外部との交流が仕事の意義を見出し自信へとつながる
石坂産業を地域で愛される会社にした“考える”マネジメントとは
石坂産業株式会社 代表取締役
石坂典子さん
成長過程の失敗を、いかに譲ることができるか
社内研修制度である「石坂技塾」も、種まきのひとつなのでしょうか。
そうですね。石坂技塾では、まず社員に学びたいことをヒアリングします。すると、いろいろな声が上がってきます。業務に関することやコーヒーのいれ方など、レベルはさまざま。たくさんのリクエストから人気のあるものを中心に50ほどのテーマに絞り、講座を設けます。そして該当するテーマについて最もよく知っている社員に、講師を務めてもらう。ここが石坂技塾で最も大切にしているポイントです。
講師に選ばれた社員は、開講に向けて学びを深めていきます。得意分野についてブラッシュアップする、貴重な機会です。次に、60分間の講座をいかに充実させるかを考えます。「人前で話すなんてできない」と言う社員でも、強みをさらに引き上げることを目的に講師になることを依頼しています。講座を1回でもこなしたときのストレッチ幅は、普段とは比べものになりません。自信にもつながりますし、個の強みが明確になるのです。
普段の業務では、個の作業になりがちです。しかし組織で学ぶことで、新しい分野に興味を持つようになったり、自分を省みるようになったりします。今の組織に足りないものを考えるようになるなど、意欲の源泉にもなっています。個の力を組織の強さにつなげていく役割を、石坂技塾は担っていると思います。
石坂さんは、社員が意欲を見せたらすぐに反応する、というコミュニケーションを大切にしているそうですね。
経験に勝る成長機会は、なかなかないと思うんです。そのため、意欲を見せたらすぐにやってもらうのが原則です。もしチャレンジが成功体験になれば、本人にとっては大きな自信になりますから。しかし、大抵はうまくいきません。自発的に取り組んだことなので、失敗したときはしっかりと振り返り、次に向けて改善を重ねます。人に言われて始めた取り組みでは、こうはいきません。
実は昨日も、三富今昔村で夜祭りを開催しました。盆踊りをしたり出店を用意したりして、来場者に楽しんでもらうイベントです。この企画も社員から生まれたもので、私は一切口を出しません。しかし、開催によるリスクは会社が背負います。自分たちが「これだ!」と思ったことでも、反応が今ひとつだったり結果が望ましいものではなかったりすれば、確かにショックでしょう。すると、どうすればもっといいものになるのか、本気で考えるようになります。最初の頃など、企画書すらつくることができませんでしたが、徐々にブラッシュアップされていっています。実は昨日のイベントは反省点だらけだったのですが、5年後、10年後にはもっと完成度の高いイベントになっていると思います。
1回のチャレンジで判断せずに、長期的に見ることが大切なのですね。
出費の無駄ととるか、育成の投資と捉えるか。経営者は成長過程の失敗を、どれだけ譲れるかにかかっていると思います。私は良い会社、強い組織をつくりたいと常々思っています。それは、社員が段取りを組み立てながら、物事の達成に向けて自ら動いていける状態です。その役割を経営者が担っている限り、次の成長はないと思っています。夜祭りも外部のイベント会社に任せればもっと楽だし、それなりのものができるでしょう。しかし、それでは社員の成長を期待できません。社員がやりたいと思ったことを自分たちで動かしてみて、失敗も含めて何かしらの結果を得る。そのプロセスが重要なんです。
小さな失敗も重ねながら、少しずつ組織を成長させるのですね。
最近は、社内の課題にプロジェクトで取り組むスタイルを取り入れています。例えば営業上の課題であっても、各部門からメンバーを集めて「営業改善プロジェクト」を立ち上げます。横串を刺すことで、会社の課題が自分事になるんです。最初は、部署によってかなりの温度差が見られます。すると当該部署は、どうすれば周りを巻きこむことができるかを考え、他の部署の人にも分かるように説明するなど工夫を凝らします。すると、いろんな意見が出るようになる。一つの部署では視野狭窄(きょうさく)になりがちだけれど、思いもしなかったアイデアが生まれることもあります。
そもそも、会社の課題を「あの部署の問題だよね」と他人事にするのがいちばんよくない。同じ組織なのに連携がとれないことは弱さだと、私は考えています。それぞれの部門の仕事をよく知ることでつながりは強まりますし、解決できる問題もたくさんあるはず。そのため、部門横断で改善を図る時間をしっかりと確保します。またプロジェクトチームでは、役職は関係ありません。いろいろな立場や世代の社員が集まり、それぞれに発言の機会があることが大事です。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。