、もともとの給与が高かった人ほどその傾向が強いようだ。

一度妻に相談してみます…

「ありがたいですね、A社の仕事は私の希望していた業務内容そのものです。給与面に関しては多少のダウンでも受け入れようと思っていますよ…」

こう語っていたKさんだったが、正式にオファーレター(内定通知)が出ると、いろいろと考えるところがあったようだ。

「基本的には問題ないと思っているんですが、妻にも相談しないといけませんし、もう数日お時間をいただけますでしょうか」

「もちろん大丈夫ですよ。ところで奥様のご意見として何か問題になりそうなところはありますでしょうか」

Kさんの口ぶりがなんとなく気になったので念のために聞いてみた。

「そうですね、やはり現職の年収と比較すると多少下がってしまうことでしょうか。私自身はそれでもいいと思っているのですが、何しろ家計をやりくりしているのは妻なので…」

Kさんは、ある外資系企業に勤務していて、前年度の年収は1200万円を超えていた。今回内定したA社から提示された金額は1100万円。約100万円の開きがある。しかし、実はKさんが1200万円の年収をもらうようになったのは、2年前のことだ。それ以前はやはり日系の大手企業に勤務していて、たしか 900万円前後だったとおっしゃっていたような…。

「前職の日系企業に勤務されていた時代と比べると、A社さんの提示も相当良い金額かと思います。外資系企業には撤退のリスクなどもありますし、現在の年収とだけ比較するのではなく、前職とのバランスなども考慮していただくといいと思いますよ」

私はKさんの奥さんが、年収額にあまりこだわらない人であってほしいと思った。Kさん自身は1100万円の年収で納得しているのだから…。また、転職時の想定年収は「1年間フルに勤務した場合」の額なので、初年度は1回分のボーナス(賞与)の分だけ、実際の支給額は減ることが多い。あまりにも年収にこだわっていたら、そのあたりも問題になってきそうだ。

「そうですね、家内と話し合って、またご連絡いたします」

Kさんからの電話はいったん切れた。

お小遣いが減額されるかも…

「細かいことですが、質問させていただいていいでしょうか」

Kさんからの電話が再度かかってきたのは数日後。

「まず、私の配属される事業所には社員食堂はあるのでしょうか。それと退職金制度の有無、その内容をお教えいただけないでしょうか。特に確定拠出型年金制度があればその詳細もお願いします」

これがKさんの質問だった。奥さんにA社の年収・条件を見せたところ、やはり現職よりもダウンするというところで、すんなり賛成とはいかなかったのだという。

「外資系と日系の違いとか、そのへんを訴えてみたんですけどね。もうちょっと何とかならないのか…ということで。年収額が減った分、私の小遣いが減額になるかもしれないので、ランチ代が多少なりとも助かる社員食堂があったらいいな…と。あと、確定拠出年金の制度などがあれば好材料になりますので、それも調べていただければ助かります」

年収1000万円以上稼いでいる人が、小遣いを浮かせるために社員食堂でしかランチを食べられない…というのも厳しい話だが、A社に確認すると社員食堂はあるという。確定拠出型年金制度もあるようだ。

「ありがとうございました。もう一度妻と相談してみます…」

「どうですか。奥様には納得していただけそうですか」

Photo

Kさんは多少安心しているようだが、私も気になって尋ねてみた。

「ええ、なんとかします。私もやりたい仕事ですから。それにしても、年収が一度アップしてしまうと、下がるのには抵抗があるもんですね。妻がそれを心配しているのは確かですが、実は自分としても、年収を下げてまで転職していいのか…という気持ちが多少はあるんですよね」

Kさんはちょっと言いにくそうに話してくれた。

「私が本当に納得していれば、これでいく!と強気に宣言できたんですけど…。自分が100%納得していないから、妻からの質問などといって、いろいろ確認をお願いしてしまったんだと思います」

「そうだったんですか…Kさんご自身はもう納得されたんですか」

「はい、この数日で気持ちも固まりました。ご心配おかけしました…」

その翌日、KさんはA社への入社日を知らせてきてくれた。

プライドだけじゃダメなんです

小さい会社ならではの採用戦略とは?

同じ業種で同じ職種を募集している大企業と小企業があった場合、採用上は大手がどうしても有利。その結果、大企業が経験や知識の豊富な、いわゆる「良い人材」を押さえてしまうことになるので、小企業は未経験者などにも採用範囲を広げ、人材を「育成」していかざるをえない。中途採用の市場では、だいたいどこもそうなっているようだ。それは決して悪いことではないのだが、中にはそれを認めたくないという場合もあるらしい。

大手と正面から採用競合しています

「御社の場合、どういった方を採用して成功されているのでしょうか。前職とか、志望動機とか、事例があればぜひお教えいただけないでしょうか。今後ご紹介させていただく際に参考にいたしますので…」

人材紹介会社が企業から求人情報をもらう時には、単に「どんな経験やスキルを持った人が欲しい」という要件以外に、もっと細かい情報もお聞きするようにしている。特に規模が小さかったり、設立されてからの期間が短いベンチャー企業の場合などは、大手と同じような情報だけもらっていたのでは、採用競合で負けてしまうからだ。

ところが、P社の人事総務担当・Dさんは、その質問に「うーん」と考え込んでしまった。ちなみに、P社は社員数20名の少数精鋭企業である。業態は大手とほとんど競合するもので、当然募集している人材のスペック(要件)もほとんど同じだ。

「そんなに難しく考えないでください。実際御社でも大手と採用競合されるケースはあるんじゃないですか。大手は経験者採用ですから、御社では未経験者にも範囲を広げているとか…そういった採用のスタンスを教えていただけるとありがたいのですが…」

「実はですね…」

Dさんは少しずつ説明してくれた。

「当社では採用面接は、ほとんど社長がやっているんです。まだ規模も大きくないですから、1次面接から社長なんです。私の仕事は、採用担当といっても面接のセッティングなどが中心でしてね。書類選考も社長が担当しているんですよ」

これはベンチャー企業ではよくあることである。

「そうなんですか、今日は社長はいらっしゃらないんですよね。では、また後日お伺いしますので、それまでに社長に確認しておいていただけないでしょうか」

P社の求人票には採用対象者は「経験者」と書いてあったのだが、経験者だけに絞っていたのでは、P社の規模では採用は難しいような気がしていた。私が特に知りたかったのは、実際には未経験者にまで対象を広げているのではないか、ということだったのである。

気持ちでは負けたくない、という気持ちは分かるけど

Dさんからの答えは意外なものであった。

「社長に聞いてみたんですけどね、やっぱり経験者しか採らない…の一点張りなんですよ。なんとかその方向でご紹介いただけないでしょうか」

「そうですか…」

今度は私が考え込む番だった。たしかに、条件はこれこれだから、それで紹介してほしいと言われれば、それで進めるのが人材紹介会社の役割である。しかし、真の目的は紹介するだけではなく、採用に成功していただくことだ。

「弊社の社長も創業者だけあって、独自のポリシーを持ってましてね。大手と両方内定してもわざわざウチに来るような人材、ベンチャーでやりたいという強い意志や熱意のある人材じゃないと勤まらない…という考え方なんですよ。だから、大手と採用競合した場合のことを考えて未経験者にまで対象を広げる、といったことはしてないんです」

たしかに、ベンチャー企業とはそういうものかもしれない。意欲を持って飛び込んでくる人でないと続かないし、ベンチャー企業ならではのプライドもあるだろう。

「しかし、それでうまく採用できていらっしゃるんでしょうか。私としては御社に採用で成功してほしいのですが…」

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「うーん、難しいところですね。未経験者を採用してもなかなか教育する余裕がないっていうのも事実だし…」

では、今まではどうやって採用していたのだろうか。

「実はそれも社長なんですよ。いろんな人脈、コネクションを使って知り合いの伝手(つて)で採用しているんです。かくいう私も社長の知り合いからの紹介での入社ですし…」

これもまた、いろいろな企業が通過していく段階の一つではある。ただ、人材紹介や公募といった方法で採用するには、もう一皮むける必要があるのではないだろうか。現実路線も取れるようにならないと、公募での成功はなかなか難しいのである。

P社の採用活動は今も続いているが、経験者採用にはまだ成功していないという。



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