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職場のモヤモヤ解決図鑑【第60回】
うまくいかない残業削減……どこに問題がある?[前編を読む]

職場のモヤモヤ解決図鑑【第60回】漫画

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山下 健悟(やました けんご)
山下 健悟(やました けんご)
関東圏のメーカー課長職45歳。20人ほど部下がいる。部下がもっと働きやすく、活躍できるチームを目指し、試行錯誤の日々。

残業時間を減らそうと、さまざまな提案をした山下さん。会議時間の上限設定など、積極的に試みたものの、思ったような結果にはつながっていないようです。残業削減は個人の取り組みも重要ですが、組織レベルでの変化も求められます。マネジャーにできることを考え、働き方改革を成功させるためのヒントを紹介します。

業務改善を妨げる要因の一つとして考えたい、心理的安全性

会議を短く設定したにもかかわらず効果がなかったり、そもそも業務フローの見直しが進まなかったりするなど、。残業削減の取り組みが進まない背景には、職場の心理的安全性の低さがあるかもしれません。

心理的安全性とは、どのような発言や指摘をしてもリスクを感じない状態を指します。心理的安全性が担保された職場では、誰もが気付いたことやアイデアを口にでき、結果として学びの機会が増え、業務改善が進みます。逆に心理的安全性が担保されていない職場では、「考えを否定されるかも」といった不安から、メンバーが発言をやめてしまう可能性があります。

発言を促そうと、ルールを設定したり、個人的に部下と仲良くしたりする行為は、心理的安全性の醸成にはつながりません。心理的安全性が担保された職場にするためには、メンバーが安心して発言できるように、以下の行動が重要です。

心理的安全性を醸成する行動

  • メンバーの行動にポジティブなフィードバックを行う
  • 返答するときや話の内容を理解したときは、言葉で示す
    (例「なるほど。詳しく説明してもらえますか?」「よくわかりました」)
  • メンバーにフィードバックを求めることや、相手の意見を否定しない相槌により、相手に対して「受け入れている」という姿勢を示すことができる
  • 相手にとって心地よいコミュニケーションを意識する。たとえば、相手の動作と自分の動作を意図的にあわせる「ミラーリング」は、似た存在であることを相手の無意識に働きかけ、心地よさを生むきっかけとなる。
  • 改善点を指摘するときは、「何が悪かった?」ではなく「次にどうすればいいと思う?」とポジティブな声掛けをする

それでも何だかうまくいかない残業削減……組織レベルでの工夫

いくらマネジャーが率先して残業削減に取り組んでも、組織として改善しなければいけない課題があると、思うような成果につながりません。取り組みがうまくいかないと感じたら、部下を管理する立場にあるマネジャーだからこそできる働きかけを検討します。残業が減らない要因と、削減に向けて組織レベルで取り組むべき工夫を紹介します。

明らかな人手不足

効率化を進めているのに、現状が一向に改善されないときは、人員不足がボトルネックになっているケースが考えられます。明らかな人手不足に対しては、採用の強化が必要です。その際、業務の洗い出しと必要な人員数が明確になっているエビデンスがあると、採用担当者へ協力を依頼する際に説得力が増し、効果的な資料として利用できます。

業務遂行を阻害する外部要因

繁忙期と閑散期の業務量の差など、外部要因によって業務遂行を阻害され、残業が増えているケースもあります。外部要因に対しては、労務管理上の制度変更によって改善ができるかを検討します。

たとえば、業務量が時期によって著しく異なる組織の場合、1年単位や1ヵ月単位の変形労働時間制の導入も一案です。変形労働時間制では、年単位や月単位で所定労働時間を調整できるため、繁忙期と閑散期で所定労働時間を増減させて働くことができます。また、フレックスタイム制を導入し、始業時間・就業時間の裁量を従業員に持たせることで、勤務時間に柔軟性が生まれ、残業削減につながることもあります。ほかにも、時間有給の導入や代休の取得促進といった施策が考えられます。

評価制度や賃金体系を見直す

従業員が残業代を得たいがために、残業が減らないケースもあります。そうした場合には、ただ残業削減を呼びかけるだけではなく、評価制度や賃金体系の見直しが必要です。

たとえば、評価項目に「生産性」や「効率性」が加われば、一つの仕事に時間をかける従業員よりも、短時間で目標を達成した従業員のほうが高い評価を得られます。また、ダイレクトに「残業時間」を評価項目に設定し、残業時間が少ないほうが賞与の査定によい影響を与えるように設定すれば、従業員の働く意識にも変化が生まれます。

残業削減に成功した事例

組織レベルでの取組みを通じて残業削減に成功した企業の事例を紹介します。

朝型勤務で残業体質を改善した伊藤忠商事

伊藤忠商事では「残業ありき」という働き方の抜本的な見直しのため、2014年5月から20時以降の残業を原則禁止し、早朝午前5時〜9時に仕事をする「朝型勤務」を導入しました。この取り組みによって、夜の20時以降に会社に残って仕事をしていた社員は30%から7%へ、残業時間は、約1割減少しました(2015年時点)。残業削減だけではなく、時間に制約を抱える社員や柔軟に働きたい社員など、多様な人材が活躍できる環境づくりにもつながりました。

社長メッセージで企業の意識改革を促す大成建設

大成建設では、2015年より長時間労働の是正を社長メッセージとして打ち出し、会社としての基本姿勢を示すとともに、社員組合と会社との協議機関を立ち上げ、労使協働で残業削減に取り組みました。協議機関は、「時短委員会」として年に4回の定期的な集まりを通じ、休暇取得促進キャンペーン、休暇制度の見直し、業務の改善・削減を実施。その結果、2年間で月100時間以上残業した社員の数を半減させることに成功しました。

長時間労働を賞与減額対象とした大和ハウス工業

大和ハウス工業では、長時間労働の是正のため、事業所・管理職の業績評価に長時間労働を防止する制度を組み込みました。「ブラック事業所認定制度」と呼ばれる時間外労働について独自の社内基準を設け、基準に抵触した事務所には是正指導やペナルティーを与えるというものです。ブラック事業所と認定された場合、事業所全体の賞与に影響があるため、管理職の意識づけを強化するだけではなく、長時間労働削減に非常に高い効力を発揮しました。

変形労働時間制を導入した株式会社山久

卸売業の株式会社山久では、1年単位の変形労働時間制を導入。年間カレンダーで会議予定や請求書発行日、決算棚卸日などを特定し、繁忙期に向けて業務計画を明確にしました。また残業は上司による承認を得るようにしたほか、1日の残業時間の限度を設定。その結果、残業時間が月平均27時間から18時間に減少しました。

【まとめ】

  • 業務効率化は、ルールを決めるだけではうまくいかない場合もある。部下が思ったことを口にできる心理的安全性が担保されてこそ、業務改善や効率化について率直な意見が聞ける
  • 残業削減の妨げとなる組織的な課題もあるため、自分の立場からできる取り組みを模索して実行する
  • 長時間労働を顧みずに成果を求めるような仕組みや制度が存在している場合は、評価基準の見直しや制度改革に取り組む

クライアントからの要望で、いままで納期の短縮も受け入れてきたけど、このままだと部下の残業が増えるばかりだ。これ以降は対応しないという姿勢を社として示したり、クライアントと交渉して納期の余裕を持たせたりしないと……。ちょっと部長にかけあってみよう

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

職場のモヤモヤ解決図鑑【第59回】 部下の残業を減らしたい。マネジャーにできることは?
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この記事ジャンル 働き方改革

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【用語解説 人事辞典】
ソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ぼけ)
まだらテレワーク
ブリージャー (ブレジャー)
従業員シェア
高度プロフェッショナル制度
キッズウィーク
無期転換ルール
エンプロイー・エクスペリエンス
ワーケーション
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