失敗を成長のチャンスとする企業風土を醸成して
「全員活躍」を実現
いま注目の人事リーダーが取り組む、
カルビーの人事改革とは
「HRアワード2018」企業人事部門 個人の部 最優秀賞 受賞 / カルビー株式会社 執行役員 人事総務本部 本部長
武田 雅子さん
これからカルビーで何を実現するのか
これから注力していきたいものについてお聞かせいただけますか。
既に手を付けているものとして、異動(ローテーション)があります。今まで、幹部候補人材などは「社内War for talent」状態で、実質的に本部長が指名していました。本人による「手挙げ」制度(チャレンジ制度)もありますが、皆の前でのプレゼンテーションをしなくてはならないなど、ハードルが高かったため、制度としてあまり機能していませんでした。そういう仕組みをあらためて、直接人事に申告すればいい仕組みにすることで、「手挙げ」を活発化させています。
これまでカルビーではトップダウンによるやり方が機能していましたが、これからは変わります。ボトムアップで、従業員全員の力を合わせて変革を進めていくようになります。そのためには、従業員自身が将来をどのように考え、主体的にどう動いていくのかが重要です。その際のキーワードが「キャリアオーナーシップ」。自分のキャリアを自分で作り、それによって会社を変えていく「全員活躍」です。このマインドを全員に持ってほしいので、異動を活発化させる必要性がありました。
カルビーには頭の良い若い人が大勢います。この人たちが力を発揮すれば、カルビーはもっと良くなるはず。しかしトップダウンによるマネジメントでは、必ずしもその能力を100%発揮することはできません。「あなたにはこんなミッションがあり、こういうことを期待している。そのために一歩前に出て、結果を取りに行ってほしい」と丁寧に説明すると、従業員は「自分事」としてよく分かってくれます。何より、こうした「期待感」が腹に落ちると、彼らはすごいエネルギーを発揮し、仕事に取り組むようになります。今まさにマネジメントの仕方を本人に問い掛け、本人が自主的に動いていく方法へと変えている最中です。
例えば先ほどの「手挙げ」制度に関して言うと、過去には9人しか手を挙げた人はいませんでしたが、今年は既に40人が手を挙げています。私としてはこれでもまだ少ないと思っていて、100人を目指したいと思っています。
今後、カルビーで実現したいことは何ですか。
全員が自分の強みを生かして、活躍してくれることです。ただ、それを実現するには、まだマネジメントラインが弱いと考えています。いい人たちばかりで、「耳の痛い事」を言う人が少ないからです。しかし、ベースに人に対する愛や思いやりがあれば、きっと口に出して言うことができます。そのスキルを身につけるためのトレーニングをこれからは強化していきたいと考えています。
カルビーは、スナック業界のリーディングカンパニーであり、従業員全員が会社のことが大好き。オープンでユーモアのある性格の人が多いこと、地頭が良くて話が早い人が多いことに驚かされます。また、社内は「さん付け」で会話がなされ、ヒエラルキーがありません。改革を進めていく上で、これらはとてもプラスになることです。
失敗することを恐れる人たちも少なくありませんが、人はチャレンジし、失敗するからこそ学ぶことができます。その経験を元により高みに向かって再チャレンジすることは、持続的な成長へとつながります。こうしたチャレンジと成長のサイクルを組織風土として、醸成していきたい。そのためにも必要なのは、皆を「巻き込む力」です。
前職からずっと言っている言葉として「PDLA(Plan・Do・Learn・Action)」というものがあります。仮に失敗したとしても、自分の中に学びとして得るものが必ずあります。それを皆にシェアできたら、それは組織として大きな財産になる。だから私は、従業員が失敗しても「よく失敗してくれた」と言います。ほかの人がその失敗を犯さないようにしてくれたからです。失敗は責められることではなく、褒められるべきことです。
一人ひとりがチャレンジして失敗し、いろいろなことを学んでいくからこそ、「適材適所」を実現できます。そのためにも、上からの指示を待つのではなく、皆がどうしたいのかを考え、それを声に出して言わなければならない。そういう風土に改革していきたいと考えています。
最後に、現在の日本企業の人事が抱えている課題とは何か、武田さんのお考えをお聞かせください。
広い意味での、ダイバーシティだと思います。従業員一人ひとりが自分の強みや持ち味を発揮しながら、働いていくにはどうすればいいのか。どういう制度やマネジメント、働き方が必要なのか。そのための仕組みをきちんと作り、その後も状況を見て常にリニューアルしていくことが重要だと思います。
昔「人事屋」と呼ばれていた人たちは、その真逆で、同じ動きをする人を量産するための制度・仕組みばかりを作っていました。しかし従業員には、一人ひとりの個性があります。人は個性が強みとして発揮されているときに、充実感や幸福感を感じます。それぞれの個性を生かしながら成果を上げていけるよう、サポートしていく仕組みをつくることが、これからの人事には求められると思います。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。